新型コロナウイルスによる都市封鎖や外出自粛は解除されたが、足元では日本を含めて感染者数が再び増えている国も少なくなく、多くの人が「ニューノーマル」の中で生きている。コロナ前から働き方などは一変したが、世界のワーキングマザーたちはどう対処しているのだろうか。日本、インド、アメリカの3カ国の母親たちがコロナ禍での育児や家事分担について語り合った。
東京在住 伊藤歩美さん(30代前半)
神奈川県出身。大手生保グループ、IT系スタートアップを経て、体験教育を提供する株式会社プロジェクトアドベンチャージャパンにて企業研修のコーディネーターとして勤務。 小学2年生の女児、4歳男児の母。
インド在住 見上すぐりさん(30代後半)
大手金融機関に勤務後、ベンチャー企業にて自社のデジタルマーケティング活動に携わる。2016年、夫の転勤に伴いインドへ移住。2019年、デジタルマーケティング会社Storytelling創業。4歳と3歳女児の母。
アメリカ在住 久保山友李さん(30代後半)
東京都出身。17歳のときにアメリカに移住。アメリカの大学で美術学科を卒業後、サンフランシスコのIT・ゲーム会社に勤務。現在、AppLovinでクリエイターとして勤務。もうすぐ2歳になる男児の母。
インドでは1カ月間まったく外に出られなかった
外出自粛中はどんな生活を送っていましたか。
見上すぐりさん(以下、見上):うちはグルガオンというデリーの隣にある新興都市の、7000人ほど住んでいる団地のようなところに住んでいるのですが、その団地で外出許可が出たのが5月になってから。3月25日のロックダウンから約1カ月間、一歩も外に出ない生活が続いていました。
5月から順次、団地内の広大な庭に出られるようになってきましたが、「45分間出ていい」「1世帯から3人まで出ていい」と、この地域が感染をしないように厳格なルールが設けられており、ガードマンも見回っています。買い物は基本的にデリバリーで、玄関の外に置いてもらっていました。
久保山友李さん(以下、久保山):アメリカでも、食料品など必要不可欠なものの買い物以外で外に出ることは禁止されている時期がありました。エッセンシャルでも、「遠方に買い出しは行ってはいけない」という決まりがあり、会社に行くとポリスからチケットを切られることもありました。公園も閉まっていた時期もあります。子どもは軽い散歩やお庭で遊ばせていました。
多くの国が休校に踏み切りましたが。
伊藤歩美さん(以下、伊藤):うちは都内の公立小学校に通っているのですが、3月1日から丸3カ月間休校状態でした。6月1日から分散登校を始め、徐々に再開して現在に至っています。
休校中のオンライン授業は、中学生にまずタブレットを配り、次に小学校5、6年生に配るという形で自治体が進めたので、うちの子(小学校2年生)はそこにかからず、小学校のホームページに課題が掲載されたり、4月中旬から何日か設けられた登校日に課題プリントが配られたりして、基本は「ご家庭で学習を」となっていました。
▲日本では、子どもの学習は親に託されたと話す伊藤さん(写真:伊藤さん提供)
見上:インドは3月25日にロックダウンし、同時に学校や保育園も完全にクローズ。その約3週間後から、4歳の子が通うインターナショナル保育園ではオンラインクラスが始まりました。インターナショナルといっても約9割がインド人です。
オンライン授業は、週1、2回、1時間ぐらい、主に子どものメンタルをケアするための内容。友人の小学生や中学生の子たちが通うブリティッシュスクールでは、ロックダウンした数日後にはオンライン授業が始まったそうです。日本人学校では5月1日から始まったと聞いています。
親のITリテラシーも高い
伊藤:私の地域では、5月中旬にやっと「ご家庭に通信環境はありますか?」「端末は何ですか?」というアンケートが回ってきました。タブレットをみんなに配布できないとオンライン授業は始められないということで、まずは中学生から配布、スタートしました。
見上:平等が大事なんですね。
