〝無駄なスキンケア〟をやめて、肌のターンオーバーを正常に戻そう!
形成外科医として10年以上“傷”という肌ダメージに向き合ってきた、恵比寿形成外科・美容クリニック院長の西嶌順子先生。これまで一般的なケガやヤケド、足の壊疽、乳房再建、美容医療…などの見た目の悩みや疾患を治療してきたなかで、ある因果関係に気づいたと言います。それは、同じ治療・施術を行っても傷が早くきれいに治る人がいる一方、治りが遅く痕が残りやすい人がいて、この差は“これまでの生活習慣”が大きく関わっているということ。
「もちろん傷の状態や年齢によって左右される部分はあります。ただ、間違ったスキンケアから皮膚トラブルを抱えている人、食事のバランスや生活習慣が乱れている人、ストレスフルな人は、傷の治りが遅くて痕が残りやすいことがわかりました。つまり、皮膚が良好にターンオーバーできていれば、傷は早くきれいに治る。これは美肌を作るためにも欠かせない条件なのです」(西嶌先生・以下「 」内同)
これまでもクリニックに訪れる人には、美肌の土台となる生活習慣がいかに大切かを説いてきたそうですが、診察中にすべてを伝えるのは難しかったと言います。「え〜面倒臭い」とか「それより、いますぐこのシミを取る薬がほしい」と言われるたび、歯痒かったそうです。
「いま、みなさんがよかれと信じ、行なっているスキンケアは、むしろ肌の調子を悪くさせている“無駄なスキンケア”になっているケースがほとんどです。こうした無駄なスキンケアをすっぱりやめて、肌のターンオーバーを正常に戻すことで、赤ちゃんのお肌のように化粧水を塗らなくても乾燥しない、健やかで美しい肌が手に入るんです」
西嶌先生によれば「クレンジング」や「毎日のシートパック」、「ながら美顔ローラー」「ケミカルで強い日焼け止め」なども“無駄なスキンケア”なのだそう。でもこれまで“アンチエイジングの常識”と信じていたあれこれを全部やめるのには少し抵抗が…。まず何をやめればいいのでしょうか?
「まず、クレンジングです。クレンジング剤に多く含まれる合成界面活性剤は、油汚れをきれいに落とす台所用洗剤と同じ作用を持っています。メイクや汚れとともに、皮脂膜や美肌菌、天然保湿因子、角質バリアまでもがオフされてしまうんです。クレンジングをやめただけでも肌はかなり蘇りますよ。
もちろん、クレンジングが必要なくらいの濃いメイクはやめて、石鹸で落とせるナチュラルメイクをすることも必要になります。
体を洗うのも、合成界面活性剤が使われたボディーソープはやめた方がいいですね。そもそもお湯だけで汗や埃は落ちているので、まじめに洗わなくても汚れは落ちています。年齢的に皮脂の分泌も落ちているところに洗いすぎると乾燥を招くので、ズボラくらいがちょうどいい、と心がけて。気になる箇所のみ、合成界面活性剤不使用の純石鹸を使うようにしましょう。くれぐれも、ゴシゴシ、摩擦は厳禁です」
美容作りの第一歩は足し算ではなく、引き算!?
また、これからの時期はとくに、強い日焼け止めもやめたほうがいい、とのこと。
「UVケアは1年中必要なスキンケアなのは間違いないのですが、日焼け止めだけに頼ろうとすると強力な日焼け止めを選ぶことになり、塗り直したりクレンジングを行ったりで肌への摩擦が度重なり、結果、肌ダメージが加速してしまうのです。
日傘や帽子、サングラス、UV加工のマスク、紫外線散乱剤と似たような効果のあるパウダーファンデーションなど、日焼け止めだけに頼らない紫外線対策を行い、日焼け止めは補助的に使うようにしましょう。日焼け止めはSPF30くらいのもので十分。紫外線吸収剤の入っていないもの、ノンケミカルのものを選ぶといいですよ」
これまでのスキンケアをやめていくだけなので、子育てに仕事に忙しいDomani世代にとっては時短になってとても魅力的! でも、結果が出ないとモチベーションが続かなかったり、不安を感じたりして元に戻ってしまいそう…。こうした“ズボラ美容”で美肌を手に入れるにはどのくらいの期間がかかるのでしょうか?
「それまでの間違ったスキンケアがどれだけ蓄積されてきたかによって、回復までにかかる時間も大きく変わります。スキンケアだけではなく、食生活や生活サイクルも変えないとうまくいかず、長い人は数年かかることも…。ただ、間違ったスキンケアをやめて、生活習慣全般を見直していけば、肌のターンオーバーのサイクル(40代は40日ほど)で実感されると思います。だから悲観しないでください。本当に何才からでも、正しいケアを行えば肌の細胞は甦りますから。自分の細胞が持っているポテンシャルを信じて欲しいですね。美容は足し算で考えるのではなく引き算を。そこから美肌作りが始まります」
最後に、こうした生活習慣の改善、土台作りがいかに重要かというエピソードを話してくれました。
「実は乾燥肌と敏感肌で悩む人の割合は、欧米や韓国と比べて、圧倒的に日本が多いんです。欧米人は日本人に比べて熱心なスキンケアをしない、つまり、あまりいじらないズボラ美容を実践しているからだと考えられます。では同じアジア人で、熱心にスキンケアをする韓国人がどうしてトラブルが少ないかというと、韓国の女性は医食同源の考えで食事への意識が高いからではないかと考えられています。キムチなどの発酵食品、無添加のものをたくさん食べていますから。
やはり、美しい肌を目指すなら、肌だけに焦点をあてるのは違うということ。理想的なのはインナーケアが7割、肌へのケアは3割。食事、睡眠、運動といったごく当たり前のことをきちんと行い、体と心のケアを習慣化してみてください」
奇しくもこのコロナ禍でリモートワークやマスク生活を実践している今日このごろ。外食も減ったので、生活習慣の改善にはもってこいのチャンス! もっと詳しく知りたいかたは、ぜひ西嶌先生の著書をチェックしてみてくださいね。
著/西嶌順子 1540円(税込) 宝島社
教えてもらったのは…
西嶌順子先生
形成外科専門医、助産師、保健師、看護師。「医療法人道心会 恵比寿形成外科・美容クリニック」院長。形成外科医として、がん研有明病院、筑波大学附属病院、新東京病院に勤務したのち現職。多くの女性が抱える特有の悩みについて、専門医の立場として、そして自身の経験に基づいた等身大の視点で情報を発信。親身な治療に定評がある。プライベートでは2児の母。
取材・文/辻本幸路
メイン・アイキャッチ画像(C)Shutterstock.com