自律神経がちゃんと働かない子どもが増えている!
なんとなく体調が悪いとき、「もしかして自律神経が乱れているのかも?」と考えたことはありませんか。「イライラするのは自律神経の不調のせい」「冷えは自律神経の働きを鈍らせる」などというフレーズを目にすることもよくありますよね。ところが、「自律神経の働きは?」と問われると、その仕組みを正しく説明できる大人は少ないのではないでしょうか。
自律神経は、私たち人間が生きるためになくてはならないものです。毎日、心臓が休みなく血液を送り出しているのも、胃や腸が食べ物を消化できるのも、汗をかいて体温調整をするのも、すべて自律神経のおかげです。
自律神経には“交感神経”と“副交感神経”があり、内臓に対して反対の働きかけをするのも特徴です。例えば、心臓の鼓動を早くさせるのは交感神経、落ち着かせるのは副交感神経。消化を促進するのは副交感神経で、その働きを抑えるのは交感神経です。自律神経は24時間休みなく働き続け、わたしたちの身の周りの環境にあわせて体を整えてくれています。
もし自律神経がきちんと働かなかったらどうなるでしょうか? 暑い場所にいたら体温が上がりっぱなしになり、すぐに熱中症になってしまいます。逆に、寒い場所にいたらすぐに風邪をひいてしまいます。こんな調子だったら、人間は快適な環境から一歩も外に出られないですよね。
意識しなくても働いてくれるはずの自律神経ですが、いま、正常に働かない子どもが増えている、といわれています。拙著『子どもにいいこと大全』でも下記のような自律神経の乱れチェックリストを掲載しました。子どもに以下のような症状が3つ以上ある場合は、注意が必要です。
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出所:『子どもにいいこと大全』(主婦の友社)
子どものこうした症状は、起立性調節障害と呼ばれます。この症状に悩む子どもは、日本小児心身医学会の調べによると、小学生で5%、中学生でじつに10%にのぼると報告されています。
「病気というほどではないから」と放置しがちですが、侮ってはいけません。自律神経がうまく働いていないということは、子どもの成長がおびやかされている、ということです。大げさではなく、それくらいの危機感を持ってほしいと思います。
夏休み明けは生活リズムが急に変わるため、自律神経の働きが乱れる子どもがとくに多いタイミングです。「朝、なかなか起き上がれない」「食欲がない」「授業中もぼーっとしてしまう」「夜、なかなか寝つけない」などの症状が特徴です。
本来なら放っておいてもしっかり働いてくれるはずの自律神経が乱れてしまうのはなぜでしょうか。それは、現代の子どもたちの環境に要因があります。
実は、自律神経がきたえられるのは、ちょっとつらい場面に遭遇したときです。「暑い!」「寒い!」「暗い!」「おなかがすいた!」「全力で走って息がきれそう!」など、体が「このままでは危ないぞ」とキャッチできる刺激を送ることが、丈夫な自律神経を育てることにつながります。
ところが、現代の子どもたちの生活を振り返ってみるとどうでしょう? 夏でも冬でも室内はエアコンで快適な温度、危ない遊びは極力避けて、夜も明るい室内でテレビやスマホ三昧……。大人が子どもを思って整えた快適すぎる環境が、実は自律神経を怠けさせてしまっているのです。
便利な現代社会に生きる私たちは、ふだんの生活で「自律神経をきちんときたえる」意識を持つことが大切です。丈夫な自律神経を育てれば、夏休み明けなどに急に生活リズムが変わったときでも、さっと適応できるようになります。
どんな生活習慣で自律神経がきたえられる?
さて、もうすぐ夏休みが終わる、もしくはすでに終わった地域も多いですよね。毎日、元気に登校するために不可欠な自律神経は、普段の生活の中でどのように整えればいいのでしょうか。答えは簡単です。早寝早起きを徹底すること。そして、朝ごはんをしっかり食べること、です。
当たり前と思うかもしれませんが、この3つがきちんとできている家庭はなかなかありません。大人なら、たまに朝ごはんを抜いても、夜ふかししても、なんとなく1日の中で調節できますが、子どもはそうはいきません。必ず自律神経に影響が出て、不調のサインとしてあらわれます。それを学校の先生に「やる気がない!」と怒られてしまったら、こんなにつらいことはありません。
また、平日に頑張っているからと、週末に寝だめをすることはおすすめできません。週末の寝だめは平日の睡眠の質を確実に下げることがわかっています。平日と週末で睡眠リズムを変えると、そのズレを体は時差だと誤解してしまいます。ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)と呼ばれるもので、体内時計を元に戻すには数日かかるといわれています。早寝早起き朝ごはんで平日のリズムを整えても、休みのたびにリズムをくずしてしまうのでは、もちろん自律神経の働きに影響を及ぼします。
入浴に「温冷交互浴」を取り入れるのもおすすめです。これは、お湯と水で体に交互に温冷刺激を与える入浴法で、疲労回復や免疫力アップに効果があり、スポーツ選手が練習後に取り入れていることでも知られています。やり方は簡単で、湯船に数分つかったあと、冷たいシャワーを手先、足先にゆっくりかけてあげます。
熱い湯船で交感神経を刺激したあと、冷たい水でほてりを沈静化して副交感神経を刺激するので、交感神経と副交感神経の切り替えをスムーズに行う訓練になります。このような方法で自律神経をきたえておくと、普段の生活でちょっとつらい場面に遭遇したときでも、自律神経を上手に切り替えて、適応できるようになります。
イラスト:『子どもにいいこと大全』(主婦の友社)
整える習慣を「知っていた」家庭は回復も早い
私がサポートしている家庭の子どもたちは、コロナの休校中に生活リズムが変わってしまっても、「自律神経を整える生活習慣」を普段から口すっぱく教えていたので、1週間程度でリズムを取り戻し、元気に学校に通っていました。自律神経を整える習慣を「知っていた」家庭では、多少の乱れはあっても、その後の回復も早かったです。
来週は夏休み明けの不安定な時期を迎えます。「自律神経にいい生活習慣」を取り入れて、子どもをしっかりサポートしましょう。
小児科医、医学博士、「子育てアクシス」代表
成田 奈緒子(なりた なおこ)
神戸大学医学部を卒業後、小児科医として臨床経験を摘んだあと、分子生物学・発生生物学・発達脳科学の研究に従事。米国セントルイスワシントン大学で遺伝子の研究者として勤務した後、2009年より文教大学教育学部教授に。小児期のさまざまな精神疾患の研究と臨床に携わる傍ら、2014年からは医学・真理・福祉・教育を包括する専門家ぐんだんによる子育て応援事業「子育て科学アクシス」を主宰。新型コロナウイルスにより、親も子も不安が強くなっている状況において、オンラインの子育て悩み相談体験を無料で行っている。http://www.kk-axis.org/
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