伊藤:はい、横並びの教育なんだと改めて思いましたね。
見上:インドの都市部では通信環境がかなり整っていて、通信料も安いのでオンライン授業導入への障壁はありませんでした。コロナ前から保育園も親との連絡はアプリを通して行っています。
富裕層だけでなく中層階級の学校も同様です。なので、親のITリテラシーは比較的高く、オンライン授業も事前の確認なくいきなりZoomのリンクが送られてきました。
先生方は手探りながらとりあえずやってみて、状況を見ながら改善していくという形。だから、日本人から見たらクオリティーはイマイチかもしれませんが、スピード感はありますね。
夫婦での家事の配分は変わりましたか。
見上:コロナ前は、平日は夫が3、私が7で、週末は5:5。コロナで夫婦とも在宅になってからは全部5:5です。いろいろな闘いの末にこうなりました。
私は料理がすごく苦手。日本人で駐在員の夫もお米も炊けなかった人なんですが、料理を作ってもらうようにお願いして、徐々にできるようになりました。幸い、インドはメイドさん文化があり、うちも助けてくださっている方が2人いるので何とかやっています。
アメリカは女性の負担が日本より小さい
伊藤:うちも夫は家事が苦手なので、9:1くらいでほぼ私がやっています。コロナ禍で、子どもを散歩に連れ出してくれたり、掃除を頑張っていたりしたので、夫の家事の割合はちょっと増えたかもしれないです(笑)。食事は、家族の楽しみと地元飲食店への貢献を兼ねて、テイクアウトを取り入れて家事負担を減らすことができました。
▲コロナ以前から夫と家事をシェアしていたという久保山さん(写真:久保山さん提供)
久保山:コロナ以前から、食事の準備は私、片付けは夫というざっくりとした分け方です。とはいえ、普段の食事はテイクアウトや前の晩のものを温めたりする程度ですし、洗い物も食洗機を使うのでほとんど手間はかからない。私は料理が好きなので、休日に作るくらいですね。あとは子どもには手作りのものを与えています。
アメリカでは、女性の家事の負担は日本に比べるとかなり低いと思います。私の同僚の話を聞くと、やはり料理するのは休日や来客のときだけで、平日はデリバリーや冷凍ピザを温めるだけということが多いようです。私の夫は日本人ですがアメリカ生活が長いせいか、「女性がしっかり家事をしなければ」と言うことはありません。
伊藤:日本独特なのかもしれませんが、休校によって子どものことが家庭任せになり、「家事・育児の負担が増え仕事しづらい」という話を女性からたくさん聞きますが、男性からは聞きません。見上さんのようにちゃんと旦那さんと交渉していくことが大事だと思いました。
夫婦でもめたことは。
伊藤:いや、むしろ家族のだんらんの時間が増えてよかったです。以前は、家族で夕食を囲むのは土日だけでしたが、毎日になったのでコミュニケーションを取る機会が増え、子どもたちもパパと一緒に遊ぶ機会がすごく増えた。
久保山:うちも以前は夫の帰りが遅かったので、在宅になって共同作業が増えました。テレビを壁に取り付けるために電気配線を変えるなど修理を一緒にしたり、ガーデニングをしたり、ゲームを一緒にしたり。在宅でも仕事の時間は長いのですが、顔は見られるのでいいですね。
見上:うちはもめました。私と夫が自宅で働いていると、子どもたちは私にだけ15秒おきくらいに話しかけてくるんです。夫は普通に仕事ができるのに。だから「なんで私ばかり?」という私の不満が1カ月ぐらい続き、夫の育児に関わる姿勢が話しかけてくる頻度に関係しているのではないかということに気づいた。もっと積極的に関わって能動的なアクションが必要なのではないか、と。
そこで夫に育児の根本から勉強してもらって、本質を理解してもらったら積極的に動くように変わったし、子どもも変わって、話しかけてくる頻度が半々ぐらいになったんです。結果として、夫との育児や教育に対しての意識統一ができてよい状況になりました。ここまで来るのにはたいへんでしたが。
「瞑想」が驚くほどよかった
そうした不満や、外出できないストレスをどうやって解消していましたか?
