飛龍さんの役作りの方法を教えてください。
飛龍:作品と共演者と、(演出の)先生によっても毎回違うので、自分の固定したやり方というのはありません。まずは演出家の先生が頭の中で描かれている世界観を、いかに汲み取って忠実に表現するかということに重きを置いていたため、「自分はこうしたい」というところまで持っていくことがいちばん遅いタイプでした。
演出家の先生と自分の考えをミックスさせて作っていくんですね。
飛龍:はい。自分の中の引き出しを開け、そこからベストな状態に高めていくことは時間がかかりました。だからいつも心が柔軟でいられるように意識してはいたのですが、なかなか難しくて。自分しかできない芝居を見つけるまでに時間がかかり、見つけられない時もある。これじゃダメだ、と何度も壁にぶつかりました。
自分ひとりで演じるわけじゃなく、たくさんの人がいて初めて成立するのがタカラヅカの舞台です。その中での自分の役割を全うし、そこで埋もれずに花を咲かせるにはどうしたらいいんだろうと、俯瞰して見るようにはしていましたが…難しかったです。今でも正解はわかりません。例えば、『銀ちゃんの恋』は再演もので、かつてヤスを演じられた素晴らしい上級生がいらっしゃいます。そこから抜け出して自分なりのヤスを見つけられるまで、本当に難しかった。理想と、自分なりのものとの両方ができたらいいなと思っています。自分なりの軸を持ちつつ、柔らかくいたいですね。
写真をもっと見る現役時代に、もっとも楽しくうれしかったことはなんですか?
飛龍:どうしよう…難しい(笑)。忘れられないのは、タカラヅカ・スカイ・ステージ(宝塚歌劇専門のCSチャンネル)の望海風斗(のぞみ・ふうと)さんの『Brilliant Dreams +NEXT』に出させていただいたことです。スターさんに密着して1年間放送される番組で、望海さんが出演されると決まった時に、レギュラーとして鳳 真由(おおとり・まゆ)さんと私を指名してくださり、番組をご一緒させていただきました。そのお話をいただいた時があまりにもうれしくて、今でも忘れられないです。まだ研2くらいで、そんな下級生に声をかけてくださるとは思わなくて、本当にうれしかったですね。尊敬する大好きな望海さんと鳳さんと1年間もご一緒させていただけるなんて…、「この先3年くらいご飯を食べなくても生きていける」って思っていました(笑)。あの日は、稽古が終わった後に話しかけてくださって。最下級生だったのでなにもわからず大変でしたが、それ以上にうれしくてうれしくて、心にずっと残っています。
『Brilliant Dreams +NEXT』は紅 ゆずる(くれない・ゆずる)さんの回で天寿さんもご出演されていました。「紅5(くれないファイブ)」のグリーンで出られていて。自分が天寿さんと同じ番組に出られることもうれしかったです。
ブリドリネクストでは、後輩感がありながらも存在感を発揮していましたよね。それがとても面白かったです。
飛龍:おふたりが本当に優しくて面白くて。望海さんが「宝塚愛」をテーマにされていたから、私がタカラヅカオタクだというのをご存知で声をかけてくださったのだと思います。
名言が生まれた番組ですね(笑)
(※望海さんは学生時代につけていた日記の最後に「天海さんもそんなことある?」と書いていたことから、一躍名フレーズに)
飛龍:ですね(笑) その年度末、スカステにフレッシュスマイル賞に選んでいただき、その時のスカイ・ナビゲーターズの鳳さんからトロフィーを渡していただきました。本当に幸せな1年でした。
写真をもっと見る逆に苦しかったこと、大変だったことはなんですか?
飛龍:これもひとつに絞るのは大変なのですが…、『ポーの一族』の新人公演で、柚香 光(ゆずか・れい)さんが演じられたアラン・トワイライトの役をいただいた時です。自分の芸風はパッション系だと思っていた時に、儚い少年の役をいただくとは夢にも思ってなかったんです。自分とのギャップがものすごく大きくてどう取り組んでいいかもわからず、本当に苦労しました。明日から稽古場に行けないかもと思うほど極限の状態で毎日稽古していて、あの時間があったからこそ本番で見えた景色があり、それは一生忘れられないです。あの時に挫けた経験があるから今の私があると思っています。振り返ってみればそう言えるのですけれど…、当時は本当にキツかったですね。
同期の98期生はまだ現役の方がいらっしゃいます。
飛龍:思ったより上級生になっているんですよね。在団している同期の方が少なくなっています。卒業した今だからわかりますが、タカラジェンヌでい続けることは本当にすごいこと。花組は峰果とわ(みねか・とわ さん)ひとりになってしましましたが、みんなそれぞれの組でなくてはならない人になっているのがとても誇らしくてカッコいい。みんなが卒業するまで、ずっとエールを送り続けたいです。
退団後の初の舞台、音楽劇「李香蘭-花と華-」はいかがですか?
