幸福度ランキング上位の北欧。日本もマネしたら幸福になれる?
ミレニアルズ(※1)研究の一環で、9月に北欧のデンマークとスウェーデンに行ってきました。デンマークの人口は約570万人、スウェーデンでも約990万人。日本からの距離も遠く、日本企業のマーケットとしてはメジャーではありませんが、トレンド発信地として影響力があります。ご存知のとおり、北欧は〝高負担・高福祉社会〞。税金はとても高いけれど、社会保障が充実していて安心感がある。国連が実施する幸福度ランキングの上位は、ほぼ北欧諸国です(ちなみに、日本は今年51位)。ほかに、教育やデザインの領域でも注目されていますよね。また、「世界のベストレストラン50」で4度もトップを獲得した、新北欧料理レストラン「noma(ノーマ)」の登場で、ここ数年は飲食業界でも存在感が大きくなっています。
たしかに多くの面で優れている北欧ですが、日本が同じような社会になったら若者の幸福度は上がるのでしょうか。現地の多くの若者に話を聞いてみて思うのは、日本は北欧を美化しすぎている部分もあるのではないか、ということです。
大学まで授業料は無料だし、医療費も実質タダだけど…
大学まで無料で均質な教育を受けられ、たとえ仕事をクビになっても国の制度に守られて食べていける…それには若者たちは満足しています。ところがよくよく話を聞いてみると、それは消極的な満足。税金が高くて、アルバイトで8万円稼いでもいろいろ引かれて2〜3万円くらいになってしまうんです。外食は高くて滅多にできないので、男の子も女の子も日々自炊をして、デートと言っても森を散歩して過ごすわけです。インスタを見てみると、森やキノコ、たまに気合を入れた手作り料理、年に1回のヨーロッパ旅行の写真を小分けにアップして引っ張る…といった具合。日本の典型的な学生のインスタを見せると、ナイトプールもあれば、ディズニーランドもあり、「鳥貴族」のような手ごろな居酒屋から、おしゃれなカフェまで多種多様で、「夢の国みたい!この子たちはお金持ちなの?」とあちこちで聞かれました。
医療費は実質タダですが、みんなが気軽に受けられる分、国の予算を圧迫してしまい、医師の給料やサービスレベルは決して高くない。ちゃんとした医療を受けたい人は、外国に行きます。さらには、IKEAがオランダに本社を移転させたように、本当に優秀な企業や人は、自ずともっと稼ぎたいと思って税率が低い国外に出ていくという現実も。
必然的に、残っているのは保守的な人が多くなります。「友達がいて、家族がいて、自転車でどこにも行けるし、森もあるし、地元がいちばんだよ」って、どうも既視感があるなと思ったら、日本の〝マイルドヤンキー(※2)〞の子たちにインタビューしたときの印象と似ています。北欧のような盤石な社会的セーフティネットがあるわけではないけれど、地方にいると地縁があって、がむしゃらに働かなくても生きていけそうだと思える。その結果、あまり上昇志向が育たないという流れはほぼ同じです。
「ヒュッゲ」と聞けばオシャレだけど、やってることは、実は○○と一緒!?
近年、デンマーク発の「ヒュッゲ」というライフスタイルが、世界のブームになっています。これは、自分の「居心地のいい時間や空間」を表す概念。毎日時間に追われてバリバリ働いてきた人たちにとっては素敵に見えるかもしれませんが、具体的に何かと言えば、彼氏と一緒に料理をつくるとか、好きなものに囲まれた部屋で友達とNetflixを見るとかそういう過ごし方です。これって日本のマイルドヤンキー層が、すでにやっていることなんですよね。
不安がない社会をつくることは人々の満足度を上げます。一方で、社会保障というセーフティネットを得るために、毎日家と会社の往復だけになる生活。何かを得れば、何かを失うわけで、1億3000万人が住み、格安の居酒屋を知ってしまった日本には合わないことも多い。北欧の施策やスタイルに盲目的に憧れるのではなく、良さも悪さも知った上で選択していかなくてはと思いました。
※1 1980年ごろから2000年代初めに生まれた世代を指し、中核は現在の20代。10代からスマホを持ち、インターネットに慣れ親しんだ最初の世代。
※2 地元に根ざし、同年代の友人や家族との仲間意識を基盤とした生活を志向する若者。
力を引き出す/¥800 講談社青山学院大学陸上競技部の原晋監督との共著。育て方しだいで、すごい能力を発揮するゆとり世代を見抜き、彼らを伸ばすヒントが見つかる。
マーケティングアナリスト
原田曜平
1977年生まれ。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。学生や20代の社会人と共に、若者の消費行動について調査・分析を行う。マーケッターの立場から現代を読み解き、テレビ番組『ZIP!』(日本テレビ)、『新・情報7DAYSニュースキャスター』(TBS)などに出演。
Domani2018年1月号 新Domaniジャーナル「後輩世代のトリセツ」 より
本誌取材時スタッフ:構成/佐藤久美子