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EDUCATION 教育現場より

2022.04.08

野菜を好きになる保育園『ベジ・キッズ』 「母としての劣等感から企画が発足」担当者インタビュー

野菜を好きになる保育園『ベジ・キッズ』を立ち上げたカゴメの飛石希さんにインタビュー。

野菜を好きになる保育園『ベジ・キッズ』

時間に追われる働く母…朝起きたらすぐに朝食を食べ、支度をして子どもを園に送ります。おむつや着替えをセットして、急いで通勤電車に飛び乗り仕事へ。退勤後は園に迎えに行き、あわてて準備をして夕食。その次に後片付け、お風呂、持ち帰った仕事やメールの返信、寝かしつけが控えていると思うと、子どもに向かって「早くして!」「好き嫌いせず食べなさい」という言葉が出てしまい、自己嫌悪…これは多くの働く母が感じるもやもやした思いではないでしょうか。

今回のインタビューは野菜を好きになる保育園『ベジ・キッズ』を立ち上げた、カゴメの飛石希さんです。飛石さんは「育休復帰後の私がまさにそうでした。子どもと向き合う時間がなくて、“理想的なお母さんではない”という劣等感を抱えていました」と振り返ります。

野菜を好きになる保育園『ベジ・キッズ』の内装。赤やグリーンなど野菜の色をデザインに取り入れている。

飛石さんが企画から手がけている『ベジ・キッズ』は東京都中央区にあるカゴメが開設した保育園です。ここでは0~2歳児が、野菜を触ったり育てたりして、毎日生活をしています。ここに通う多くの子は、このプログラムにより、野菜に興味をもったり、好きになったりしているのです。

トマトジュースで知られるカゴメが保育園を作ったきっかけ

カゴメという会社名を聞いて、多くの人が連想するのは、トマトケチャップやトマトジュース、『野菜生活100』など、野菜を加工した商品です。食品メーカーのカゴメが、なぜ保育園を作ることになったのでしょうか。

「2017年に社内で新規事業アイデア募集の機会があり、その企画として実現しました。復帰後の私は、仕事と家事と育児に奮闘する毎日を送っていました。娘が1歳半ごろになると離乳食の時はよく食べていた野菜を嫌がるようになり、困ってしまって…。特に私は、野菜の会社カゴメに勤めていますからね(笑い)。

野菜好きになってもらうためには、野菜をおいしく調理すること、苦みを抑える切り方などの食に関する知識、子どもとじっくり向き合うことが必要で、これらは全部“時間”が必要でした。でも、“時間”に追われる日々の生活の中で、その”時間”をとることができないのです」(以下「」内、飛石さん)

そのとき、飛石さんは「自分でできることには限界がある。 娘が1日の大半を過ごす保育園が、子どもたちを野菜好きにしてくれたらどんなに助かるか」と考えたそう。

「野菜を好きになる保育園を作り、そこで得たノウハウを、同じような悩みを抱えている皆さまを助けるサービスに変えて提供したいと考えたのです」

野菜を好きになる保育園『ベジ・キッズ』で自分たちが育てているトマトの生長を見守る子どもたち。

「野菜」と五感を使ってじっくり向き合うことで、好奇心も刺激される。

野菜を好きになる保育園『ベジ・キッズ』では、キッチンでの調理の様子が、子どもたちの目線でも見えるように工夫がされている。


なぜ、子どもは野菜を嫌いになるのか

野菜嫌いな子どもは多いです。大人の中にも苦手意識を抱えている人はいます。なぜ、野菜を好きになった方がいいのでしょうか。

「私は人生の可能性や選択肢を広げることができると考えています。日本の食は野菜と深く関わっており、その味や香り、季節感を味わうことは生きる喜びにも結び付いています。なので『ベジ・キッズ』で大切にしているのは、“野菜を好きになること”なのです。この“野菜を好き”の意味は“野菜を好き嫌いせず食べること”ではありません。味や香りは嫌いでもいいので、野菜に親しみを持っていることが重要だと考えています」

