美しい人は、美しい物語を持っている。それは、甘くきらびやかという意味ではなくて、バラにトゲがあるように、さなぎが蝶になるように、美しさとは真逆の痛みや忍耐をも含んだ、真に美しい物語。
形成外科医であり抗加齢学会専門医として、アンチエイジング医療の最前線を走り続ける医師・松宮敏恵さん。5回目の今回は、“ダンシング・ドクター”の登場! 生きる情熱を支える、ライフワークについて語ります。(全6回)
「生きているってこういうことなんだ!」
昨年の暮れ。都内の某レストランで行われたダンスショーに松宮さんの姿があった。
真っ白な衣装に身を包み、キラキラとラメを施したメーク。お店のカウンターの上に立ったとたん、表情も、場の雰囲気も、ガラリと変わった。小さなカラダから発する、圧倒的なエネルギー。弾けるように踊った後、天井から吊り下げられた2本のシルクをつかみ、スルスルと登っていく。揺れながら、回転しながら、大胆に技を繰り出す、3分間の夢を見ているような時間。目を、離すことができなかった。
「元は地上で(笑)踊っていましたが、足の怪我をしたのをきっかけにエアリアルを始めました。どんな形でもいいから、踊り続けていたい。ライフワークのひとつです。
8歳のときからバレエを始めて、間にブランクもあったけれど、約30年。ジャンルにとらわれず、バレエ、ジャズ、ヒップホップ…ひと通りの事はやりました。
あまり言葉で感情を表現することが得意ではない私にとって、唯一感情をあらわにできるのがダンス。今も、呼吸をするようにダンスをしているなって感じています。単純に楽しいし、踊っていると『生きているってこういうことなんだ!』って思える。
たぶん、どこか現実とかけ離れた世界が自分の中にあって、それがないと生きている感じがしないんだと思います。現実的な話だけだと息苦しくなってしまう。今も、数字の話とかとても苦手です。数字よりもビジョンを追い求めたい。ダンスも同じです。美しいものに触れるってすごく感動しますよね。そういう感動に囲まれて暮らしていきたいというのが、ずっともっている願いです」
胸が打ち震えるような感動。自分がそれを体験し、衝撃を受けたからこそ、人にもそれを伝えたい。たとえそれが、どんな形であれ、どんな仕事であれ。
「高校生のときに劇団四季のミュージカル『キャッツ』を観て。ものすごく衝撃を受けました。『あ、これから行こうとしている道は間違っているな』って感じた。人に感動を与えるような仕事をしたい! と思ったんです。そのとき、医学部を受けることは決めていたんですけれど。
踊っていて、知らない人から感動しました!と言ってもらえると、本当に嬉しいです。医者の仕事も患者さんから感謝をされたりしますが、でも、自分の表現で感動を与えられたときの思いは、やっぱりちょっと違いますね。自分のために踊ってきたつもりだったけれど、私が他の人を見て感動するように、 他の人に喜びを与えることができる。それがすごく嬉しい。
ダンスの先生がよく言っているんですが、『かっこ悪く踊るのは誰にでもできるけど、人を感動させるのは奇跡のようなもの』。だからこそ、感動させられた時は、強烈に記憶に残る。私自身、10年前に見たダンスで感動したことを未だに覚えています。
プロかどうかは関係なくて、踊り手としてそういう存在でありたい。昔は医学部をやめてダンサーになる!と思っていましたが、今は医者もダンスもやれているから、あの時周りに止めてもらってよかったかな(笑)。
ダンスをしているときと、手術しているときの集中は近いものがある? 確かにそうかもしれないです。どちらも途中でやめることはできない緊張感が、似ているのかもしれませんね」
いつだって「憧れ」がモチベーション
「ダンスを始めたのは、踊っている人を見て美しいと感動して、近づきたいと思ったから。忘れられない『キャッツ』もそうですが、いつも、モチベーションは美しさへの“憧れ”からなんですよね。
たとえば美しいジュエリーやお洋服はお金で手に入れられますが、そこに自分の能力は何も関係がない。技術や感動は、お金では買えないもの。だから憧れる。経験もそうだと思います。
私はスロースターターで、医者になる覚悟が決まったのも遅かったし、医学の勉強も人一倍努力が必要でした。でも、その経験があるから、できない人の気持ちもわかるし、今、人に伝えるときにも『わかりやすい』と言ってもらえる。
ダンスも、何年やっていても1週間踊らないだけで、思ったように動けなくなるし、好き勝手に踊ればいいものではない。だから、練習し続けます。
憧れを形にするために、ひとつひとつ能力を獲得していくためのチャレンジを、ずっと続けていきたい。
そう思うと、年を重ねることって全然悪くないです。20代のときは若くていいわね、と言われたけれど、自分の力で何も成し遂げていない、まだ何者でもないという不安が常につきまとっていました。
でも今は、経験も積んで、技術も磨いて、自分で手に入れたものと一緒に生きている。そういう40代の方がずっとカッコいいし、人生を楽しめるんじゃないかな。“自分を生きる”ことこそ、本当のアンチエイジングで、ドラマティック・エイジングなんだと思います」
写真/2本のシルクを生き物のように操り、自在に宙に舞う。昔、妖精に手招きされたと言うけれど、本当は、彼女自身が妖精なのかもしれない。
松宮詩依(敏恵)
1979年生まれ。天現寺ソラリアクリニック院長。形成美容外科医、日本形成外科学会専門医、抗加齢学会専門医、リハビリテーション科学会専門医、分子栄養医学認定医。形成美容外科・リハビリテーション科・分子栄養学の3つの観点から、見た目・身体機能・栄養からのアンチエイジング医療を提唱している。美しくなる前には外面と内面(主に食事)両方からのアプローチが大事!がモットー。
公式サイト
天現寺ソラリアクリニック
撮影/萩庭桂太