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LIFESTYLE インタビュー

2025.01.21

ドムドムフードサービス社長・藤﨑忍さん「夫と歩んだ日々は“今の自分につながる大切な基礎を育ててもらったようなありがたい時間”でした」

Domaniの連載「女の時間割。」では、話題の女性を女・妻・母の3つの側面からクローズアップ。今回は株式会社ドムドムフードサービス代表取締役社長の藤﨑忍さんに、今は亡きご主人とともに歩んだ時間について伺いました。

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短大卒業後、21歳で結婚した藤﨑忍さんが妻として過ごした時間は28年。その前半は、墨田区議会議員を5期務めた夫を妻として支えながら子育てに邁進した主婦時代。後半は、病に倒れながらも政治家として再起するべく闘病する夫を勇気づけながら、一家の大黒柱として家計を支えてがむしゃらに仕事に邁進した怒濤の時代。家族を支えることに全力で向き合った日々が、藤﨑さんにもたらしたものとは…。

藤﨑さんの「女の時間割。」
Vol.1「女」時間〜ひとりの女性として仕事に向き合う時間〜
Vol.2「妻」時間〜妻として夫に向き合った思い出の時間〜 ←この記事
Vol.3「母」時間〜母として子どもに向き合う時間〜
スピンオフトーク

藤﨑 忍さん
株式会社ドムドムフードサービス代表取締役社長・58歳

藤﨑さんの“妻時代”のとある一日

6:00 起床、子供とふたりで朝食
7:45 子供の登校後に、夫起床
8:45 夫が役所に出勤後、家事をかたずける
10:00 夫の後援会事務所へ
12:00 昼食
16:00 帰宅、夕食づくり
19:00 子供と夕食
21:00 子供就寝、入浴、家事など
24:00 夫帰宅、就寝

視野や世界を広げてくれた政治家の妻としての生活

「学生時代の私の夢は“お嫁さんになって家庭を守ること”で、当時国会議員の秘書をしていた夫とは地方政治家をしていた父の事務所で出会いました。18歳から交際を始めて、彼の政治家を志すひたむきさに“この人を応援したい”と心を動かされて結婚を決めたのです。夫は美味しいお店で食事をすることがとても好きな人だったので、蟹しゃぶやお寿司や中華や焼き肉など、交際中の3年でずいぶんとたくさんのお店に連れて行ってもらいました。私は高校時代から、忙しい母の代わりに料理をつくってきたのですが、夫と訪れた数々の名店で味わった経験はその後の自分の料理の原点になりました」

21歳で結婚して、23歳で長男を出産し、人生の前半は自分が思い描いた夢通りの生活を送ってきたと当時を振り返る藤﨑さん。イベントごとが好きなご主人とは結婚後も記念日や誕生日になると必ず、2人で美味しいお店に食べに出かけたという。

「私がこんなにもお料理をつくることが好きなのに、家でご飯を食べようとはならないんですよ(笑)。今思えば政治家の妻として会合や食事会に同席する機会もありましたので、そんなこともふまえてのことだったのかもしれません。結婚後は、毎朝子供や夫を送り出したあとに家事をすませたら、日中は父と夫の後援会の事務所で事務作業の手伝いなどに従事しました。国会議員秘書を経て墨田区議会議員に当選し、政治の道に夢をもつ夫を支えることは自分の天職だと思えていたので私は日々懸命に務めました。

選挙期間中はボランティアの方々が夫のために尽くしてくださるので、その方たちにいかに心地よく活動をしていただけるかということも私の大切な仕事でした。不特定多数の面識のない方々とも苦にならずに心地よく接することができるという、幼い頃に培ったコミュニケーションスキルも役立ったと思います。感謝の念をもって接することでその気持ちが自然とお相手にも伝わって、いつのまにか感謝が循環するコミュニケーションが始まることもすごく幸せに思えました」

気配りや心配りなどのヒューマンスキルを鍛えてくれた夫の教え

「12歳年上であり、国会議員秘書を経て地方政治家になった経歴をもつ夫は人としての経験値や知識も豊富で、礼儀やマナーやしきたりなど実にいろいろなことを私に教えてくれました。たとえば人にお手紙を書くときの書き方や切手を貼る位置、よそ様と会うときの服装など。そのひとつひとつに求められるレベルも非常に高くて、厳しい一面もありました。

目上の方のお宅にうかがうときなどには冬でもズボンを履くのは禁止なんです。夫が“昔の人は女性がズボンを履いて来たら失礼に感じると思う”と言うのです。内心では若干こりかたまった考えだなぁと思いつつも私はそれに同意しました。夫のパフォーマンスを上げることならすべてやるのが自分の使命だと捉えていたので、純粋に素直に取り組めたのです。夫に夢中というよりも、政治家の夫を支える生活に夢中になっていたのかもしれません。

私が44歳でアパレルショップを退職して、一年の準備期間を経て45歳で居酒屋オーナーとして起業をしたときにも、社会人として人に礼を尽くしたり人の気持ちを察することなど、夫からのたくさんの教えが私を支えてくれました。脳梗塞で倒れた後の夫の状態は要介護4と認定されましたが、お店で出すメニューについて夫世代の目線からの的確なアドバイスを出してくれたりして、積極的に協力してくれました。実際に人気のひと皿も誕生しました」

