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LIFESTYLE 子育ての悩み

2022.04.17

【品川女子学院理事長にインタビュー】男の子にも家事をさせた方がいい本当の理由とは?

今回も品川女子学院で理事をされている漆紫穂子さんに、受験におけるお父さんとお子さんの関わり方や、意外と見落としがちな男の子の子育て術などをうかがいます。コロナ以降ますます進む経済格差によって生まれた「学力格差」、それに負けないメンタルの保ち方も必読です。

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まだまだ知りたい現代の子育て事情を教育のプロに聞きました!

女の子のママから高い支持を集める、私立・品川女子学院中等部・高等部の理事長・漆紫穂子先生には、2回にわたって子供が伸びる教育方法について伺ってきました。ラストとなる今回は、お父さんの関わり方や男の子に身につけさせたいこと、学力格差の話題についておうかがいします。

◆ お父さんこそ発揮して! ビジネスノウハウを活かした子育てテクニック

お父さんの場合は子供の教育にどのように関わるとよいでしょうか?

漆先生:最近は学校説明会でもお母さんだけではなく、お父さんの顔を見ることが多くなってきましたが、「子育てや受験対策は自分の担当外、妻に任せている」というお父さんもまだまだいらっしゃるようです。

目標設定、現状把握、計画立案、仮説検証といった、ひとつの目的に向かうときの道筋は、ビジネスと子育てで共通する面が実は多いのです。ですから、子供のために「家庭に仕事を持ち込むこと」をお勧めします。これまで学校で、社会と子供をつなぐさまざまな取り組みをしてきた経験上、子供が将来の仕事を考えるうえで、最も身近な社会人である親の仕事を知ることは大きな意義があると実感しています。

本校の文化祭では起業を体験するプログラムを実施しています。設立登記から株主総会に至るまで様々な会社設立の過程を体験しますが、生徒たちがご家庭で親御さんに、実際の会社の仕組みや経験について質問や相談をすることも少なくありません。なかには、模擬店で扱う製品を提供してくれる企業を親御さんに紹介してもらった生徒もいました。家庭内で、仕事をテーマに会話することで、今までになかったような親子のコミュニケーションが生まれることもあり、特にこの時期娘とコミュニケーションが難しくなるお父さんの株が上がることもあるようです。

◆ 子供の学力を決めるのは実は環境ではない

経済格差が学力格差につながるという調査結果が出ていますが、コロナ禍で家計が落ち込み、教育に掛けるお金が減っている家庭も増えているといいます。この危機を乗り切る教育方法はあるのでしょうか?

漆先生:お茶の水女子大学の「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究※」によると、家庭環境と子供の学力についてこのような結果が出されています。

子供の学力と家庭の収入・親の学歴には相関があるが、不利な環境を克服し、高い学力を達成している児童生徒が一定数いる。そうした家庭では、規則的な生活習慣を整える、文字に親しむように促す、知的な好奇心を高めるような働きかけをしている。

数字で認知できない力=非認知スキルと家庭の社会経済的背景には相関がなく、学力とは弱い相関があるので、非認知スキルを高めることによって学力を上げる可能性もある。

「よそと比べてうちにはこれが足りない」と言っても、同じ条件で育てられる子供は世の中にひとりもいません。上の結果からわかるように、その条件の中で何をどう活かしていくかが大切です。負い目を感じほかの家庭とつい比べてしまう…といったことをしないのが大事です。

我が校では、経済的に家計が急変したり親御さんが亡くなられた場合、奨学金を出したり、授業料を免除をしたりする制度があります。その面接は、親子でおこないます。なぜ子供も一緒かというと、中高生ともなれば家族の一員として、家庭の状況を知って自分の役割を果たすことが成長につながると考えるからです。それにより、家族が大変なときだからこそ親を手伝おう、学校生活ではこれをやろうとモチベーションが上がる子もいます。

私は、校内外、これまでいくつかの奨学金に関わってきたのですが、こんなこともありました。ひとりで子育てをして苦労しているお母さんがいらして、経済的に困難な状況になっても学費に関してはどこの支援も受けようとなさらなかったんです。ですが、途中でどうしても苦しい状況に陥り、奨学金制度を活用されました。

お母さんは、「自分は学歴がなく苦労したから、子供には勉強をさせてあげたい」と考え、家計を学費最優先で回していたそうです。そして、それが自分にとっての働く意義になっているから他からの支援は受けないできたとおっしゃいました。その意図を知ったお子さんは「お母さんが頑張っているから私も頑張る」と言い、お母さんは「娘が頑張るから私も頑張る」とおっしゃっていました。

実際、ある予約制の奨学金(受験前に予約でき、志望大学に入学が決まった時点で援助が始まる制度)に関わっていたとき、(奨学金を希望せず)一般受験で受験するお子さんと、この予約制奨学金制度を希望して受験するお子さんとでは、同レベルの成績だったとしても後者の方が合格率が高いので、驚いたことがあります。

