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2021.10.10

「キラキラしなきゃ」の呪縛を抜けて一歩引いてみたら、後輩たちと絆を深められるように|アルページュ野口麻衣子さん・インタビュー前編

大人の女性に向けて数々の人気ブランドを手がけるアルページュ。代表取締役を務める野口麻衣子さんに、40代、働く二児の母として迎えたキャリアの現在地をうかがうインタビュー。前編は、マネジメント経験ゼロから失敗を通じてたどり着いたリーダーの心得。悩める管理職の心に沁みるヒントが満載です!

「辞めたい」というスタッフを、電話口で引き留めながら帰宅した毎日

――― 野口さんは、ご両親が創業されたアパレル企業・アルページュで働き始めて20年あまり。当時は売上10億円、社員数10名ほどだったところから、現在では売上も社員数も10倍以上に会社が成長しています。この間、ご自身にとって印象的な転機はありますか?

入社してまもなく業態変更した時期でしょうか。周りの卸売りだけをやっている会社がバタバタと倒産してしまったことから、自分たちの手で企画・デザイン・販売までを一貫して行う、ブランドビジネスをする会社になろうと。今や当たり前となったビジネスモデルなのですが、まだ転換期で業界でも手探りで始めたころです。だれも正解がわからず、試行錯誤していましたね。

晴れて『Apuweiser-riche(アプワイザー・リッシェ)』の1号店を出しましたが、30分、1時間接客しても1点も売れないときもありましたし、「聞いたことのないブランドだから」とスタッフも集まらなくて。当時は新しいブランドを認知してもらうのは難しく、ファッション誌に取り上げていただいたことが後押しとなり、少しずつ‶ブランド〟になっていけました。

――― 20代半ばで店舗のマネジメントを担うのは、なかなか責任が重いですよね。

はい、いちばんつらかったのはいつかと聞かれたら「26、27歳」と即答しています(笑)。帰宅するときも、携帯の電話口で「辞めたい」と訴えるスタッフを引き留めながら夜道を歩く毎日。ファッションブランドの売り場といえばヒール靴がマストだった時代で、さらにセール期なんて尋常じゃない物量になる戦場です。服が好きで入社してくれても、体力的にきつくて人が定着しないんですね。「ここまで育て上げたのに、また辞めちゃった…」という落胆の日々でした。

振り返ると、20代半ばの私はマネジメント経験もなく、血気盛んで自分のことしか考えていなくて。「なんとしてでも売上を上げたい」が最優先になると、みんな「この人みたいには働けない」と思ってしまう。そういう失敗があるので、仕事も子育ても自分ひとりじゃできないんだからとにかくみんなに手伝ってもらう…というスタイルに変わっていきました。

――― メディアの側として接する私たちには、いつも明るくお仕事をされているように見えていましたが、陰ではそんなご苦労があったとは!

マスト感が強かったんです。‶キラキラ楽しそうにしていないといけない〟とか、こうでなきゃいけないと思う部分が多かった。でも、その当時から私を知っているメンバーには、「現場に入り込んでいたときは、とにかく恐かった」と言われます(笑)。

ピリピリしていた自分をやわらげることができたのは、企画や販売から少し引いて研修などの人材育成業務にまわったとき。若い後輩たちの「自分は、こんなに頑張っているのに全然評価されていない」という思いが伝わってきたんです。私自身、20代のころは同じように思っていたのでその経験を話してみると、彼女たちの気持ちもラクになったみたいで。「野口さんって、実はそんなに恐くないかも?」と思ってもらえたのか、絆をもち始めることができ、徐々に離職率が下がっていきましたね。

すぐに答えが出なくてもいい。まずは自分から球を投げる

――― 2017年、42歳で先代から引き継いで、代表取締役に就任されています。「仕事もみんなに手伝ってもらう」というお話がありましたが、社長になってからも続けているスタイルなのでしょうか?

社長業は決断の連続で、短時間で正解に近い選択にたどりつく必要があります。そうすると、抱えているだけでも重いんですよね。私の場合は2日くらいで許容量からあふれてしまうので、今何を考えているのか、何でつまずいているのか、日頃からため込まずに出すようにしています。

たとえば、社員たちに「今だったら、インスタライブをどうやったら売れると思う?」と問いかけてみる。投げかけると、「一回考えてみよう」と思うし、「社長はこういうことで困ってるんだ」とわかる。その瞬間は答えが出なくても、1週間後くらいにみんなで相談して「先日こんな話をしていたので、代案を考えてみたんです」とアイデアを出してきてくれるんです。まずはこちらから球を投げておくことが大事なんだなと。

――― 採用ホームページのメッセージで「『私』を主語に生きていける人になってほしい」という言葉が印象的でした。問いを投げかけるのは、部下のみなさんに自分なりの答えを見つけてほしいという思いもあるのでしょうか?

人って、自分ごとじゃないと本気にならないんですよね。経費の使い方ひとつとっても、自分のお金なら電気をつけっぱなしにしたりしないけれど、会社のお金だと思うとそのままにしてしまったり。大切な彼氏が来ると思えば一生懸命掃除をするけれど、会社でゴミが落ちていても拾わないとか。

雑誌や映画でも、‶見たい〟と思うか‶見なきゃ〟と思うかでも、同じ作品でも受け止め方が変わってしまう。「私はこうしたい」と思いながら物事に向き合ってもらえたら、と思っています。

問題が起きたら、個人ではなくチームとしての原因を探る

――― 取材中に野口さんのお仕事ぶりをのぞかせていただきましたが、社長自ら商品の確認をされていて驚きました。全アイテムに目を通していらっしゃるんでしょうか?

ざっくりとではありますが、デザインとか品質管理とか発注数は見るようにしています。ザーッと目を通していく中でもふと引っかかる瞬間があるので、ポイントは外さないように意識しながら。突き詰めているときほど視野が狭くなってしまうので、一回距離をとったり寝かせたり、そのほうがどうすればより良くなるのかフッと答えが出ることが多いんです。

――― 多くのスタッフの方を抱える中で、何か失敗やトラブルが起きたときに大事にされていることはありますか?

スタッフはオフィスには50人ほど、販売のメンバーも含めると300人近く。個人起因にしてしまうと次にまた同じことが起きてしまうので、チームとして何が原因だったのか探るようにしています。あとは、いつもと違うことが起きたら、いいことでも悪いことでもとにかく報告してもらう。対面でも社内のコミュニケーションツールでも電話でもOKです。その良し悪しを評価すると、報告してもらえなくなってしまうので注意しています。

やはりコロナの影響で毎日変化がありまして。それを見逃してしまうと、大きな影響を及ぼしてしまう。いちばん避けたいのは、熟練した人たちが「自分たちで解決しよう」と思って抱えている間に悪化してしまうこと。まずは報告をもらえたら、プロセスは現場の意志を尊重しつつ、要所でサポートに入れますから。

インタビュー後編のテーマは、時間づくりや人間関係の工夫です。(つづく)

株式会社アルページュ 代表取締役社長

野口麻衣子(のぐち・まいこ)

新卒で入社したアパレル企業で1年働いたのち、両親が創業したアルページュに入社。現在の『アプワイザーリッシェ』の前身ブランド立ち上げに携わり、マンションの一室から始まった同社が、5ブランド・300名近いスタッフを抱える企業に成長する一翼を担う。2008年に第1子、2016年に第2子を出産。2017年より現職。2020年には、心地よさをキーワードにした新ブランド「カデュネ(CADUNE)」をスタート。Instagram:@noguchimaiko125

撮影/眞板由起 構成/佐藤久美子

 

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