 藤﨑忍さん

仕事と介護の両方があることで心のバランスがとれた

藤﨑さんを公私に渡り導いてくれたご主人との結婚生活は18年目を境に一転。選挙後に心筋梗塞で倒れたことから夫の闘病生活が始まり、その4年後には脳梗塞で左半身がマヒしてしまったために介護が必要な生活に。藤﨑さんはケアマネージャーの助言を受けながら室内をバリアフリーに改装し、訪問介護ヘルパーを手配。39歳から49歳までの10年間は夫の介護と息子の学業や部活動のサポートをしながら、一家の大黒柱となるべくビジネスパーソンとしてのキャリアをスタートさせて成果を出し、着実に実績を積み重ねた。

「自分では、仕事と夫の介護というふたつのミッションをもつことによって、バランスをとることができていたんじゃないかと捉えています。ひとつは“絶対に食べていかなくてはならないミッション”で、もうひとつは“絶対に家族を守らなくてはいけないミッション”。ふたつの重いものを手にしたことで仕事に向き合う熱意にもよりいっそう拍車がかかりました。それは政治家の妻として主婦をしながら事務所の手伝いをしていたときとはまったく重みの違う時間でした。

さらに私の場合、仕事の時間をもっていることで介護の辛さや苦しさを束の間忘れることができていた気がします。要介護4、身体障害者手帳で言えば1級の夫は、それまで政治家として精力的に活動してきただけに自分が置かれた状況に対して決して納得していたわけではありません。精神的に不安定な時期もありましたし、夫の感情を落ち着かせるのが大変だったこともありました。そんな夫を目の当たりにしなければならない辛さを仕事に打ち込むことでいったん横に置くことができたのです。仕事は私の心の支えでもありました。逆に、仕事をしながら感じる“家計のために稼がなければならない”重圧などから解き放たれるのが、夫の介護をしている時間でした。夫と向き合っているときは優しい人であろうと努めました。その両方の時間があったからこそ大変な時期を乗り超えることができましたし、仕事にも打ち込むことができたのだと思っています」

波乱に満ちた過酷な試練にも果敢に向き合ってきた藤﨑さん。“ご主人と過ごした時間にもし小見出しをつけるとしたらどんなフレーズが浮かびますか”と問いかけるとこんな答えが返ってきた。

「“私を育ててくれた時間”、みたいな感じがします。夫には本当にいろいろなことをイチから教えてもらって、ともに選挙を戦いながら喜びも悲しみも経験しました。彼が倒れたときには本当に悲しくて、もう生きていかれない、なんでこんなことになっちゃったんだろうと泣いたり悔やんだりしたこともありました。介護生活もいろいろな意味で決して楽なものではありませんでした。でも、今思えばそのときの経験が私を強くしたり、優しくしてくれたのだと思っています。9年前に夫を見送ったときには大きな喪失感に包まれましたが、夫と過ごした日々が最後に私を精神的に強くしてくれるところまで育ててくれた、そんな時間だったかなと思います」


〈取材現場より〉
インタビュー中に当時を振り返りながら藤﨑さんは、“ものごとは決してひとつの物差しだけでは計れませんし、ひとつの経験だけを取り上げてこれがよかったと申し上げようとすることは難しいですね”とおっしゃっていました。私たちはつい、結論を性急に求めたりどうしても結論づけたいと思ってしまうところがあります。藤﨑さんの誠実さがにじむ言葉の数々が心に響きました。Vol.3では藤﨑さんの「母」時間をお届けします。

Profile

藤﨑 忍

ふじさき・しのぶ/1966年、東京都生まれ。青山学院女子短期大学卒業後、21歳で結婚、政治家の妻となる。23歳で長男出産。2005年に夫が心筋梗塞を患い、家計を支えるために39歳で専業主婦からSHIBUYA109のアパレルショップ店長へ。5年で年商2億を達成する。43歳のとき夫が脳梗塞で倒れて介護が始まる。アパレルショップ本社の経営方針変更を機に44歳で退職。居酒屋でのアルバイトを経て2011年に新橋に家庭料理の店『そらき』を開業。愛される店づくりの手腕と食に対するセンスを見込まれ2017年にドムドムハンバーガーのメニュー開発顧問に抜擢される。そのとき考案した“手作り厚焼きたまごバーガー”が大ヒット。同年11月に51歳でドムドムフードサービスに正式入社。9か月後の2018年8月に代表取締役社長に就任する。現在は(株)神明ホールディングス社外取締役、(株)WOWOW社外取締役監査等委員を兼任。年間の講演回数は40回超。著書に『ドムドムの逆襲 39歳まで主婦だった私の「思いやり」経営戦略』(ダイヤモンド社)、『藤﨑流 関係力』(repicbook)などがある。
インスタグラム:@fujisakishinobu 

撮影/眞板由起 ヘア&メーク/広瀬あつこ 構成/谷畑まゆみ

私の生き方

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