「左前」の2つの意味
「左前」には、下記にご紹介する2つの意味があります。
1.相手から見て左の衽(おくみ)が上に重なっていること
2.ものごとが上手くいかない状態
デジタル大辞泉での解説も一緒に確認しておきましょう。
【左前】ひだりまえ(へ)
[1] 相手から見て、左の衽(おくみ)を上に出して和服を着ること。普通の着方と反対で、死者の装束に用いる。ただし、女性の洋服類は左前に仕立てる。
[2] 運が傾くこと。経済的に苦しくなること。左向き。「家業が―になる」
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
和服を身に付ける際によく耳にする表現ですが、一方で運が傾き上手くいかない状況を指しても使われます。
「左前」のもつ2つの意味を解説します。
【意味1】相手から見て左の衽(おくみ)が上に重なっていること
「左前」の1つ目の意味は、相手から見て左の衽を上に重ねて和服を身に付けることです。衽は「おくみ」と読み、左右の前身頃(まえみごろ)に縫いつけてある細長い布を指します。
「左前」とは、着ている本人の目線ではなく、向かい合っている相手から見て左の衽が上に重なっている状態のことです。死に装束として用いられるため「死人前」とも呼ばれることがあります。
【意味2】ものごとが上手くいかない状態
「左前」のもつ2つ目の意味は、ものごとが上手く行かなくなったさまや経済的な苦難です。
商売が上手く運ばず経済状況が悪化してしまった状況を意味します。大きな利益を上げていた事業が勢いを失い、下火になることを指しても用いられます。
主に経済状態を指して使われることが多いですが、ものごと全般が落ちぶれる様子を形容する際にも使われる表現です。
着物を「左前」に着るのは死に装束
私たちが着物を着る際には、相手から見て右側の衽を上に重ねて右前で着物を着るのが一般的です。
反対に、誤って「左前」に着てしまうと死に装束となってしまうため、注意が必要です。死者に「左前」で着物を着せるのは、生きている人と亡くなった人を区別するためだといわれています。
かつては、死者の世界はこの世と全てが反対であると考えられていたことが関係しています。
また、死に装束が白いのはきれいな状態で極楽浄土に行くためです。死に装束のもつ意味と、死に装束が白い理由を解説します。
死に装束のもつ意味
故人に着せる死に装束には、生者との区別をするという目的だけではなく、この世に未練を残さず晴れやかな気持ちで旅立てるようにとの意味が込められています。
通常の衣服との違いとして、「左前」であること以外にも縫い目がないという、死に装束ならではの特徴をもっています。
問題なく浄土へ旅立てる身支度として死に装束を準備するのです。
死に装束が白い理由
死に装束が白いのは、日本での白という色がもつイメージが関係しています。「赤ん坊」という言葉にもあるとおり、紅は生が宿る色と捉えられている一方で、白は死を意味する色だと信じられています。
また、白は何にも染まっていないまっさらな色という考え方も有力です。他の色に染められていない真っ白な死に装束をまとって旅立つことで、まっさらな状態で極楽浄土に行って欲しいという願いが込められています。
着物を正しく着るポイントと注意点
着物を正しく着るには右前だと分かってはいても、いざとなるとどう着たらいいのか迷ってしまう方も多いはずです。そこで、簡単に右前で着物を着るポイントは、yの字になるように着ることです。
また、正しく右前で着物を着ていても、スマートフォンのアプリを使って自撮りをする場合は左右が反転してしまう場合があるため気を付ける必要があります。
着物を正しく着るポイントと注意点をご紹介します。
yの字になるように着る
着物を正しく右前に着るためには、相手から見てyの字になるようにと覚えておくとよいでしょう。
yの字は、短い左の線と長い右の線が組み合わさってできています。着物を右前に着られていれば、相手から見て右側の線が長く、左側の線は途中で途切れたyの字に見えるはずです。
左右で覚えると、自分からの見え方と相手からの見え方の違いで困惑してしまう可能性があるため、視覚的にyの字と覚えるのがおすすめです。