「急にアレを聞いてはいけない、コレを言ってはいけないと言われても…」
Dさん 46歳 商社勤務
団塊の世代ジュニアです。厳しい受験と就職活動を経て大手と言われる商社に入って、海外駐在経験をして本社に帰ってきました。妻は海外で覚えた料理の教室を開いています。娘も中学生で生意気盛りではありますが、まあかわいいもんですよ。
仕事はねぇ、バブル世代とゆとり世代の間に挟まれてなかなかラクではないですが…、仕事の内容より人間関係がどんどんむずかしくなってきました。昔は部下を連れて飲みに行ったりゴルフに行ったりしてチームの人間関係を固めたり、仕事中は見せない本音が聞けたりしましたけど、今は会社から「上長から会合や余暇の集まりに誘ってはいけない」っていうお達しが出てますからね。
部下から誘われれば行ってもいいけど、上司からはダメなんです。セクハラについても厳しいですよ。容姿について言及しない、プライベートについて尋ねない、二人きりにならない…ダメっていうけど「髪切ったね。似合うよ」くらい、普通に接してたら出てくるような話題じゃないです?ちょっとした軽口をコンプライアンス委員会に訴えられた同僚もいて、正直どうコミュニケーションをとったらいいのかよくわかりません。あらぬ疑いをかけられて将来を棒に振りたくないですからね。女性管理職を育てなければならないというミッションもありますから、こんなことではいけないと思うのですが…。
「女性がセクハラと感じる言動は“無意識に出る差別意識”からくるものが多いんです」
性別や学歴や年齢というわかりやすいフラグで人を判断してコミュニケーションが図られていた時代はある意味楽だったのかも知れませんね。でも、少し前までは男性だから女性だから、出身校がここだから、何歳になったらこうあるのが「普通」という思い込みがあっただけで、そもそも「普通」はなかった、というだけの話ではないでしょうか。
色々な思い込みがあるけれど、生物学上女性である人は、料理ができて当たり前、一歩引いて当たり前、何歳になったら結婚できてなければいけない、容姿がきれいでなければならない、などの枷を感じている人が多いと思います。でも、男性が「一家を養わなければならない」わけではないのと同じように、女性だからといって「料理が得意でなければならない」こともありません。結婚しなければならない理由もないし、子どもを産まなければならない理由もない。
女性が「ハラスメント」と感じる言動のほとんどは、こういう無意識の「ねばならない」に対する嫌悪感のように思います。「彼氏いるの?」「結婚は?」「太ったね(痩せたね)」「もう●歳なんだ」…日常的な会話にも思えるけれど、それを聞くこと自体がその奥に「そろそろ結婚するのが普通」「標準体型であるべき」「女性は若いほうがいい」という前提が隠れていますよね。
「女のくせにこんなこともできないのか」「女の子だからこの程度にしておこう」というような明確な差別や、「合意がないのに体に触れる」などのハラスメントはもってのほかです。でもそれだけではなくて、意識していないなんとなくの思い込みから差別も、やはりハラスメントです。
Dさんの心の奥にあるDさんなりの「常識」に差別がなければ、普通のコミュニケーションが「セクハラ」とは取られないと思いますよ。まずはいつも自分が「当たり前」と思っていたことを疑ってみることからはじめてみてはいかがでしょうか。
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Domani編集部
下河辺さやこ
雑誌Domani&WebDomani副編集長。AneCan、Oggi、Domani、Preciousなど仕事をする女性のためのファッション&美容編集者として女ゴコロを深掘りすること四半世紀。Amazonもなかった時代に入社3年目で出産後、連載「産みたい、でも…」などワーキングマザー向けのコンテンツの立ち上げにも携わる。instagram @sayako_shimokobe