野菜嫌いの人の共通点として、嗜好と合わない野菜を“体にいいから、食べなさい”と強制された経験があるというのはよく聞く話です。

「最初から野菜が嫌いな人は少ないのではと思います。私の娘も離乳食の時は、ほうれん草もナスもパクパク食べてくれていました。しかし、あるときから、何かをきっかけに苦手意識が芽生えてきたようで、苦手な野菜を避けるようになってしまったのです。苦手意識は周囲の環境などの影響もあると感じます。そうなってしまう前に、日常的に野菜に触れ、野菜に親しむことが大切だと感じ、野菜が身近にある保育園を目指したのです。

実際に、『ベジ・キッズ』に通われているお子様は、毎日野菜に触れる活動や野菜栽培、野菜たっぷりな献立など野菜を五感で経験し、“野菜が嫌いになる前に好きになるチャンス”が先に来ている環境ともいえます。

そんなお子様たちを見ていると、野菜に愛着がわき、親しみを持つ気持ちが育っているようにも感じます。これを言い換えれば、野菜が身近にあると、お子様たちがほっと心を落ち着けているともいえます。

このような環境にいると、野菜に愛着を持ち、食べることに対しても抵抗がなくなることも期待ができますよね」

野菜と触れ合うきっかけに野菜栽培を

飛石さんは「食育を難しく考えず、まずは野菜を身近な存在として親しんでほしいと思います」と続けます。

「カゴメは1964年から食育支援活動にも力を入れてています。約60年前“食育”という言葉が一般的になるずっと前から、子どもたちに対して、野菜を中心とした食育支援活動を行ってきました。これは、トマトの苗を自分たちで育てる、調理するといった実践的な内容から、野菜はどのように育てられ、私たちの食卓に運ばれ、どんな栄養があるのかなどの知識的な内容まで様々で、一口に食育といっても、多様なアプローチがあります」

カゴメの食育支援活動『りりこわくわくプログラム』でカゴメのトマトジュース用トマト『凛々子(りりこ)』の苗を育てる子どもたち。

カゴメの食育支援活動『おいしい!野菜チャレンジ』でオリジナルの野菜ジュースを作る子どもたち。

カゴメが約60年前から行っている様々な食育支援活動の知見は『ベジ・キッズ』にも生かされています。

この保育園に通う0~2歳の子どもたちはそれぞれの月例に合わせて、野菜を育てたり、トウモロコシの皮を剥いたり、いんげんの筋を取ったりして、野菜に親しんでいます。野菜との距離が近いのです。

もちろん、『ベジ・キッズ』の在園児たちは野菜が好き。2歳の子どもたちが好き嫌いせずに野菜をもりもりと食べている様子を見ていると、我が子を通わせたくなりますが、場所や人数の制限がある中で希望者全員が通えるわけではありません。

「開園から3年を迎えそういう声もいただくようになりました。カゴメがこれまで60年近くにわたって、蓄積した多くの保育園や幼稚園に提供した食育の知見や、『ベジ・キッズ』で得た「野菜を好きになる」ノウハウをお届けすることで、より多くのお子様が野菜好きになるきっかけになればと考え、ベジ・キッズ『考える力』プログラム『五感でいのちの不思議をまなぶ 野菜栽培キット』を今年2月に発売いたしました」

野菜栽培を通じた保育の可能性についてもご自身の経験から考えるようになったと言います。

「このプログラムの開発は、当時2歳の娘とベランダでトマト栽培をしたことがきっかけでした。植物の命の大切さを感じたり、水やりの習慣がつけばいいなと思ってのことでしたが、栽培が始まると“ママ~これみて! はっぱにけ(毛)がある”“はっぱが元気ないけれどどうして”などと、娘は毎日の植物の変化に自分で気づき、それを一生懸命私に教えてくれました。2歳の娘に発見する力や、考えようとする力が、こんなにもあるのだと驚きました。

