少女になりすました女優が見知らぬ男性とSNSで…
本作は、インターネット上での子どもへの性的虐待がテーマなのですが、その撮影方法が、日本ではちょっと考えられないというか。幼い顔立ちの成人した無名女優3名を12歳の少女に仕立て、SNS上で偽のアカウントで男性とコミュニケーションを取るという、衝撃の手法なんです!巨大な撮影スタジオに子ども部屋(めちゃめちゃリアル)をつくり、女優たちはそこで男性たちとチャット。その後、数名の男性たちとは実際にカフェで会うまでに発展していくのですが、そこにも隠しカメラをいくつも仕込んだりと、日本でいうところの、大がかりなドッキリ番組のような感じで、映画は進んでいきます。
また製作にあたり、出演者のメンタルケア用に、精神科医や性科学者、弁護士や警備員といった専門家をつけているというのもすごい。ただ作品を観るにつれ、あまりの内容に「そりゃそうだ」と、妙に納得もしてしまうのですが。
想像を絶する衝撃的な展開に、思わずドン引き
10日間の撮影で、コンタクトを取ってきた男性は、なんと2,458人。アカウントを公開したとたんに大勢の男性が、彼女たちが12歳と知りながらも、ありとあらゆる卑猥な言葉や画像、動画を浴びせていく姿は、正直ドン引きでした。なかには70代もいたな……。そして男性は、特にさびしい環境にいるわけでもないというのが、これまた恐ろしく、社会的地位も家族もある、いわゆる「普通」っぽい人が続々と現れ、気持ちの悪いことをしていくのです。実験映画なので、何が起こるかは誰もわからないまま撮影は進んでいきますが、「事実は小説よりも奇なり」とはよく言ったもの。「えーーーっ!」みたいなことが、どんどん起こるわけです。
大人には予想できない危険に子どもは晒されている
インターネットが生活の中心になりつつある時代、大人には到底想像し難い危険が、子どものすぐ隣にあるという現実。そして子どもたちは全然守られていない状況という恐怖。日を追うごとに女優も滅入ってきますが、スタッフも然り。本当に、できれば一生知らなくていい人間の裏の部分がどんどん表に出てきて、「本当にドキュメンタリーなの!?」と思うくらいに怒涛の展開になっていくんです。途中でひとり、まともな青年が登場するのですが、「まともである」ことにみんなが涙する、というシーンも、異常と言えば異常。それだけ出演者もスタッフも、極限状態だったのではないでしょうか。
がしかし、ただ黙って現実を捉えるだけでなく、問題解決へ向けて、製作チームが一丸となる姿には、心動かされるものが。最終的に、チェコでは警察が動くまでに発展したという本作。非常に重いテーマですし、観る人も選びそうですが、それでも現代において無視できない大きな問題が、ここには描かれていると思います。個人的には、加害者にならないようにと、若い世代にもおすすめしたい一本。また実は、SNSの運営側にも大きな責任があることも、今後の課題ではないでしょうか。インターネットから子どもの未来をどう守っていくべきか、そして子どもたちにも危険をどう伝えるか……104分、衝撃は大きいですが、意義のある作品なのは間違いありません。
『SNS -少女たちの10日間-』
©️2020 Hypermarket Film,Czech Television,Peter Kerekes,Radio and Television of Slovakia,Helium Film All Rights Reserved.
2021年4月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
【2020年/チェコ/104分/R-15】
公式HP:www.hark3.com/sns-10days
エディター
湯口かおり
ゆぐちかおり/ファッション誌の編集プロダクションに勤務ののち、フリーエディターに。現在はファッションのみならず、カルチャー、日本の伝統文化など、ジャンルレスで雑誌やウェブメディアで活動中。