フランス文学でも描写される「不足思考」
フランスの作家モーパッサンの作品に「紐(ひも)」という短編がある。
まじめな実業家がひょんなことから、無実の罪を着せられる。道ばたで紐を拾っただけなのに、誰かの財布を盗んだという噂が立ってしまったのだ。なんとか無実を証明しようとしたが、噂はとどまるところを知らず、誰もが彼を泥棒だと信じ込んでしまう。町中の人が彼から距離を置き、村八分の状態になる。
放っておけば、そのうちみんな忘れたかもしれない。噂が立つのは仕方のないことだし、気にせずいつもどおりに過ごしていれば、人々も普通に接してくれるようになったかもしれない。
だが、彼はあきらめられなかった。意地でも真実を認めさせようと奮闘し、誰にも聞き入れられないせいで心身を病んでしまった。体はどんどん衰弱するが、彼はどうしても町の人が許せない。
死ぬ直前まで「紐だ。ただの紐だ」と、うわ言のようにつぶやいていた。