「蜩」の読み⽅や由来とは?
「蜩」は、普段見ない漢字ですが、実は誰もが知っている虫の漢字表記です。日本人に馴染みがあり、季節を感じさせる虫なので、小説や時代劇映画、ゲームやマンガ、アニメのタイトル、歌の歌詞にもよく使われています。
それでは、「蜩」の特徴や俳句、英語名などを紹介しますので、確認しましょう。
<読み⽅と由来>
「蜩」は「ひぐらし」もしくは「せみ」と読みます。鳴き声から「カナカナ」や「カナカナ蝉」とも呼ばれ、表記は他にも「日暮」「茅蜩」「晩蝉」「秋蜩」「寒蜩」などがあります。
また、なぜ「虫」に「周」と書くのかというと、中国では蝉の鳴き声を「シュウ」と表現することから、蝉の総称として「蜩」という漢字が出来たようです。因みに、明け方と夕方に鳴きますが、夕暮れ時に鳴くイメージが強いことから、「日を暮れさせる」ということで「ひぐらし」という和名が付いたと言われています。
「蜩」の特徴
日本では、北海道南部から奄美大島までに分布しているカメムシ目セミ科ヒグラシ属の蝉の1種です。どのような特徴があるのか、主だった3つを紹介します。
1:オス・メスの区別がつきやすい
成虫はオスの方がメスよりも10mmほど大きく、腹部が明らかにメスよりも太くて長いことが特徴です。他の「セミ」同様にオスしか鳴かず、大きな共鳴室を持つオスは、光がすけるほど色が薄い赤褐色で、他の部分は緑がかっています。ですが、山間で見かける「蜩」は、黒っぽいものもいます。
2:「蜩」の鳴き声
「蜩」は、他の蝉よりも早く、6月頃から鳴き始め、場合によっては10月頃まで聞くことが出来ます。鳴き声は、甲高く「ケケケケケケ」「キキキキキキキ」「カナカナカナカナ」と表記されることが多いのですが、やはり有名なのは「カナカナカナカナ」でしょう。
この声を聞くと、一日の終わりや、夏の終わりを感じる方も多いのではないでしょうか。日の出前や日の入り前、また昼間でも薄暗くなった時や、暗い森林の中、時には夜中に鳴くことも。意外と「蜩」の鳴き声は、テレビや小説などからのイメージが先行してしまっているかもしれませんね。
3:セミとの違い
「蜩」と「蝉」の違いが、よく分からないという方も多いかもしれません。「蜩」は「蝉」の一種なので、「蝉」でもあるということになります。「蝉」は「ミンミンゼミ」や「アブラゼミ」そして、「蜩」等を含めた総称なのです。ただし、「蜩」も「せみ」とも読ませるので、使い方には気をつけましょう。
「蜩」を詠んだ有名な俳句
「蜩」は俳句の世界では、季語として使われています。8月12日から七十二候の立秋の次候「寒蝉鳴 (ひぐらしなく)」となることからも、想像できますね。「初秋」や「8月」の季語です。
「蜩」という漢字表記だけでなく、「ひぐらし」や「かなかな」で表現されることもあります。「蜩」が季語として使われている有名な俳句を3つ紹介しますので、句を読むことがあったら、参考にしてみましょう。
1:「蜩や 夕日の里は 見えながら」
こちらは、明治の文豪、正岡子規の詠んだ俳句です。明治26年、岩手県にある西和賀町湯本温泉に投宿した際に詠まれ、当地には句碑も建てられています。この旅の道中について書いた『はて知らずの記』によると、8月16日に詠まれた句のようです。夕暮れ時の里が見える場所で、「蜩」の鳴き声が聞こえてくる光景が、目に浮かびますね。
2:「日ぐらしや 急に明るき 湖(うみ)の方(かた)」
こちらは、小林一茶が47歳の時に詠んだ句です。文化6年7月17日に、野尻湖に行った際に詠まれました。この湖は、野尻湖を指し、野尻湖から国道18号線に入ったところに句碑が建てられています。7月では季語がずれているように感じますが、江戸時代は旧暦を使用しているので、今の8月後半から9月上旬にあたります。