こちらの連載をまとめた書籍『しまおまほのおしえてコドモNOW!』が絶賛発売中! 発売を記念して、単行本には未収録の回を公開しています。
【目次】
みせいくん(10歳)
みせいくん(小5)を訪ねたのは、梅雨入り直後のある晴れた日。ポテトチップス、ポップコーン、カントリーマウムをお土産にお家へ向かいました。玄関に入ると、まず目に入ってきたのは靴箱の上のクリスマスツリー。そして、若きお父さんとお母さんのモノクロ写真が無造作に転がっています。家のあちこちに飾られた子どもたち(みせいくんはお兄ちゃん2人、妹1人の4人きょうだいです)の工作、写真、使い込まれた電化製品。家族の歴史を感じました。
みせい君はお風呂場から登場。Tシャツ、ハーフパンツを黄緑で合わせたコーディネイト。朝から家の片付けをしていて汗をかいたからシャワーを浴びたようです。
取材にはお母さんの他にお母さんの妹、ケイコ叔母さんも同席。叔母さんは気を利かせて今流行りの『うんこ漢字ドリル』をみせいくんにプレゼントしました。
まほ:お!良かったねえ、おもしろいもの貰えて。
みせい:うーん……。
叔母:こういうの、好きじゃなかった?
みせい:汚いのはあんまり……。
実は前回取材したひなたくん(小3)も、わたしが「うんこ」の話題を出すと苦虫を噛みつぶしたような顔をして拒否していました。「うんこ」「おしっこ」は、子どもならばみんな好きなのかと思っていましたが、そうではないのかな。もしかしたら大人からそっち系をOKとして子どもに提案してくる姿勢がちょっと違うのかもしれません。
みせい:ねえねえ、何聞くの?
母:ほら、みせいのアレ、アレ持ってきなさいよ。ホラーの……。
叔母:そうそう、漫画と小説、見せて。
みせい:えー。これ?
漫画を描く小学生
みせいくんは学校で漫画や小説を書いて発表しているそうです。「セルの冒険」は友だち数名で合作しているアドベンチャー漫画。みせいくんは原作と作画を担当しています。現在6巻まで発行しています。クラスにも他にも漫画を描いている人がいて、教室の学級文庫にはいわゆる“ZINE”が何冊か並んでいるとか。
まほ:わたしもちょうど小5のときに同じことやっていたなあ。
みせい:女子は無人島生活の漫画描いてる。
まほ:わたしは「ビデワール物語」って、少女漫画のパロディ描いてた。漫画描くのとお話作るのは、どっちが好きなの?
みせい:お話考える方が好き。
まほ:(漫画を読みながら)この「ごぶうんを」って何?
みせい:「ご武運」。ゲームで覚えた言葉。
母:難しい言葉をスマホで調べて使ったりしているんですよ。
まほ:それはすごい。創作意欲が溢れているね。表紙に書いてある「BAKUMAN」って、あの『バクマン。』から?
みせい:ううん。爆笑漫画の略。
まほ:でもその横に「注意:笑いをとっていないので、これはただのマンガです。」って書いてあるよ。
みせい:1巻は笑いをとってないから書いた。
まほ:ああ、別の冊子には注意書きがないもんね。「イエス! 高須クリニック」ってギャグ、いいね(笑)。
みせい:これ、漫画のことばっかり聞くの?
まほ:ああ、この取材のこと?
みせい:うん。
まほ:いや、普段の生活のことも聞くよ。漫画のこと聞かれるのイヤなの?
みせい:漫画ばっかりは、ヤダ。
創作活動をしているものの、大人によってたかって見られたり、話の中心になるのは少し戸惑いがある様子。お母さんがよく描けた作品を見せてみれば?と助け船を出しますが、アレはちょっと、これも見せたくない……とちょっと揉めたり。自意識と羞恥心の狭間で揺れる10歳のみせいくん。
しかし「自学ノート」に執筆中の作品は自信作のよう。友だち4人組で心霊スポットを肝試し中に2人がこつ然と姿を消すホラー小説です。ノートをめくると、小説の合間に突然漢字練習がしてあったりします。「永」「易」「応」を練習していました。
怖がりのホラー好き。
母:ホラー小説、描きながら自分で怖くなってノート閉じちゃったりしているのよね。
みせい:うん。怖いのとか、グロいのは想像が無限大だからどんどん怖くなる。現実にもこんなことがあったら……とか考えちゃう。
まほ:わかるよ。お風呂とか、寝る時とか怖くなるよね。
みせい:怖くなったら、ひつじのショーンを抱いて寝る。
まほ:でも、書くんだね。
みせい:ホラーものは、怖くなっちゃうけどなんか気になる。
まほ:「貞子」とか絶対観れないね。
みせい:いや、貞子はそうでもない。
まほ:あ、そうなの?
みせい:貞子はもはや「テレビから出てくるオバさん」。
まほ:ハハハ(笑)!たしかに(笑)。最近の貞子、始球式とかしてるもんなあ(笑)。
まほ:好きな映画、ある?
みせい:「ハリー・ポッター」(即答)。
母:大好きよね。一時期“ミサリー・ポッター”を名乗っていたくらい。
まほ:冒険ものが好きなのかな?