見上:1つは、今まで夫の帰りが遅く、一緒に話し合う時間があまりなかったのですが、今は夕方5時にはお互い仕事をおしまいにしてワインを開けたりして、2人でゆっくり話すことがストレス解消になっています。
もう1つは、インドでは瞑想して内省作業をする方が多いんです。私も1年前ぐらいから取り組んでいます。夜寝る前や朝、ベランダで子どもと手をつなぎながら、子どもは30秒ぐらいが限界なんですが、心を静かにする時間を作っています。リフレッシュできて、コロナ禍では驚くぐらい役に立ちました。
▲瞑想がコロナの時期を乗り切るのに役立っているという見上さん(写真:見上さん提供)
久保山:外に出られないので家の中をより生活しやすい環境にしようと、ゲストルームのコーディネートをしたり。今まで見られなかった平日昼間の息子の様子を見たり、そういうことがすごくうれしいです。
見上さん、久保山さんは日本に帰りたいと思ったことは。
見上:インドではコロナを経て、街自体がいろいろと変化しました。普段は交通渋滞で自宅からオフィスまで1時間半かかっていたのですが、今日は30分で来られました。
今オンラインが逼迫しちゃっていて通信環境もすごく悪くなっているので、インフラの開発がさらに進み、また変化するのではないかと思います。経済的にも本当に苦しい状況になった今後、どうなるか気になります。
インド在住の日本人の多くは不安に思われたようで、毎月の定期便200人は即埋まり、約9割の方が帰国されました。でも私は、不安はまったくない。というのは、私はかなりインドの生活に適応していて、食事もほとんどインド食ですし、インド人の友人も多く、インドの情報を直接知ることができました。なので、帰国は考えませんでした。
久保山:私もアメリカに根付いてしまっているので、日本に帰りたいとは考えませんでした。ただ、コロナが収束したと思ったら人種差別に反対するデモが起こり、2ブロック先でデモがあったり、見慣れた街の窓ガラスが割られていたりしたことには驚きました。カリフォルニアは比較的いろいろな人種がいるので過ごしやすい場所ではあると思うのですが、それでも差別について考えさせられました。
試行錯誤を重ねてようやくいい感じに
コロナで働き方が大きく変わりましたが、今後に不安は。
久保山:家で働くと会社の人とのコミュニケーションが取りづらい部分があったり、子どもの様子を見に行きたくなっちゃうというところはあるんですが、通勤時間がなくなった分、効率はよくなったと思います。
見上:最初の1カ月は、昼は子どもと遊んで、夜に仕事をするという生活スタイルを試してみたのですが、体力的にしんどくて。とくにインドは日中の気温が40〜50度になるのできちんと睡眠時間を取らないと無理。頑張りすぎずにどうすれば効率がよくなるか、試行錯誤を重ね、2カ月ぐらい経ってやっといい方向になってきました。
例えば、これまでスタッフに仕事をうまく振れないことが経営者としての課題でしたが、どんどん振ってみたら優秀なスタッフが回してくれるようになりました。
突然の在宅勤務で戸惑うことはいろいろとありましたが、やはり子どもと過ごす時間が多ければ多いほど、子どもへのレスポンシビリティーが自分の中で上がっていくのを感じるので、今後は子どもと一緒に仕事ができるような新しい形を私たちがつくっていけたら、と前向きに捉えています。在宅中心、週1、2回オフィスに出るという現状が私としては理想的です。
伊藤:また急に学校や保育園に通えない状況になったとき、誰がどうケアしてくれるのか、オンライン授業は始まるのか、という不安はずっと続いています。
夫も在宅中心だったときはかなり育児を助けてくれていたのですが、今は出社が増え、必然的に私の負担が増えてきているので、そこをどう分担していくかをこれから検討していかなければと思っています。
フリーランスライター
安楽 由紀子(あんらく ゆきこ)
1973年、千葉県生まれ。国際基督教大学卒業後、編集プロダクションを経てフリーに。芸能人、スポーツ選手、企業家へのインタビューを多数行う。
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