息子が生まれ、キャリアを捨てさせられた
お話をうかがったのは…
星野環希さん(仮名・36歳)。埼玉県さいたま市出身・私立大学商学部卒業、派遣社員(年収300万円)。2歳年上の夫は(電子機器メーカー勤務・年収800万円)と結婚10年。神奈川県横浜市内の二世帯住宅に住む。子どもは9歳の男子。身長163cm、海外セレブ風のライフスタイルに憧れがあることが伝わる、モード系のファッションをしている。
環希さんは「優秀」と言われて育った。
「みんなが遊んでいるときも勉強して、夢中で就職して、そこそこの広告代理店に正社員採用されました。27歳のときに取引先の夫と結婚したまではよかったのですが、29歳で子供が生まれると、様子は一変。そもそも19時から会議がある会社だし、仕事が深夜まで及ぶこともある。それに、育児も家事も大変だし、息子と離れるのが辛くなって、退職。それには、夫から〝ママがそばにいてあげないと、息子が可哀想だ〟と言われた。キャリアを捨てさせられたんです」
仕事の〝仲間意識〟はドラッグに近い
息子が4歳の時に、社会復帰をする。
「育児も楽しいし、家事も達成感があるし、専業主婦としての人生もいいとは思ったけれど、物足りない。ママ友もできて、社交も楽しかった。でも、何かが違う。いろいろ考えたんだけれど、それは〝仲間意識〟だと思ったんです。お祭り騒ぎをして、苦楽を乗り越えて達成するあの感じ。それが家事や育児には少ない。あと、仲間意識というのかな?リーダーのところに集まって、俺たちはチーム、とかいって、頑張る感じ。あの仲間意識は、ドラッグに近い。息子が4歳の時に、〝もう一度チームで達成したい〟と思って、社会復帰をすることにしたんです」
子持ちで社会復帰するときのコツ
社会復帰は、派遣社員に登録することから始まった。先輩ママ友に聞いて、評判がいい会社の面接を受け、希望を伝えた。すると、1週間後にWeb制作会社に決まり、勤務を開始。企業のサイトを構築する会社だったので、前職の人脈やスキルを活かせた。復帰の滑り出しは好調だった。
「社会復帰がうまくいったのは、持てる力を出し惜しみしなかったから。人脈もスキルも持っているものは全部伝えて、できないことははっきりと言いました。あとは、子どもがいるけれど、できるだけ対応するという意思を伝えたこと。白黒をはっきり伝えて働いたから、契約更新を続けているんだと思います」
ずいぶん、私は安い女になったな…
子育てをしながら仕事をするのは楽なことばかりではない。好きな人がいたから続けられた。
「52歳のイケオジで、服にこだわりがある人だった。口数が少なくミステリアス。SNSのアカウントはあるけれど、ほぼ投稿していない。でも、最初に会ったときから〝この人、合う〟と思ったんです」
率先して彼のサポートをし、バレンタインチョコレートも渡し、出会いから1年半が経過した頃、飲みに誘われた。
「彼も既婚者で用心深いから、4人の飲み会だったのですが、帰宅の路線が同じだったんです。しかも、彼の家は私の最寄り駅より5つ先。仕事の話が盛り上がり、〝もう少し飲みましょうか〟と途中下車。テキトーなバーに入って30分くらい話し、〝今日、子どもは母が泊まりがけで見てくれているんです〟と言ったら、ホテルに誘われました。」
1年半、好意があると示し続け、子どもは母が見てると言われ、誘わない男はいないだろう。
「派遣社員とはいえ、濃密な仲間意識があったし、狭い空間で、額を突き合わせていますからね。結婚前までは、自分を高く売ってきたつもりが、1杯900円のジントニックで流され、1万3,000円のラブホに行く。安い女になったな、とどこか醒めて見ていました」
ラブホのお風呂に、かけ湯をしてから入る几帳面さに惹かれた
ホテルに入ってから、性急に求めてこなかった。
「来ちゃいましたね、と言って、私にキスをする。バスタブに湯を張り、温まってきたら、と促す。〝あ~、夫じゃない人とこんなところに来ているんだ〟と思いながら、洗面器がウチと同じニトリだとか思いながら、迷っていたら電気が消えて、彼が入ってきた」
きちんとかけ湯をしてから湯に入る。環希さんの手を取り、自分の胸に当て「僕もドキドキしている」と言う。朴訥で正直なところに心惹かれた。
「夫はいくら言ってもかけ湯をしないから、彼にグッときたんです。ベッドに行っても、私のマッサージをしつつ、徐々に核心に触れてくる。夫とは全然違うんです。行為も最高なんです。とにかく優しい」
会社の福利厚生施設に誘われて、気持ちが冷めた
関係が始まった頃は、好きになってはいけないと思っていたが、次第に飽きてきた。
「不倫が盛り上がるのは最初の3か月とよく聞きますが、ホントにそうなんですね。最初の頃は、彼のことを思い出して泣いていたし、会社で見かけてキュンとしていたのに、何回かホテルに行くうちに、新鮮味が薄れた。決定的に冷めたのは、彼が私を会社の福利厚生施設のリゾートマンションに誘ってきたとき。社員様はタダ同然で泊れます。でも、掃除も料理も自分たちでする。彼は家事が苦手なので、派遣社員の私を家政婦にしつつ、非日常のエッチも楽しみたいという魂胆が見えて、ムカついた。それと同時に、気持ちも冷めた」
環希さんは、今もこの会社で派遣社員として働いている。
「彼と初めてしたのが約2年前。結局、6回くらいしたかな。今はなんてことない仕事の仲間です。」
ダブル不倫はあとくされがない、と環希さんは言う。もちろん夫も周囲の同僚も気付いていない。不倫は心にしまった宝物なのか、開封したくない生ごみなのか、それは環希さんにしかわからない。
写真/(C)Shutterstock.com
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Writer&Editor
沢木 文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。お金、恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。