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2022.12.08

「理系科目が伸びる子」が家で繰り返していること|教科書外の実験をいろいろやってみよう

企業の理系人材のニーズは高まるばかり。内閣府の2022年5月の提言でも、「現在35%にとどまっている自然科学(理系)を専攻する学生の割合を、世界トップレベルの5割程度に増やす」としています。では、どうすれば理系が得意な子を育てることができるのでしょうか。

小中高校生向けの科学教育プログラムを筑波大学にて運営し、『本当はおもしろい中学入試の理科 科学実験ですらすらわかる!』の著者でもある尾嶋好美氏が、子どもの科学的思考力を伸ばすために親ができることを解説します。

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「実験」することで、考える力は伸びていく

学校の授業では、教科書を使って、先生から「正しい答えのあること」を学びますね。でも、社会人になると、正解のある問題に取り組むことはありません。答えのない問題に、自分で考えて取り組んでいくことになります。

スマートフォンで、一瞬でさまざまな情報を得られるようになった今、「知っている」だけでは足りないのです。子どもの教育においても、「思考力が大切」「考える力を身につけさせるべきだ」とよく言われます。でも、どのようにすれば、「思考力」や「考える力」は身につくのでしょうか?

お子さんが小学生のときに、ぜひ一緒にしてほしいのが、家で「実験」をすることです。実験と言っても、難しいものではなく、家庭にある材料を使って手軽にできるものです。

例えば、「料理」はまさに科学実験です。生卵がゆで卵に変化するのは、「加熱によるタンパク質の変性実験」ですし、硬いお米がおいしいご飯に変わるのは、「デンプンの状態変化実験」です。

「教科書に載っていること」以外の実験をやってみる

顕微鏡とフラスコ、虫眼鏡をもつ白衣姿の子どものイラスト

学校の理科の時間でも実験は行われています。でも、やる内容はたいてい教科書に載っている実験です。自分で好きな実験をすることができません。また、授業時間が限られていることもあり、自分のペースで実験を進めることは難しいです。

でも、家庭で実験を行えば、子どもたちは時間に縛られず、自分が納得できるまで、何度でも試行錯誤し、徹底的に考え、検証できます。決められた方法ではなく、自分なりの工夫をして手を動かして、自分の疑問を解明していくことができるのです。

実験において大切なことは、まさにこの部分です。なぜうまくいかないのだろう? どうして違う結果になったのだろう?と自分で手を動かしながらいろいろと試すことで、考える力は伸びていきます。

日常生活の中には不思議なことがたくさん

小さな子どもは、「なぜ空は青いの?」「なぜアリの行列はできているの?」など、たくさんの疑問を持ち、まわりの大人に質問をして困らせることがあります。身の回りにはたくさんの不思議があるのです。

2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹筑波大学名誉教授は、小さいころ、お風呂を沸かすお手伝いの中で、炎の色に興味を持たれたそうです。昔は、今のようにガスや電気ではなく、薪を燃やしてお風呂を沸かしていました。薪が燃えているときに、ビニールなどを入れると炎の色が変わることが面白かったそうです。

今は薪でお風呂を沸かすことはほとんどないと思いますが、ガスコンロを使って料理をしているときに同じ現象が起こることがあります。たとえば、お味噌汁などが吹きこぼれてしまうと、炎の色が青色からオレンジ色になります。

日常の中には、不思議なことがたくさんあるはずなのに、いつしかそれを当たり前だと思い、疑問に思わなくなってしまいます。再び「どうして?」と疑問に感じるようになるためには、実験をしてみるのがおすすめです。目の前で起こる現象を注意深く見ると、疑問がわいてくるはずです。

早速、親子で実験してみよう

水性ペンで書いたものは、水に濡れるとにじんでしまいますね。この現象を利用して実験をしてみましょう。

【用意するもの】
・水性の黒のサインペン数種類
・紙のコーヒーフィルター
・はさみ
・ペットボトルのふたや小皿など

【実験方法】
1. コーヒーフィルターを、1.5cm×6cm程度に切り取る。
2. 1の紙の、端から1.5cmのところに、水性の黒のサインペンで線を引く。
3. ペットボトルのふたに水を入れる。
4. 2の紙を手で持ち、線が描いてある端を水に浸ける。このとき、水面は線より必ず下に来るように注意すること。
5. 水がコーヒーフィルターをのぼっていく様子と、黒い線がどうなるかを観察する。

細長く切ったコーヒーフィルターの下部に黒いサインペンで線を引き、上部を手に持って逆端から水に浸す▲黒い線の下まで水に浸ける 

違う種類の黒のサインペンで試すと、面白い結果になります。紙に書いた黒い線は同じに見えるのに、水につけると、出てくる色が異なるのです。

実験をすることで沸き起こる「疑問」

この実験をすると、「どうして黒いペンのはずなのに、ピンク色が出てくるのかな?」「こっちのペンだと、黒しか出てこないのはどうしてかな?」「水じゃなくて、ジュースにつけたら違いはあるのかな?」など、やってみたいことが次々に出てくると思います。このように自分なりに考えて実験することで、想像したり、考えたりする力が養われるのです。

インクの成分を分解するこの実験を題材にした入試問題が、2019年の開成中学校の入試で出題されています。中学入試の理科においても、単に知識を問う問題ではなく、「考える力」を問う問題が増えてきています。そして、それらの問題は、大人が読んでも面白く、「知らなかった!もっと知りたい!」と知的好奇心を刺激されるものが多くあります。

科学的思考は実験によって育まれる

アイデアを考え、思いつく白衣姿の子ども2人のイラスト

昨今、企業の採用活動において、理系学生の取り合いが生じています。もともと理系学生は文系学生の半分程度しかいないことに加え、これまで文系の仕事と考えられてきたマーケティングや営業などでも、数値化・統計処理が必要となっています。このため、理系学生の需要と供給のバランスが崩れているのです。

理系的な思考、つまり科学的思考力は、実験を繰り返し行う中で身につくものです。その芽は、日常生活の中で「なぜ?」「どうして?」と感じる小学生がもともと持っているものです。

実験は楽しいものです。ぜひ、親子で楽しく実験をして、お子さんの科学的思考力を伸ばしていってください。

『科学実験でスラスラわかる! 本当はおもしろい 中学入試の理科』(大和書房)『科学実験でスラスラわかる! 本当はおもしろい 中学入試の理科』(大和書房)

サイエンスコーディネーター、博士(学術)

尾嶋 好美(おじまよしみ)

筑波大学で15年間にわたり、小中高校生の科学教育プログラムに従事。これまで500名以上の小中高校生の自由研究・課題研究を支援。NHK「視点・論点」で、家庭で伸ばす科学的思考力について解説するなど、小中学生向けの科学教育の第一人者。家庭でできる科学実験の著書も多数。北海道大学農学部畜産学科卒業、同大学院修了。筑波大学生命環境科学研究科博士後期課程単位取得退学。

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東洋経済オンライン

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