ついつい言ってしまう「務めさせていただく」は正しい?
セレモニーなどの冒頭で司会者が必ずこのようなセリフを言いますね。「本日の司会は、私が務めさせていただきます」。皆さんも、様々なシチュエーションでこの「務めさせていただく」を使用しているかもしれません。しかし、この「務めさせていただく」とは、正しい日本語なのでしょうか。
「務める」と「させていただく」の意味
「務める」は動詞で、ある役割や任務を引き受けて、その仕事をするという意味です。
「させていただく」は「させてもらう」の謙譲語で、相手に許しを請うことによって、ある動作を遠慮しながら行う意のこと。「務めます」よりも「努めさせていただく」のほうが、へりくだった印象が強調されます。
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「させていただきます症候群」に要注意
「させていただきます症候群」という言葉を聞いたことがありますか?あらゆる言葉に「させていただきます」を付けることによって、丁寧な印象をつけようとする人のことです。
文化庁の敬語の指針によると、「〇〇させていただく」といった敬語の形式は、自分が行うことを、二つの条件を満たした場合に使います。
1. 相手側又は第三者の許可を受けて行う場合
2. そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合
つまり、相手に許しを得てから「務める」場合に、「務めさせていただく」と使うのは、誤りではありません。
参考:文化庁「敬語の指針」
文法的には間違いはないがまわりくどい
用法として間違ってはいないけれど、くどい例を見ていきましょう。たとえば相手が所有している本をコピーするために許可を求めるときの表現「コピーを取らせていただけますか」。文化庁の敬語指針によると、これは「させていただきます」の使用要件を満たしているため、問題ないようです。
それに対して、研究発表会などにおける冒頭の表現「それでは発表させていただきます」。これは用法として間違いではないのですが、上記1の条件「相手側又は第三者の許可を受けて行う場合」を満たしているかどうかが曖昧なため、大層な印象を与えてしまう恐れがあります。簡潔に「発表いたします」とする方が、すっきりした感じがするでしょう。