一方、本校のような私立学校の生徒の中には、「恵まれすぎていて社会課題がよくわからない」と発言する子もいます。この考えのままだと課題解決能力は低くなるかもしれません。家庭の経済力の影響による学力格差は社会として支援すべきことはもちろんですが、すべてがマイナスなわけではないことを子供に伝えたいなと思います。なにがプラスに働くかわからないですから。

余談になりますが、女優の壇ふみさんがインタビューで、「私の父は、子供の前途が多難であるようにと祈っていた」と、おっしゃっていたので驚きました。お父様は直木賞作家の檀一雄さんですが、「娘達への手紙」というエッセイの中で、そのあとにこう言葉が続いていました。「多難であればあるほど、実りは大きい」。

◆ 小さい頃から男女関係なく家のお手伝いをさせておく方がいい理由とは?

前回、働くママであっても負い目を感じる必要はないというお話がありました。漆先生のお父様は品川女子学院の校長、お母様は副校長をされていて、まさに共働き家族ですよね。ご両親から受けた教育で記憶に残っているのはどんなことですか?

漆先生:そうですね。両親は忙しく、夕食の支度も帰ってきた人からやり始めるといった感じで、子供も家事分担の戦力でした。でも、幼いころの私は、どうしてよその家ではしないでいいお手伝いをうちはやらされるんだろうと、嫌々でした。しかし、仕事を持つようになって、家事がなんなくできることには本当に助けられました。お手伝いは、子供の貢献意識を育て、自己肯定感を上げます。そして、それだけでなく、将来の生活スキルとしても生きてきます。今朝も夫のお弁当をつくってきましたが、仕事の合間の料理はむしろリフレッシュする楽しみになっています。

ちなみに私の弟も家事は普通にできます。流しに手が届かないうちから踏み台にのって洗い物をやらされていましたから。下の弟は保育園で給食のメニューのつくり方を習って、お客さんがいらしたときは得意げにふるまったりして(笑)。上の弟は大学で地方に行ったとき、食費の節約に昼ごはんも下宿に戻って調理し、親が心配しないようにカレンダーに毎日のメニューを書いて送ってきてました。

下の弟の妻は外資の通信社に勤務していますが、結婚して家事をやってもらえるので楽になったと言っていました。性別に関係なく、家庭内の仕事を自然に役割分担しているのも、幼い頃から親の後ろ姿を見ていたからだと思います。

共働き夫婦が今後も増えることを考えると、男の子のママも家事を教えた方がよさそうですね。

漆先生:長い目で見た時に、みなさんのお嬢さんは当たり前のように働く時代になりますし、息子さんは働く奥さんとパートナーシップを組むことになります。そのため、家庭内の仕事ができ、自立して生活できるように育てていかないと、パートナーとの共同生活は難しくなるでしょう。

ある名門男子校の先生に聞いた話ですが、新入生が参加する最初の宿泊行事のとき、生徒が出たあとのお風呂場が脱いだパンツの山だったそうです。自分の下着を片付ける習慣がないんですね。そういう子の親御さんに聞くと、中学受験に必死で、「あなたは勉強だけしていればいい」と、家の手伝いもさせず、育ててしまったとおっしゃるそうです。

これから家事もアウトソースする時代に入るかもしれませんが、今後、共働きがデフォルトになることを考えると、性別に関係なく、子供には家事全般を体験させて自立させておくことがマストでしょう。卒業生が「下宿の部屋にお母さんが掃除に来るような男性とは結婚しない」と言っていました。

最後に、働くお母さんに向けてメッセージをお願いします。

漆先生:働くお母さんが働くことに罪悪感を感じる必要は全くありません。同じ条件の家はひとつもありませんから、そもそもよその家と比べる必要はないのです。働く背中を見せることが、将来仕事をもつであろうお嬢さんやそのパートナーとなる息子さんにとって、きっとプラスになる日がきます。子供も家族の一員ですから、家事など手伝ってもらいましょう。そして働く自分は、収入を得ることで家族の生活にゆとりを与えられる。そこがプラスなんだと捉え、子供に謝るのではなく感謝して接するようにしましょう!

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インタビュー

漆 紫穂子

品川女子学院の理事長。東京都品川区生まれ。
都立日比谷高校、中央大学文学部卒業、早稲田大学国語国文学専攻科、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。1925年から続く中高一貫校・品川女子学院6代目校長を経て、2017年より現職。行政改革推進会議構成員(内閣官房)。
同校は1989年からの学校改革により7年間で入学希望者数が30倍に。「28プロジェクト」を教育の柱に社会と子どもを繋ぐ学校づくりを実践している。著書に『女の子が幸せになる子育て』(だいわ文庫)、『働き女子が輝くために28歳までに身につけたいこと』(かんき出版)などがある。【品川女子学院 理事長日記】はこちら

撮影/黒石あみ 構成/望月琴海
※参考/国立大学法人お茶の水女子大学「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究」https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/07/10/1406896_1.pdf

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