「行き掛けの駄賃」とは事のついでに他の事をすること
「行き掛けの駄賃」は「ゆきがけのだちん」と読み、本来の目的の用事のついでに他の事で利益を得ることをあらわします。読み方は「いきがけのだちん」でも間違いではありません。
「行き掛け」はどこかへ行く途中、「駄賃」は駄馬といわれる荷物を背に乗せ運ぶ馬を使って人や物を運ぶときにかかる運賃のこと。現在では「お駄賃」として、お使いをした子どもにあげるご褒美の小遣いの意味で使われることがほとんどです。
辞書に掲載されている意味も確認しておきましょう。
【行き掛けの駄賃:ゆきがけのだちん】
馬子が問屋に荷物を取りに行く途中に、他の荷物を運んで得る駄賃。転じて、事のついでに他の事をすること。いきがけの駄賃。
(引用:小学館『デジタル大辞泉』より)
ついでに利益を得るのがポイント
「行き掛けの駄賃」の意味を理解する上では、「ついでに利益を得る」というポイントを押さえておきましょう。本来の目的に比べるとやや小さな用事などをイメージすると良いでしょう。
「行き掛け」にはどこかへいく途中という意味ですが、そこから転じて「ついでに」おこなわれる「ちょっとした」用事というニュアンスで使います。つまり目的地に行く途中に本来の目的と同レベルの用事を済ませた場合は、「行き掛けの駄賃」とは少し意味が異なるというわけです。
また「駄賃」という言葉の意味を踏まえると、ついでに行うのはできてラッキーなことを指しています。ついでに行うのが苦痛なことであると、本来の意味から少しずれてしまうと考えてください。
悪事について使うケースも
日常的な会話においては、悪事のついでにさらに悪事を働くといった意味で使うこともあります。たとえば次のような使い方をします。
例文
・彼は激昂して殴りかかってきたが、行き掛けの駄賃といわんばかりに怒りに任せてテーブルの上のものをあちこちに投げつけた。
・泥棒に金庫の中に全財産を盗まれた。行き掛けの駄賃で、飾っていた骨董品も盗まれたのには腹が立つ。
由来は「馬子」による小遣い稼ぎ
「行き掛けの駄賃」はもともと馬子と呼ばれる馬で荷物を運ぶ人が、問屋に荷物を取りに行く途中に別の荷物を運んで得るお金のことをあらわしていました。
問屋に荷物をとりに行くまでは、通常であれば馬の背中に運ぶ荷物はありません。その状態ではただ馬を歩かせることになります。もったいないので問屋に行く道中も有効活用しようと、本来の仕事とは別の荷物などの運搬を引受けたというわけです。
転じて、「ついでに他の事をすること」を意味するようになりました。
【例文付き】「行き掛けの駄賃」の使い方
「行き掛けの駄賃」は、もともとの目的以外にちょっとした他の事をするという意味で使います。「ついでのちょっとした」事をするという点がポイントです。「行き掛けの駄賃」を使った例文を挙げますので、実際の使い方を確認してみてください。
例文
・来春発売予定の商材の商談をしていたら、行き掛けの駄賃で別の取引の話もまとまった。
・潮干狩りに行ったら、偶然ワカメも採れた。まさに行き掛けの駄賃だ。
取引先との商談などにおいて、「行き掛けの駄賃」を使う際には注意が必要です。自社に戻り「行き掛けの駄賃で別の案件も決まった」と報告するのは問題ないですが、先方に言うのは避けましょう。前述の通り「駄賃」は子どもへのお駄賃という意味があるため、軽んじられていると捉えられてしまう可能性があります。
「行き掛けの駄賃」と似た言葉
「行き掛けの駄賃」には、似たような言葉がいくつかあります。これらを知ることで、言葉の意味に対する理解も深まるでしょう。ここでは、「行き掛けの駄賃」に似た言葉ついて、次の3つをご紹介します。意味や言葉の成り立ち、使い方などについてそれぞれ見ていきましょう。
朝駆けの駄賃(あさがけのだちん)
「朝駆けの駄賃」は、朝の馬は元気よく走れるため、少しくらい思い荷物でもたやすく運べることをあらわす言葉です。
午前中は仕事がはかどるという意味もあります。「彼女にとってこのくらいのことは朝駆けの駄賃だ」「朝駆けの駄賃という言葉どおり、午前中は仕事の効率が上がる」というように使います。
帰り掛けの駄賃(かえりがけのだちん)
「行き掛けの駄賃」を元にした造語で「帰り掛けの駄賃」という言葉もあることを覚えておきましょう。「行き掛け」は目的地に向かう途中の往路であり、「帰り掛け」は帰り道のことを指します。そのため、もともとの目的を果たした帰り道に、ついでに他の事をすることを「帰り掛けの駄賃」と呼ぶこともあるようです。
ただし、「行き掛けの駄賃」は行く途中の出来事に限定しているわけではありません。ついでに、あるいはちょっとした事で利益を得るという意味で使います。そのため帰りがけの事でも「行き掛けの駄賃」と呼ぶことが可能です。
一石二鳥(いっせきにちょう)
「一石二鳥」は一つの行動によって同時に2つの成果を得ることのたとえです。1つの石で2羽の鳥をしとめることから転じた言葉で、もともとはイギリスのことわざでした。はじめは「一石を以て二鳥を殺す」と訳されていましたが、大正時代に短縮され四字熟語の形になりました。
「大掃除で部屋が綺麗になった上にさがしていた時計が出てきて、一石二鳥だ」というように使います。
「行き掛けの駄賃」を理解し使い方をマスターしよう
「行き掛けの駄賃」は「ゆきがけのだちん」と読み、ついでに他の事をすることを指す言葉です。馬子が馬をひいて問屋に荷物を取りに行く途中に、他の荷物を運んで得る利益から転じたといわれています。
「行き掛けの駄賃」は、本来の目的のついでのちょっとした事に使うと良いでしょう。ついでとはいえないくらいのレベルの事や苦痛を伴うような事の表現として使うと、本来の意味からずれてしまうため注意が必要です。「行き掛けの駄賃」の意味や使い方をマスターし、ぜひ使いこなしてみてください。
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