野菜栽培は、観察力や思考力など、子どもの多様な認知の領域を育む可能性があると考えたのです」

ベジ・キッズ『考える力』プログラム『五感でいのちの不思議をまなぶ 野菜栽培キット』。内容は、高リコピントマトの苗×2、ミニパプリカの苗×2、・そのまま育てるトマトの土×4、栽培途中の果実に被せる誤飲防止ネット、栽培&保育ガイドブック、楽しみながら学べるコンテンツがセットになっている。

コロナ禍で、遠足や農業活動が中止され、自然に触れるチャンスは減りました。遊びながら学ぶ機会が減っている子どもたちに、野菜を育てる楽しさを教える栽培キットは、子どもたちの興味や関心につながり、協力して育てる楽しさを教えてくれそうです。

「ご家庭での栽培もいいですよ。当時、2歳の娘とベランダでトマト栽培をしたことで、娘の発達と成長を実感することができました。あの頃の私は、何よりも“時間”に追われており、日々で、娘に“早くして”としか言えていませんでした。朝の水やりの5分が親子タイムになり、“時間”と体験を共有する大切な思い出になっています。あれから5年、毎年春から夏にかけて娘と一緒にベランダでの野菜栽培を続けています」

親子の会話の機会を増やし、植物を育てる喜びを共に味わう。そして、植物が育つ様子を、実際に観て体験することは、たくさんの驚きと充実感を親子にもたらしてくれるはずです。

「こども成育デザイン」イベント報告

「こども成育デザイン」は、一般社団法人日本こども成育協会が普及に努めている考え方です。3月5日、オンラインで『ニューノーマルを生きる子どもへ 私たち大人は何をするべきか。「こども成育デザイン」という視点から各業界のトップランナーと語りつくす』というイベントが行われました。

1部のシンポジウムには映画監督・熊坂出さん、VR開発第一人者・水野拓宏さん、テレビ番組制作会社役員・大西隼さんが登壇。

シンポジウム登壇者の皆さま。左から、大西さん、熊坂さん、水野さん。

自粛や規制に強いられてきたここ2年間で、子どもたちを取り巻く成育環境も変化。リアルでの触れ合いや体験をする機会が減り、メディアを通してのバーチャル体験が増えることで、子どもたちの‟リアル”は思いもかけないスピードで変化しています。

「子どもたちはメディアを通して何を想像するのか?」「VRなどの先端的メディアは、子どもの生活や学習をどう変えるのか?」をテーマに議論しました。

心に残っているのは、VR(バーチャルリアリティ)の第一人者である水野拓宏さんの言葉です。

「自分で観て触って経験することは、現実への信頼度が高まること。これは子どもに限りませんが、何かを体験したときに、そこにいる全員で感想を共有し合うことは、判断力や理解力を育むことにもつながります」(水野さん)

野菜栽培に関わらず、親子で同じ経験をして、それについて語り合うことで、お互いの生きる力が高まっていくのではないでしょうか。

2部のトークセッションでには、「こども成育デザイン」の実践者として、今回、お話を伺ったカゴメ・飛石希さんが登壇。

「野菜を好きになる保育園ベジ・キッズー野菜栽培が保育にもたらす新しい可能性」の開発背景や思いについてお話をされていました。

『ベジ・キッズ』の生みの親・飛石希さん。

登壇する飛石さんは「カゴメは野菜の会社です。その社員である私の子どもは野菜好きに育ってほしい。日本人はまだまだ野菜が足りていません。社員として、親として野菜好きな人を増やしていくことに取り組んでいきます」と語りました。

飛石さんは、『ベジ・キッズ』を立ち上げた後、国家資格である保育士資格試験に挑み、合格。今後も野菜を好きになる活動を広めていきたいと語っていました。

カゴメ公式サイトはこちら
一般社団法人日本こども成育協会公式サイトはこちら
ベジ・キッズ『考える力』プログラム『五感でいのちの不思議をまなぶ 野菜栽培キット』公式サイトはこちら
ベジ・キッズ『考える力』プログラム『五感でいのちの不思議をまなぶ 野菜栽培キット』販売サイトはこちら

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