「寸志」の意味と込められたニュアンス

寸志の意味と、そこに込められた意味合いを知ると、日本文化の奥ゆかしさを感じるかもしれません。辞書に掲載されている言葉の意味と、成り立ちに込められたニュアンスを紹介します。
寸志とは「心ばかりの贈り物」
寸志の読みは「すんし」です。「気づかいや感謝の気持ちを表す、ちょっとした贈り物」という意味のへりくだった表現になります。
「寸(すん)」は日本の古い長さの単位で、約3.03cmが1単位です。この長さについては親指の幅が基になったという説もあり、そこから転じて「わずかな」という意味でも使われます。
「志(し)」はこの場合、「厚意・親切・気持ち」という意味で、寸志は相手に気を使わせない程度のお金やお菓子などの形で感謝や厚意を示すものです。
すん‐し【寸志】
1. 少しばかりの志。自分の志をへりくだっていう語。「—を表す」
2. 心ばかりの贈り物。自分の贈り物をへりくだっていう語。贈り物ののし紙の上などに書かれる。
小学館『デジタル大辞泉』より引用
寸志を渡すのはどんなとき?
寸志は基本的に、立場が上の人から下の人に渡すものです。仕事でよくみられるのは、職場の新年会・歓送迎会・打ち上げなどで、上司や招待客が幹事役に寸志を渡すパターン。上司の場合は、通常の会費より多めにお金を渡すのが一般的です。
そのほか、ボーナスの時期にアルバイトや派遣社員、入社して間もない社員などに対して寸志が払われることもあるでしょう。
プライベートなら、結婚式や葬儀のとき、主催者や喪主が式を手伝ってくれた人にお礼として渡すケースがあります。また、引越し業者や旅館のスタッフに渡す人も珍しくありません。
寸志とボーナスはどう違うのか
ボーナスとは、毎月の基本給とは別に企業が払う特別な報酬のことで、賞与や特別手当とも呼びます。仕事を評価する方法のひとつとして、主に従業員のモチベーションアップのため設定されるものです。基本給と異なり、会社が比較的自由に条件を定めることができます。職場によって金額や時期、回数が異なるものの、一般的には夏と冬の年2回に支払われるケースが多いようです。
会社が決めたボーナスの支給基準に満たない従業員には、寸志が渡される場合もあります。ただし、寸志はボーナス以上に支払いの基準があいまいで、金額も少なめなのが特徴です。
寸志と謝礼との違いは?
寸志も謝礼も、相手に感謝を伝えるためにお金もしくは菓子折りなどの品物を贈るという共通点があります。
大きな違いは、贈る側と贈られる側の立場です。寸志は通常目上の人から贈るもので、相手の骨折りに感謝する気持ちを表します。一方、謝礼は立場に関係なく、対等な友人の間でもやり取りされるものです。
ほかにも、松の葉に隠れる程のささやかなものというニュアンスの「松葉(まつのは)」や、受け取り手が寸志を指していう「厚志(こうし)」は寸志と似た意味の言葉です。
寸志を渡す場合のマナー

次に、寸志についてのルール・マナーをチェックし、一般的な包み方と相場、渡すときの注意点も見ていきます。宴会の幹事役や引越し業者など、渡す相手にお礼の気持ちをきちんと伝えることが大事です。
寸志の包み方と相場
寸志はあくまでも「ちょっとしたお礼の気持ち」という意味なので、あまり多く渡し過ぎて相手に気を使わせないように気を付けます。
お金を入れる袋は華やかな水引飾りの付いたものではなく、無地の「のし袋」や白封筒などにします。表に「寸志」と書き、下に贈り主の名前を書くと誰が贈ったかわかりやすく、相手に親切です。なお、お菓子などの品物として渡すときは、のし紙を添えます。
相場は1,000~1万円程度で、結婚式や葬儀のスタッフに渡す場合は3,000~1万円、引越し業者には1,000~3,000円のケースが多いようです。
寸志を渡すときの注意点
寸志を渡すときは、気持ちを伝えるために、感謝やねぎらいを込めた言葉を添えることが大事です。また、相手に気を使わせないよう、「わずかですが」「気持ちばかりですが」という一言もよく使われます。
注意点は、「寸志」には上の立場の人が下の立場の人に贈るという意味があるので、目上の人には絶対に使わないということです。スタッフへのお礼に渡すときも、相手を不快にさせないように「御礼・心づけ」といった表現を使います。
寸志の受け取りを断るポリシーのサービス会社もありますので、葬儀のスタッフなどに配りたいときは、前もって地域の風習や企業ルールを確認しておくことをおすすめします。
宴会の幹事に渡す場合、顔を合わせたタイミングで早めに渡しておくと、会計手続きが混乱せずスムーズになるでしょう。
寸志を受け取った場合のマナー

続いては、寸志を受け取る立場になったときのマナーを学びましょう。適切にお礼を返すことで相手が好印象を持ちやすく、その後の関係性もスムーズになるはずです。お返しのルールも確認します。
寸志に対する感謝をしっかり伝える
寸志を渡されたら、遠慮せずに受け取って感謝を伝えるのもマナー。「お志をいただき感謝いたします」「ご厚志に心より感謝申し上げます」などの言葉が一般的です。
また、「寸志」はへりくだった表現なので、「寸志をいただき~」と伝えるのは失礼に当たります。受け取った人が寸志を指すときは、先に紹介した「ご厚志」などの表現が適切です。
自分が宴会の幹事役で、寸志を渡してくれた人も宴会に参加しているときは、乾杯の前に寸志をもらったことを参加者に報告し感謝の気持ちを表現します。ただし、金額には触れないよう注意が必要です。
寸志のお返しは基本的にいらない
寸志は「ほんの気持ち」を表すものなので、金額や品物のお返しは不要とされています。もし、仕事上でお返しが必要な場合は、相手を立てる気配りが大切です。
具体的に言うと、お返しは寸志より少額の菓子折りやお礼状・お礼メールにとどめます。
お返しは不要とされていても、相手の心づかいに対する感謝は言葉でしっかり伝える必要があります。そうすれば、寸志を贈ってくれた相手との関係も良好なものになるでしょう。
まとめ
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寸志とは、気使いや感謝の気持ちを表すちょっとした贈り物を意味する
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寸志の金額は1,000~1万円くらいが相場で、相手の人数や立場などによって調整する
- 寸志を受け取ったら、しっかり感謝の言葉を伝える
寸志は職場の飲み会や結婚式・葬式の際によく見られるものです。「ちょっとした」という意味のとおり、あまり形式ばらずに感謝を伝える慣習といえます。寸志に関わるルールを知れば、今後の円滑な人間関係に役立てられるはずです。
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Domani編集部
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