Summary
- 「いただきたく存じます」は正しい敬語表現だが、使いすぎはくどい印象に。
- 「いただく」と「存じます」が組み合わさり、非常に丁寧な依頼表現になる。
- 社外の依頼メールでは有効だが、社内利用では堅すぎる場合も。
ビジネスメールで目にすることの多い「いただきたく存じます」という表現。「丁寧そうだけど、使い方は正しいの?」「社外の人に使ってもいいの?」と戸惑った経験はありませんか? 正しく理解せずに使うと、過剰敬語だと受け取られたり、かえって堅苦しい印象を与えたりする可能性があります。
本記事では、この表現の構造・意味・正しい使用場面・避けた方がいいケース、そして自然な言い換えまで、実務で役立つ形で整理します。後輩への指導や、伝わる依頼文を書くためのヒントとして活用してください。
「いただきたく存じます」とはどういう言い回しか?
丁寧な響きを持つ「いただきたく存じます」という表現。一見すると完璧な敬語のように思えますが、その構造をきちんと理解していないと、意図せず不自然な印象を与えてしまう可能性もあります。
ここでは、この言い回しがどのように成り立っているのかを分解し、敬語としての分類を明らかにすることで、正しく使いこなすための基礎を築きましょう。
「いただきたく存じます」の構造と意味を分解する
まず、「いただきたく存じます」を構成する二つの主要な部分、「いただきたく」と「存じます」に分けて見ていきましょう。
・いただきたく
「いただく」は、相手から何かを受ける行為をへりくだって言う謙譲語です。依頼や希望を表す際には、「~していただく」の形で用い、「~してほしい」という意味を丁寧にします。文中の「~たく」は希望や意志を表す助動詞「~たい」の連用形です。
・存じます
「存じる」は、自分の思いや知っていることをへりくだって述べる謙譲語(丁重語)です。
ここでは「思います」を丁寧に言い換えています。
したがって「いただきたく存じます」は、「(相手に)~してもらいたいと、私は思います」という自分の願望や意向を、二重にへりくだって表現している非常に丁寧な言い回しであることがわかります。
「二重敬語ではないか?」という疑問を持つ人もいらっしゃるかもしれませんが、厳密には「いただく」と「存じる」はそれぞれ別の種類の謙譲語であるため、同じ種類の敬語を重ねた「二重敬語」とは異なります。しかし、複数の敬語が用いられているため、非常に丁寧な表現であることに間違いはありません。

なぜ「過剰敬語」と言われるのか?
「いただきたく存じます」は、文法的に厳密な二重敬語ではないと説明しました。にもかかわらず、一部のマナー本やメディアで「過剰敬語」や「くどい」と指摘されることがあるのはなぜでしょうか。その背景には、主に以下の二つの理由が考えられます。
一つ目は、既に説明した通り、謙譲の意味を持つ表現が重なっていることです。「いただく」自体が十分に丁寧な謙譲語であるにも関わらず、さらに「存じます」という謙譲語を重ねることで、必要以上に謙った印象を与えてしまいます。
二つ目は、現代のビジネスコミュニケーションにおいて、簡潔で分かりやすい表現が好まれる傾向があることです。「いただきたく存じます」は確かに丁寧ですが、同じ意味をより自然に表現する方法があるため、「回りくどい」と感じる人もいるのです。
ただし、これは「間違った敬語」というわけではありません。フォーマルな場面や、特に丁寧さを示したい相手に対しては、適切に使える表現でもあります。大切なのは、相手や状況に応じて使い分けることです。
「いただきたく存じます」は、謙譲語の組み合わせで成る、非常に丁寧な表現。
どんな場面で使われる?|職場のリアルな実例を紹介
「いただきたく存じます」は、実際のビジネスシーンでどのような場面で使われているのでしょうか? 具体的な例を通じて、この表現の使い方を見てみましょう。
社外メールや依頼文でよく見かける例
最も多く見られるのは、社外の方への依頼メールです。例えば、以下のような場面で使用されています。
・資料請求の場面
「貴社の製品カタログをお送りいただきたく存じます」
・面談依頼の場面
「来週中にお時間をいただき、お打ち合わせをさせていただきたく存じます」
・アンケート協力依頼の場面
「ご多忙中恐れ入りますが、アンケートにご協力いただきたく存じます」
これらの例では、相手に何かをお願いする際の最大限の丁寧さを表現しようとする意図が見えます。特に、初回のやり取りや、重要な依頼をする際に使用される傾向がありますよ。

使い方を誤るとどう受け取られるか?
「いただきたく存じます」は、確かに丁寧ですが、頻用しすぎると距離感のある印象を与えることがあります。特に社内メールでは、過剰に感じられ、冗長に映ることも。
・堅苦しすぎる例:「本日の会議室のレイアウトについて、ご確認いただきたく存じます」
→ 社内の短いやり取りなら「ご確認ください」で十分です。
受け手との関係性や、依頼の重要度に応じて、表現を調整することが大切です。
社外依頼で活躍、社内では冗長になりやすい敬語。
「いただきたく存じます」を使うときの注意点と代案
この表現を使う際は、相手との関係性や依頼内容の重要度を考慮することが大切です。適切に使い分けることで、より効果的なコミュニケーションが可能になります。
依頼内容や関係性に応じた表現の調整
・重要度の高い依頼や初回の相手
このような場面では「いただきたく存じます」が適しています。例えば、新規クライアントへの提案や、重要な資料の依頼などです。
代替表現:「お願い申し上げます」「ご検討いただければ幸いです」
・日常的な業務依頼
普段の業務でのやり取りでは、もう少し簡潔な表現が自然です。
代替表現:「いただけますでしょうか」「お願いいたします」「ご確認ください」
・親しい同僚とのやり取り
社内の親しい関係では、過度に丁寧すぎない表現が好まれます。
代替表現:「お願いします」「していただけると助かります」
・緊急性のある依頼
急いでいる場合は、丁寧さよりも分かりやすさを優先します。
代替表現:「急ぎでお願いいたします」「お忙しい中恐縮ですが、ご対応をお願いいたします」
また、メールの文脈全体のトーンに合わせることも大切です。全体的にカジュアルな内容なのに、この部分だけ極端に丁寧だと不自然に感じられます。反対に、フォーマルな文書であれば、この表現がふさわしい場合もあります。
相手の返信パターンを観察することも有効です。相手が簡潔な表現を使っている場合は、こちらも合わせて調整することで、より自然なやり取りができるでしょう。
最後に
POINT
- 「いただきたく存じます」は正しいが非常に丁寧な表現
- 社外への依頼や重要な場面で有効に活用できる
- 社内や日常業務では簡潔な敬語との使い分けが大切
「いただきたく存じます」は、ビジネスの場で相手への丁寧な依頼として非常に有効な表現です。ただし、使う相手や場面、依頼内容をよく考えずに乱用すると、かえって距離感を生んだり、くどい印象を与えがち。言葉の意味と敬語の構造を理解し、自分の状況に合った適切な表現を選ぶことが、スムーズなコミュニケーションの秘訣です。
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執筆
武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
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