「成長」より「ノー残業」が大事? 出世しない自由があってもいい
「ようこさん、テレビでマツコが変なこと言ってたんです」。ある日の会議の帰り道、20代の後輩の女の子が不満を漏らしました。聞けば、マツコ・デラックスさんがある番組で「最近のADさんは働き方改革で早く帰されてしまうから、仕事を教えてもらえなくてかわいそう」といった趣旨の発言をしていたようで、「時代遅れすぎません? そんな理由で残業させられたら日本中から働く若者、ひとりもいなくなりますよ」と、のたまう。さらに「だいたいディレクターになりたくないADなんかいっぱいいますよ。ずっとADのままじゃダメなんですか?」と続きます。
それを聞いて私は、いろいろな意味で混乱しました。普段から、寝る時間を削って家でこっそり彼女の原稿をチェックし、成長を助けたいと心血注いでいる自分はバカなんでしょうか? 彼女はテレビ周りをウロウロしたいだけで、頼られる放送作家になんかなりたくないのかもしれません。いや、私が仕事の面白さを十分に伝えきれていないのか? とその前に、それって社長に言うことか!? みなさんの周りにも、成長よりノー残業のほうが大事という後輩、いるでしょうか?
「あー、それは企業側にとっても都合がいいかもしれないね。社員を育てる義務はなく雑務だけやってもらえるなら、そんな使い勝手のいいことないわ」と、私は半ば投げやりに答えました。一方で、自分のその発言を耳で聞きながら「ん!? 専業アシスタントは本当にいいアイディアかもしれないぞ」とワクワクもしてきたのです。 そもそも会社に入ったら成長して、出世していくのが是である、とは誰が決めたことでしょう? 管理職になって意思決定をしたい人もいれば、おいしいコーヒーを淹れ、誰かをサポートするのが得意な人もいるはずです。それなのに入社と同時に同じレールの上に乗せられ、希望してもいないのに、ある年齢になれば管理職の心得など叩き込まれる。
しかし考えてもみてください。多くの職場の人間関係の軋轢は、適材適所ではない人事が原因ではないでしょうか。出世したい人は出世したいと手を挙げる、出世したくない人は出世したくないと意思表示する。それは選べていいはずです。 もっと言えば、リーダー役とサポート役は、役割が違うだけで本来、上下はないはずです。そこに上下があるという幻想を抱くから、出世することが上、出世しないのはポンコツという意識が生まれます。しかし、管理職になるならないは、もっと柔軟でいいはず。「2年管理職やったから、来年はサポートに戻ります」。
ライフステージに合わせて、そんな働き方があってもいいのではないでしょうか? それなら家事や育児が落ち着いた女性も手を挙げやすくなりそうです。 職場における多様性が叫ばれる昨今。しかし、それを実現するために必要な、多様な受け皿=柔軟な人事体制をとっている企業はまだ少ないようです。でも、働きやすい会社に優秀な人が集まるとするならば、変革はリスクではなくチャンス! ちなみに小学5年生の息子に「君は大人になったとき、リーダーになりたい? サポート役になりたい?」と聞いてみたところ、「そんなのやってみないとわかんないよ」とのことでした。正論。つべこべ言わずいろいろやってみよう。
『教えてもらう前と後』 毎週火曜・夜8時〜好評放送中!健康から歴史や住宅まで、教えてもらう前と後で世の中を見る目が変わる知のビフォーアフター番組。たむらさんが構成を務め、滝川クリステルさん、博多華丸・大吉さんが出演! 毎週火曜夜8時~MBS/TBS系全国ネット
放送作家
たむらようこ
1970年生まれ。放送作家。「慎吾ママ」のキャラクターを世に送り出すほか、『サザエさん』『祝女』『サラメシ』『世界の日本人妻は見た!』など多数の構成や脚本を手がける。2001年に子連れで働ける女性ばかりの制作会社ベイビー・プラネットを設立し社長としても活躍。
Domani2018年10月号 新Domaniジャーナル「風通しのいい仕事道」 より
本誌取材時スタッフ:構成/佐藤久美子