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2021.11.11

【人気作家・岸田奈美さん】家族の一大事も10年後には笑い話。「今」を乗り切る思考法

岸田奈美さんがつづる家族のエッセイは、笑えて、泣けて、考えさせられる珠玉のハプニング集。この1年で大きな変化のあった自身の「家族のかたち」を振り返りつつ、「書くこと」の本質に迫ります。

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エッセイは、「うれしいこと」「好きな気持ち」のおすそ分け

10年たてば、どんな苦労もみんな笑い話

ブログサービスnoteでの文章をきっかけに、2020年は初エッセイ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』が大ヒット。悲劇も喜劇も入り混じったエピソードには、読み手の日常のモヤモヤを晴らす不思議なパワーがあります。

そして先日、待望の最新刊『傘のさし方がわからない』が発売に。初エッセイの印税と全財産を使って、車いすユーザーの母のために外車・ボルボを買った話から始まり、祖母や弟に起こったあれこれまで。今回も、岸田さんと家族の日常の泣き笑いが、ぎゅっと凝縮されています。

「見て見ぬふりをしていた家族のしんどさが、この1年で一気に噴出しました。祖母はもの忘れがひどくなり、母は感染性心内膜炎の大手術、ダウン症の弟はグループホームに通い出し…。いろんな変化が起こり、私自身は福祉の手続きにかけずり回ったり、相変わらずトラブルに巻き込まれたり。さらには、30歳前後で体の不調が多くなったりも。

でも、将来起こるかもしれなかった大変なことが、“たまたま今起きているだけ”と考えればなんとかしのげます。それに、10年たってみたら、どれも笑い話になりますから。

もし、今がどうしても辛かったら、心の雨戸を全部閉めて、ただただ嵐が過ぎ去るのを待つのも、いいでしょう。乗り越えなくてもいい。しのげるだけでも、ずいぶん気持ちが軽くなると思いますよ」

育児も介護も他人に頼っていいんです

最新刊『傘のさし方がわからない』では、こうした出来事をきっかけに、「家族の未来」にも話が広がっているのが特徴です。

「自分が人にいちばん優しくできる距離を探ること。それが家族の本当の在り方だと思います。いつも寄り添って一緒にいるばかりじゃなく、ときには相手の問題に干渉しないこともあるし、育児も介護も他人に頼ってなんとかする。そこに後ろめたさを感じる必要はないと思います。

そういう私も、どうしてみんなみたいに幸せそうな家族じゃないんだろうと思ったこともありました。でも、幸せそうに見える人でも、それなりにいろいろ悩むことはあるはず。作家・トルストイは、小説『アンナ・カレーニナ』の冒頭で、『幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである』と書いています。そのとおりなんですよね」

岸田さんや家族に起こったことだけを見れば、とてつもない苦労があるはず。でも、これが岸田さんの文章を通すと、「泣き笑い」と大きなエネルギーに変わります。

「私のエッセイのスタイルは、しんどいこと、そこから出会えたうれしいこと・好きっていう気持ちを、丸ごとおすそ分けする感じです。弱音を吐くし、落ち込んだこともそのまま書きます。それは、家族のことで大変なとき、人に助けを求めるいい練習にもなりました」

「素直に人に助けを求める」才能があれば生きていける

「私にとって、書くことは呼吸をすることと同じ。辛いこともここで笑い飛ばしながら、これからも書き続けていくでしょう。お酒を飲みながら喋っている感じに近いです。

とはいっても、書くことにすごく才能があるというわけではありません。けれど、“ものを見る視点が面白い”と言われたことはあります。確かにそうかもしれません。そして、何かあったら素直に人に助けを求めることができる。書くネタがなくなったり、ド炎上して職を追われても、このふたつがあれば、いつどこに行っても、なんとかなるものです。

“面白い視点”というと難しく感じるかもしれないけれど、“心が楽になるようにものごとをとらえる”と置き換えては、どうでしょう。すぐにはできなくても、筋トレと同じで、繰り返すうちに、だれでも自然とできるようになりますよ」

そんな「視点」を身につけると同時に「書くこと」を目指している人にはこうアドバイス。

「起承転結をつけようとか、完璧なものを書こうとか、考えなくていいと思います。大事なのは感情。正直に感じたことを書いていければ、それだけで面白いし、たとえ人に読まれなくても自分の心の整理になりますよ」

Oggi.jpでは、「30代になってからの仕事」について岸田さんが語ります。こちらもあわせてご覧ください。

最新刊『傘のさし方がわからない』

岸田奈美さんがこの1年間でブログサービス「note」に書き綴ったエッセイから、多くの方に届けたい18本を厳選して掲載。ゲラゲラ笑えて、ときにしんみり、なんだか救われてしまう爆走エッセイ第2弾。
https://www.shogakukan.co.jp/books/09388834

 

撮影/黒石あみ 取材・文/南 ゆかり

作家

岸田奈美

きしだ・なみ/1991年生まれ、神戸市出身。家族構成は、下半身麻痺で車いすユーザーの母(ひろ実)と、生まれつきダウン症で知的障害のある弟(良太)。2020年9月に初著書『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』発売。最新刊は『傘のさし方がわからない』(ともに小学館)。
Note https://note.kishidanami.com/
Twitter https://twitter.com/namikishida

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