母:ドラマ「ボク、運命の人です。」にハマってたわよね。
みせい:「神様」が出てくるところがすき。亀梨くんの運命の人の見つけ方も独特でおもしろい。
母:あと好きだったのは「怪奇恋愛作戦」ね。
みせい:おもしろかった。最終回の前の回が怖かったけど。
まほ:なるほど。ファンタジーに惹かれるんだね。
みせい:想定外のお話になるのがいい。
まほ:学校では何が流行ってる?
みせい:消しピンと、折り紙。
まほ:消しピンって?
みせい:消しゴムを指で跳ねさせて机から落とすヤツ。
まほ:折り紙は? 手裏剣とか?
みせい:そんな簡単なのじゃない。
まほ:あ、失礼(笑)。
みせい:折ってめちゃくちゃ強そうなのつくる。友だちが本持ってて、それ見ながら。
取材をしていていつも感じるのは、今の小学生の好きな物や遊びって意外とわたしが子どもだったころとあまり変わらないということ。ドラえもん、ちびまる子ちゃん、香りつきシール、折り紙……。ゲームとYouTubeばかりしているイメージを改めなければ……と、思った矢先。
みせい:YouTubeが好き。
まほ:あ、やっぱりそうなんだ。
みせい:ホラーのとか。
まほ:そうか、そこでもホラーを探すワケね。
みせい:ウォーリーをね、ずっと探していると、いきなりめっちゃ怖い顔が出てくる。
まほ:そういうヤツか……。ヒカキンも見る?
みせい:観る。ヒカキンはリアクションがおもしろい。でも、一番好きなのは「ゆっくり実況」。“たくっち”っていうYouTuberがやってる。
まほ:YouTuberになりたいって思う?
みせい:ちょっと。
まほ:芸人じゃなくて、YouTuber?
みせい:芸人にはならない。スベったら終わりだから。
まほ:うーん、サラッっと本質をついているような発言。じゃあ、大人になったら何したい?
みせい:漫画家かな。
まほ:そこは譲れないね。その他にやりたいことは?
みせい:やりたい放題やっちゃってみたい。
まほ:(笑)。例えば?
みせい:お風呂にコーラ入れて、メントスをバーッて入れてみたい。
まほ:でた! YouTubeの弊害(笑)。
母:(ケイコ叔母さんにむかって)アナタの家でYouTubeを観ておぼえたのよ。
叔母:え?そうなの?
母:そうだよ、変なことおぼえちゃってさ……。
みせい:友だちの家で、コップでやったけどシュワシュワ……ってなるだけでおもしろくなかったから、デッカくやりたい。
まほ:それさ、大人になって一人暮らししたらやりなよ。家族に迷惑かかるから(笑)。
みせい:いや、一人暮らしは、しない。
まほ:なんで?
みせい:ホラー見たら怖くなっちゃうから。
まほ:(笑)
女子ってどうにもできない。
人見知りもなく、楽しそうに話してくれたみせいくんでしたが、突然こんなことを聞いてきました。
みせい:ねえねえ、いつ帰るの?
母:コラッ。
まほ:いろいろ聞かれるの、キライ?
みせい:ううん、ただ、いつ帰るのかなって。
まほ:知らない人がいきなりお家に来たんだもんね。終わりが見えないと不安になるよね。
みせい:うん
まほ:もうすぐ帰るよ。女子との話を聞いて。
みせい:わかった。
まほ:女子と仲良い?
みせい:うん。仲良い人とは仲良い。けど、女子ってどうにもできない。
まほ:いいね。どうにもできない。
みせい:とにかくうるさいし。
まほ:うん。
みせい:うるさいくせに発表の時になると声が小さくなるし。
まほ:うんうん(笑)。
みせい:集団行動するし。
まほ:そうだね。
みせい:人に厳しくて、自分に甘いし。
まほ:みせいくんも、女子に厳しいね。良いと思う所もあるでしょ?
みせい:うん。普通にしてるとそうでもないけど、席が隣になると優しかったりする。
まほ:なるほど。
みせい:話を聞いてくれるし、それに笑ったりしてくれる。
まほ:なんだか甘酸っぱい~。他にもある?
みせい:もう、わかんない。
まほ:そっか、じゃあこれでおしまい。長い時間ありがとう。
みせい:インタビューっていうから、もっと違うこと聞かれると思った。
まほ:どんなこと聞かれるって想像したの?
みせい:「あなたにとって、漫画とは?」
まほ:アハハ! そうだね、インタビューってそういうものかもね。じゃあ、みせいくんにとって漫画とは?
みせい:趣味。
「作るのがめちゃくちゃ大好き」というみせいくん。彼の言葉には独特の観察眼を感じました。今後の新作も楽しみです!
つづく
『しまおまほのおしえてコドモNOW!』書籍発売中!
2017年の連載スタートから5年間、子どもの〝今〟を探った大人気ルポエッセイが、ついに単行本になりました!連載を読んでいた人も、必見の内容となっています。
文・絵:しまおまほ 編集:小川知子 デザイン:根本真路
エッセイスト、イラストレーター
しまおまほ
1978 年生まれ。主な著書に『ガールフレンド』『マイ・リトル・世田谷』(共にスペースシャワーブックス)などがある。