見る・観るの違いは「意識しているかどうか」
日本語には同じ読み方の漢字がたくさんあります。例えば「見る」で辞書を引くと、以下のように説明されています。
【見る/▽視る/▽観る:みる】
[動マ上一][文][マ上一]
1.目で事物の存在などをとらえる。視覚に入れる。眺める。「みればみるほど良い服」「星空をみる」
2.見物・見学する。「映画をみる」
3.(「看る」とも書く)そのことに当たる。取り扱う。世話をする。「事務をみる」「子供のめんどうをみる」
4.調べる。たしかめる。「答案をみる」
5.(「試る」とも書く)こころみる。ためす。「切れ味をみる」
6.観察し、判断する。また、うらなう。評価する。「人をみる目がない」「運勢をみる」「しばらくようすをみる」
7.(「診る」とも書く)診断する。「脈をみる」
8.読んで知る。「新聞でみた」
9.身に受ける。経験する。「痛い目をみる」
10.(ふつう、前の内容を「と」でくくったものを受けて)見当をつける。そのように考える。理解する。「遭難したものとみられる」「一日の消費量を三千トンとみて」
11.夫婦になる。連れ添う。
「さやうならむ人をこそみめ」〈源・桐壺〉
12.(補助動詞)動詞の連用形に「て」を添えた形に付く。
(ア)「てみる」の形で、ためしに…する、とにかくそのことをする意を表す。「一口、味わってみる」
「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり」〈土佐〉
(イ)「てみると」「てみたら」「てみれば」などの形で、その結果、ある事実に気づいたり、その条件・立場が認められたりすることを表す。「踏みこんでみるともぬけのからだった」「親としてみれば、そう言わざるをえない」
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
「見る」と並んで「観る」も記載されているのがわかるでしょう。見ると観るはどちらも「みる」と読みますが、それぞれ異なるニュアンスをもっています。
見ると観るの違いを決定づけるポイントは、動作を行う人が意識を向けているかどうかです。それぞれを適切に使えるように、ニュアンスの違いを理解しておきましょう。ここでは、見ると観るの意味を詳しく解説します。
■「見る」は受動的に視界に入ること
見るは、受動的に視界に入ることを表す言葉です。「見よう」という意図はなく、意識せずに存在を目でとらえるような状態を指します。ぼーっとしているときに景色や文字が視界に入る場面をイメージするとわかりやすいでしょう。
また、見るは視覚からの情報以外に、さまざまな感覚を通して物事をとらえる際にも使える表現です。例えば、味見は「味を見る」に由来するとされており、味の加減をとらえることを表します。「体の調子を見る」は、体の動きや感覚をもとに調子が良いか悪いかをとらえるというニュアンスです。
見るを他の漢字で表すと、「判断する」「経験する」「鑑定する」などが当てはまります。例えば、「雨が降っているか見てみよう」は、雨が降っているかを判断するために空を見る様子を表す文章です。この場合は無意識にとらえているわけではなく、意図的に動作を行うニュアンスを含みます。
■「観る」は意識をして視線を向けること
観るは見ると同じように使えますが、見るよりも意識的に視線を向けるような状態を指します。「観察」や「観光」などに使われるとおり、本人の意思があって主体的にみようとするというニュアンスです。
例えば、ぼーっとしながらテレビをみる場合は見るを使いますが、しっかりと意識を向けてみる場合は観るが適切です。無意識で受動的に行う見るに対し、観るは能動的な動作であると覚えておきましょう。
見る・観るの正しい使い分け方
上述のとおり、見ると観るは同じように使える言葉ですが、細かなニュアンスに違いがあります。みようという意識がなく、受動的に視界に入る場面では見るを使うのが適切です。
一方、みようという意思があり、能動的に目でとらえる場面では観るが適しています。それぞれを正しく使えるように、使い分けの基準や迷ったときの対処法を知っておきましょう。
■シーン別|見る・観るの使い分けの基準