飛龍:男装の麗人、川島芳子役です。私がずっと培ってきた男役人生をのせつつ、新しい魅力を引き出せたらいいなと思っています。日中国交正常化50周年という記念すべき年度に、この舞台に立たせていただけることが光栄です。いまだ新型コロナウイルスの影響が大きい演劇界の中で作品を上演することは当たり前のことではないので、大切に大切に作り上げてきました。観に来てくださるお客さまが絶対に感動していただける作品になると思うから、私も頑張りたいですね。軍服を着られるのもすごくうれしくて。これからの自分の活動にもつなげられるように精進したいです。
*****
底抜けの明るさと陽のオーラをまとった飛龍さん。お話も明確で面白く、ついついいろいろうかがいたくなってしまう方でした。器用にこなしてしまうイメージがある中、人知れないところでたゆまぬ努力をされてこられて、「つかさってなんでもできるよね!」という頼れる男役になられたのだと思います。いろいろな想いを乗り越えてきたからこそ、太陽のような笑顔を生み出せるのだろうと感じました。
次回は飛龍さんのプライベートな部分に迫ります。お楽しみに!
撮影/大靏 円(昭和基地) ヘア&メイク/中西雄二(Sui) 構成・文/淡路裕子
日中国交正常化50周年 日中平和友好条約45周年記念公演
日中合作音楽劇「李香蘭−花と華−」
【作品紹介】
李香蘭。本名を山口淑子。1920年、中華民国奉天省で日本人の父・山口文雄と母・山口アイの間に生まれる。彼女は中国で生まれ育った日本人だった。
13歳の時、両親の友人であった李将軍の義理の娘として縁を結び、「李香蘭」という中国名を得る。その後、歌う中国人女優・李香蘭として思いがけずデビューすることになり、日中戦争時には満映(満州映画協会)の専属女優として『白蘭の歌』『支那の夜』『熱砂の誓ひ』など数多くの日本映画に出演。彼女が歌う『夜来香』『蘇州夜曲』などの歌はアジアで大ヒット。
世界大戦が開戦する直前の1941年には、日本劇場(日劇)で『歌ふ李香蘭』に出演。大勢の日本人ファンが大挙して押し寄せ、日劇の周囲を7周り半もの観客が取り巻き、大騒動となる人気ぶり。李香蘭は、戦争中の中国と日本を熱狂させたスターだった。
しかし戦争の激化とともに、対立を深める中国と日本。祖国と母国。愛する二つの国に挟まれ、その人気を戦争に利用され、自分が日本人であることを隠し続けることに苦悩する李香蘭。平和を願い続けた、歌姫の物語。
【キャスト&スタッフ】
出演:西内まりや、飛龍つかさ、玉置成実、黒崎真音、中村太郎、伊勢大貴、柳瀬大輔、良知真次、松本梨香、速水けんたろう、加藤靖久、明音亜弥、斉藤秀翼、安寿ミラ(特別出演)、王 淑麗(二胡奏者)
脚本・作詞:岡本貴也
演出・振付:良知真次
作曲:鎌田雅人
振付協力:名倉加代子
総合監修:横内謙介
【公演日程】
2023年1月13日(金)〜1月22日(日)
紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
▶︎公式サイト
俳優
飛龍つかさ
ひりゅう・つかさ/10月11日生まれ、東京都出身。2012年に98期生として宝塚歌劇団に入団。宙組大劇場公演『華やかなりし日々/クライマックス−Cry Max−』で初舞台を踏んだのち、組まわりを経て花組に配属。2013年『邪馬台国の風』で新人公演初主演。2019年バウホール公演ショーケース『Dream On!』にてメインキャストを務める。2022年『巡礼の年〜リスト・フェレンツ、魂の彷徨〜/Fashionable Empire』にて宝塚歌劇団を退団。日中合作音楽劇「李香蘭−花と華−」が退団後初舞台となる。
▶︎Instagram:@hiryu_tsukasa
▶︎Twitter:@hiryu_tsukasa