ドイツ生まれの児童教育研究を背景にしたボール運動教室
昨年、小学校一年生になった息子の体育の授業で、新しく「バルシューレ」というプログラムを取り入れたと聞き、授業参観の際に体育館を覗いてみました。すると、そこにはボールを使ってさまざまな運動する子どもたちの姿が。ボールをついたり、大小のボールをかごに投げ入れたり、チームに分かれて鬼ごっこのようなボールゲームをしたり、子どもたちはみんな笑顔でとても楽しそう!
今回は近年、国内で広がりつつある「バルシューレ」について、話を伺いました。
「バルシューレというのは、ドイツのハイデルベルク大学で1998年に開発されたプログラムです。対象年齢は年少〜10歳くらいまでで、専門的競技を始める前段階として、すべてのボールゲームに共通する基本的な運動能力を身につけることを目的にしています。ボールを投げる、蹴る、キャッチする、それらを使ったゲームなどプログラムが140以上あります」と教えてくれたのは、国内でバルシューレ教室を展開しているアスリートプランニングのマーケティングディレクターの矢野裕太さん。
「今でこそ、サッカー強豪国のイメージのあるドイツですが、当時なかなかブラジルに勝てませんでした。そこでドイツとブラジルの違いを調べたところ、幼少期のスキル習得の違いが明らかに。ブラジルの子どもたちは何もないところから自分たちでコートを作り、ルールを作ってでこぼこのコートで練習していました。遊びの延長でボールを蹴ったり走ったりしていた。一方、ドイツはスポーツ教育の基盤がしっかりしすぎていて、専用のフィジカルコーチが小さい頃から技術を叩き込んでいました。技術を教え込まれると機械のように動けるけれど、いざ試合になると対「人」になるので、思った通りのプレーができなかったのです。小さい頃から専門的な技術ばかり練習させられていたので、大きくなったとき、自分たちで自発的に新しい発想のプレーができない、対応能力が付いていないことがわかったのです。そこに着目したハイデルベルク大学のロート教授が開発した運動プログラムが、バルシューレです」と、同社バルシューレ事業部の杉本拓哉さん。
日本でも同じようなことが言えると、矢野さん。
「国内にも野球クラブやサッカー教室などがたくさんありますが、その中には専門的な技術習得を目的としているものもあります。最近の研究では、幼少期から特定の競技のみを行う早期専門化や勝利至上主義の考え方によって、体のバランス能力や柔軟性が低下してきているだけでなく、才能が大きく開花するはずの年齢になって、既に燃え尽き症候群のようになってしまい、スポーツ自体が楽しめず嫌いになってしまうなどの問題が危惧されているんです。バルシューレは専門スポーツへの移行の前に、ボールを使って、体の使い方を知ったり、体全体を動かすことで運動そのものが楽しくなり、子どもたちが意欲的に取り組みながらバランスよく運動能力を伸ばすプログラムになっています。立ち位置として似ているのは、体操教室や水泳教室だと思います。小さいお子さんでスイミングを習い事にしている方も多くいると思いますが、水泳選手にするという目的よりは運動の一歩目として親御さんが入れることが多いですよね。水泳や体操は全身の筋肉を使うので、体全体の発達、運動神経の向上に役立ちます。それのボール盤としてイメージして頂けると分かりやすいと思います」
以前は、学校から帰って来たら公園で夕方まで遊び、鬼ごっこや木登りで遊んでいた子どもたち。本来なら、そんな遊びの中で、習得できれば一番いい運動能力だけれど、ゲームやスマートフォンの普及、車や電車など移動手段の発達で、基本的な運動習慣が減っている現代の子どもたち。確かに、遊びで身につけていたものを、どこかで習得する機会があるといいのかもしれませんね。。
「バルシューレでは、子どもたちの自由な発想を大事にし、自分たちで考えることを大切にするため、コーチが『こうしなさい』という技術的な指導は原則しません。さらに、周りの子と比較せず、ひとりひとりの成長を認め、積極的にほめるので、子どもたちの自己肯定感が育まれます。また、ボールを使った運動の中には、チームで得点するものや『鬼』から逃れるようなものがあり、それらのゲームの中で、戦術を考えたり、話し合ったりすることで、コミュニケーション能力も養います」
▲いわゆる指導ではなく、遊びの感覚に近いので、子どもたちの笑顔は本物!
現在、バルシューレが体験できる教室は全国で約50カ所。都内では22カ所で定期的にスクールが行われているそう。また、それ以外に一日体験活動イベントや、学校の体育の授業や学童のプログラムとして取り入れているところも増えているという。
「うちの子は運動が苦手だから…」「どのスポーツをさせたらいいのか分からない」と思っているあなた。
一度、バルシューレ教室に参加してみてはいかがでしょう??
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