見ると観るの使い分けの基準は、「どのようにみるか」です。例えば、テレビやアニメをみる際は見ると観るのどちらを使っても構いません。
ただし、集中してみていないときや、内容をあまり覚えていないときは、見るが用いられます。反対に、じっくりと意識を向けてみるようなときは観るを使って表します。
また、映画やスポーツをみる際は「観る」を使うケースが多いです。映画をみるために映画館に行ったり、スポーツ観戦のためにスタジアムに行ったりするのは、主体的な行動といえるでしょう。ただし、家で別のことをしながら映画をみているようなケースでは、見るを使うのが適しています。
見ると観るの具体的な使い方を例文で確認しておきましょう。
・帰宅後にテレビを見ていて、そのまま寝てしまっていました。
・バスの中で新製品の中吊り広告を見ていたら、つい欲しくなってしまった。
・正月の恒例行事は、家族そろって全国高校ラグビー大会を観ることです。
・自由研究のために、毎朝アサガオの成長を観る。
■迷ったときや公用文では見るが適切
見ると観るの使い分けに迷った際は、見るを使うのが適切です。「見る」は幅広い意味をもつため、観るの代わりに使っても問題ありません。どのようなシチュエーションでみているのか判断できないときや、どちらの表現が適しているか迷ったときは、見るを使って表すのが無難です。
また、公用文では観るではなく「見る」が用いられます。これは、見るは常用漢字ですが、観るは常用漢字ではないことが理由です。公用文や新聞では常用漢字を用いるというルールがあるため、見るが使われます。
見る・観る以外の「みる」と読む漢字3つ
見ると観る以外にも、以下のように「みる」と読む漢字があります。
1.視る
2.看る
3.診る
視るは調査を行う際などに使われる漢字です。看るは介抱や世話をするとき、診るは体の状態を調べるときなどに使われます。見るや観るとはまた違ったニュアンスを含むため、それぞれの意味を正しく理解しておきましょう。
ここでは、「みる」と読む3つの漢字の意味や使い方などを詳しく解説します。
1.視る
視るは、じっくりと注意深く見ることや、視線を注ぐことを表す言葉です。観ると意味合いが似ていますが、視るのほうがより細かく見ているニュアンスをもちます。それぞれの漢字を使った「観察」と「視察」を比べてみると、意味の違いをつかみやすいでしょう。
一点を集中的に見るときや、細かい部分まで注意深く視線を注ぐときには視るが適切です。そのほか、視るは「〜と考える」「〜とみなす」といったニュアンスも含みます。例えば、「敵視」や「重大視」などの表現があります。
視るの使い方を例文で確認しましょう。
・今回の件については、客観的に視て判断する必要があります。
・現状を視ることで、どれほど深刻な状況なのかを痛感した。
2.看る
看るは、目の前にあるものをしっかりと見ることや、見守る・見張るという意味をもちます。主に介抱するときや世話をするときに用いられる表現です。熟語では「看病」や「看護」、「看守」などに使われます。
ただし、現在は「みる」を看るで表すケースは少なくなっています。例えば「面倒を看る」は「面倒を見る」と表記されることが多いです。
看るの具体的な使い方は以下の例文を参考にしてください。
・体調不良の生徒を看る。
・病気の母親を自宅で看る。
3.診る
診るの意味は、病気や身体の状態などを調べることです。診は「言う」と「密度が高いこと」を表す象形から成り立っており、ここから「病をもつ人をよくみる」という意味の漢字となりました。主に医療の場で限定的に使われる表現で、例えば医者が診察を行う際などに用いられます。
診るを使った例文をいくつかご紹介します。
・患者の脈を診ることから始める。
・ケガの経過を医者に診てもらう。
見る・観る……さまざまな「みる」を使い分けよう
見ると観るは意識の向き方に違いがあり、前者は受動的にみること、後者は能動的にみることです。使い分けに迷ったときは、より幅広い意味をもつ見るを使うといいでしょう。
そのほか、視る・看る・診るも「みる」と読む漢字です。それぞれ異なるニュアンスをもち、例えば診るは医療の場で限定的に使われます。さまざまな「みる」の違いを理解して、適切に使い分けましょう。