皆さんは「権化」という言葉、正しく読めますか? もともとは仏教にまつわる言葉ですが、近年では若者の間で「かわいいの権化」などと表現されることも。一体どのような意味があるのでしょうか。そこで本記事では、「権化」の意味や使い方、類語となる「化身」や英語表現を解説します。
「権化」とは?
「権化」の正しい読み方は「ごんげ」。「けんか」や「けんげ」と読んでしまいがちですが誤りです。意味を辞書で確認していきましょう。
1 仏・菩薩(ぼさつ)が人々を救済するために、この世に仮の姿となって現れること。また、その仮の姿。化現(けげん)。権現(ごんげん)。化身。⇔実化。
2 ある抽象的な特質が、具体的な姿をとって現れたかのように思える人やもの。「美の―」「悪の―」
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「権化」とは仏教にまつわる仏語で、「仏が人々を救うために、仮の姿となって現れること」を指します。「権」には、「かりそめの」という意味、「化」には、「化ける」「姿を変える」という意味です。
人間の姿になったり、ある時は犬や鳥などの動物に姿を変えて、困っている人々に救いの手を差し伸べます。日本最古の仏教説話集である『日本霊異記』には、仏教にまつわる不思議な話や教訓になる話が記されていますね。
このように、「権化」は本来「仏が仮の姿となって現れること」という意味ですが、現在では2番目の意味である、「ある抽象的な特質が、具体的な姿をとって現れたかのよう」という意味で用いられることが浸透しています。
使い方を例文でチェック!
「権化」という言葉を目にしたことはあるものの、実際にどう使えばいいか迷うところですよね。ここでは、先述した2つの意味の使い方を紹介します。
1:世間の人々は、その僧侶を仏の権化だと言った。
仏は、疫病や飢餓で苦しんでいる人々を、救う目的で現れると言われています。そのため、お経を唱えて病を治したり、しばらく雨が降っていなかった地域に雨を降らせるなどの奇跡を行なった僧侶は、人々から「まるで仏様の生まれ変わりのようだ」というようなニュアンスで、「仏の権化だ」と言われます。ひときわ徳の高い僧侶に対して、用いられることが多い表現です。
2:その女優は、まるで美の権化のようだと注目を集めている。
まるで、「美」という概念が人の形となって現れたかのように、美しい人のことを「美の権化」と呼びます。ヘアスタイルや容姿、服のセンスなど、どれをとっても非の打ち所がないくらい美しく、輝いているような美のカリスマが思い浮かびますね。ファッション誌などでは女性の憧れの象徴として、「美の女神(ミューズ)」と称されることも。
「かわいいの権化」「優しさの権化」という表現も
ネットやSNS上では、「かわいいの権化だよ」「マジで優しさの権化」などと表現されることも。意味合い的には、2番目の意味として、「美の権化」と同じような使い方をしますが、主に若者の会話の中で使われることがポイントです。
例えば、子供やペット、キャラクターなど、かわいくて仕方ないと思う存在に対して、「かわいいの権化」と言ったりします。
また、いつでも思いやりがあって優しいよねという意味で、「優しさの権化だよね」と表現することも。職場で気の利く人の振る舞いに感激したり、パートナーの優しい性格を褒めたりする時に使われることが多いでしょう。
類語や言い換え表現は?
「権化」には、「化身」や「権現」など同じ仏教にまつわる類語がいくつかあります。「化身」は、ほぼ同じ意味を持つ言い換え表現として用いられますが、「権現」には若干異なる意味合いも。早速2つの意味をチェックしていきましょう。
1:化身
「化身(けしん)」の意味は、以下のとおりです。
[名](スル)
1 仏語。世の人を救うために人の姿となって姿を現した仏。応身(おうじん)。
2 神仏などが姿を変えてこの世に現れること。また、そのもの。「神の―」「悪魔の―」
3 抽象的で無形の観念などが、形をとって現れたもの。「美の―」
4 歌舞伎で、化け物などのこと。また、それに扮(ふん)するときの隈取(くまど)り。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「化身」も、「権化」と同じく仏語で、「神仏が姿を変えて現れること」を表します。例えば、「真言宗の開祖・空海は、仏の化身として崇められた」というように使われますね。また、こちらも、「美の化身」というように、ある観念がそのまま形をとって現れたものという意味でも使用できます。
(例文)
・これすなわち化身の聖なり。
・その政治家は、欲の化身と呼べるかもしれない。
2:権現
「権現」は、「ごんげん」と読みます。意味は以下のとおりです。
1 仏・菩薩(ぼさつ)が人々を救うため、仮の姿をとって現れること。
2 仏・菩薩の垂迹(すいじゃく)として化身して現れた日本の神。本地垂迹説による。熊野権現・金毘羅(こんぴら)権現などの類。
3 仏・菩薩にならって称した神号。東照大権現(徳川家康)の類。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「権現」は、もともと仏教で用いられた言葉。ですが平安時代になると、日本に古くからいた神と結びつき、日本の神々は仏が衆生を救うため、仮に現れた姿(権現)であると考えられるようになったとか。春日権現(かすがごんげん)、熊野権現(くまのごんげん)などがその例です。
また、長きにわたる戦国時代を平定し、約265年間にわたる江戸時代の礎を築いた徳川家康は、まるで平和の世を作るために生まれてきた仏のようだと考えられ、「東照大権現」とも呼ばれています。
(例文)
・平和の世を作られた権現様には頭が上がりません。
・その僧侶は、まるで権現様のようだと称えられた。
英語表現は?
「権化」の英語表現には、キリスト教にまつわる「incarnation」と、「権化・化身」という意味を持つ「embodiment」があります。意味を確認していきましょう。
1:incarnation
日本語における「権化」や「化身」は、英語の「incarnation(インカーネーション)」に当たります。主に、キリスト教では「受肉(じゅにく)」「託身(たくしん)」などと呼ばれ、神が人類を救うために神の子イエスとなって現れたと考えられています。宗教が違っていても、同じような考え方があるのは興味深いですね。
2:embodiment
「embodiment」は、「具現化」「具象化」という意味のほか、「権化」「化身」などの意味もあります。思想や抽象的特質などが、具体的な形となって現れたものという意味です。「悪の化身(embodiment of evil)」「寛大さの化身(embodiment of generosity)」などと表現できますよ。
最後に
「権化」はもともと仏語で、「仏が人々を救済するために、姿を変えて現れること」を意味する言葉でした。しかし時が流れて現代の日常会話では、「美の権化」や「かわいいの権化」など、よりカジュアルな意味で使われるようになりました。時代に応じて、言葉の意味合いが変化していくことも、言葉の面白さの1つではないでしょうか?
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