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LIFESTYLE インタビュー

2024.08.06

空気階段・水川かたまりさん「俺はまだ、本気出してないだけ。根拠のない自信だけはありました」【連載/こじらせ男のひとりごと#17】

「こじらせ男」17人目は、キングオブコントの優勝コンビ・空気階段から、水川かたまりさんが登場! コントひと筋でやり抜く理由は? 淡々とした表面の下のアツいものとは?

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勉強もスポーツもできた少年が、大学入学して1年半の引きこもり

家族とも仲がよくて、勉強もスポーツもできた優等生が、こじれ始めたのは高校生のとき。うまくいかないのは、まだ本気を出してないだけ。自分ならやれるはず。静かに内なる信念を持ち続ける水川かたまりさんが、自身のこじらせ期を振り返ります。

語り/水川かたまり(空気階段)

サッカー以外にやる気を失い、受験勉強も出遅れて

両親は仲良し。夫婦げんかは見たことないし、父はいつも僕の遊び相手になってくれて、母は教育熱心。子どものころ、落ち着きのないところはあったけれど、ひねくれる要素はまったくないまま育ち、サッカーに熱中し、勉強もできて、そこそこモテていた僕。それが変わり始めたのは、高校に入ってからでした。

進学校に入学したものの、最初のテストで下から3番目という結果に。勉強ができるという僕のアイデンティティは崩れ、それからはもういいや!と破れかぶれになりました。まったく勉強しなくなって、サッカー部の仲間と遊んでばかり。女の子から告白されるということもあったけれど、メールのやりとりもうまくできず、何も返さないうちに終わることが続きました。

サッカー以外にやる気を失っていた僕は、受験勉強も出遅れました。志望校を出せば「現実を見ろ」と先生からバカにされ、そのときにようやく目を冷ましたんです。この俺に向かって何を言うんだ。俺が本気出したら、こんなもんじゃないぞと。

それから猛勉強をして、慶應義塾大学法学部に合格。でも本当の理由は、憧れの竹内由恵さん(当時・テレビ朝日アナウンサー)がかつて在籍していたから、なんですけどね。

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標準語でしゃべってる人はみんな嘘に聞こえました

頑張って入った大学ですが、まったくなじめませんでした。育った岡山の方言が抜けず、標準語を話せない。標準語でしゃべってる人はみんな嘘に聞こえたくらいで、もう人間不信です。話せないから友達もできません。サッカーやフットサルのサークルをのぞいてみたけれど、サークル特有のゆるい感じ、キャピキャピした感じが、僕には合いませんでした。すっかり居場所をなくした僕は、入学3か月でひとり暮らしの部屋から出なくなってしまいました。その上、入学して早々にホームシックになり、そのころから「早く結婚したい」という思いも強くなって。理想は、両親のような仲のいい夫婦。思えば、どこかで焦っていたのかもしれません。

そのころの僕を救ってくれたのは、爆笑問題のラジオ番組でした。そこからお笑いにはまり、漫才やお笑い番組のDVDを借りては見てを繰り返す毎日。見るのに飽きたら、図書館で本を借りて読んで。読み終わったらまたDVDを見て、ゲームをして。もちろん、大学に行かなかくなったことは、しばらく親には内緒でした。

その後大学を辞めて、お笑い芸人を目指してNSC (吉本総合芸能学院)に入るのですが、そのころもまだ暗かった。1年半、他人とコミュニケーションを取ってなかったので、周囲の「明るい人」がただただまぶしかったのです。でも、少し経つと「ただ明るい人」は脱落してやめていくこともわかりました。そうはなりたくない思いもあり、低いテンションのまま無理に明るくすることはやめました。

受け入れられないまま5~6年

ただ、そんな僕らの芸は、当時よく出ていた無限大ホールの若い女性客には、まったく受け入れられませんでした。まったくウケないし、そもそも求められない。そんな状況が5~6年は続いたんじゃないかな。そのときも、心のどこかで自分に言ってました。まだまだ。俺が本気出したら、こんなもんじゃない。

どうしてそう思えるようになったかというと、小さいころから親に怒られたことがなく、褒められて育ったことが大きいのだと思います。大人になっても仕送りは途絶えることがなく、どん底まで落ちることもなく、悲壮感はそれほどなかった。いいのか、悪いのか、「なんとかなる」自信だけはついていったのです。

コンビ結成9年目で「キングオブコント」に優勝し、環境は大きく変わりましたが、ずっとコントだけでいくという僕らコンビのやり方は、変わっていません。NSCに通っていたころ、みんなが漫才とコントの両方をやるなら、どっちかのスペシャリストになろうと、逆張りみたいな精神でそうなりました。カッコつけてたんです。でも、結局それがよかったのかな。

そして、メンタルが折れそうになったら、近くの川を見て、心を落ち着かせて。引っ越しをするときは、昔から川の近くばかりを選んできました。

プロポーズ前の1か月、ネットカフェ通い

2年前に結婚し、今年は子どもも生まれました。僕が何日か家をあけて久しぶりに帰ると、赤ちゃんは「誰だろうこの人」みたいな顔で見てくる。それもまあ幸せなものですが、あ、こじらせのエピソードですよね。妻にプロポーズするとき、折り紙で桜の花束を作ったんですけどね。家で作ったら彼女にバレそうなので、毎晩こっそりネットカフェに行って、個室で1時間ぐらい作って、駅のコインロッカーに入れて帰って。それを毎日繰り返すこと1か月。ずいぶんお金かっちゃいました(笑)。

そして僕自身はといえば、サッカー好きを生かして海外サッカー番組をやってみたいし、流行語大賞だって取りたいし、ダンディな大人にも憧れます。そして、どれも無理じゃないと思っています。だって、僕が本気を出したらこんなもんじゃないんだから。根拠はないですけど。(おわり)

芸人

水川かたまり

1990年生まれ。岡山県出身。2012年、相方の鈴木もぐらとコンビ「空気階段」を結成。キングオブコント2021年優勝。コントでの演技力の高さが評価され、俳優や声優など役者の世界でも活躍している。主な出演作は、ドラマ『罠の戦争』『とりあえずカンパイしませんか?』『妻、小学生になる。』など。2022年にはBLドラマ『君のことだけ見ていたい』の脚本を手掛ける。TBSラジオ『空気階段の踊り場』は毎週月曜日24:00~25:00放送中。
○公式X:空気階段 水川かたまり
○YouTube:空気階段チャンネル

 


撮影協力/ラドリオ
撮影/高木亜麗
取材・文/南 ゆかり

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