38歳で受けた、がん告知。命を守るための、たったひとつのこと
突然ですがみなさん、健康診断は受けていますか? 企業にお勤めの方なら今ごろは会社の健康診断の季節でしょうか。自営やフリーランスの方は、強く勧められる機会がないので受けるタイミングが難しいかもしれません。 私が働くテレビ業界でも、日々迫り来る「オンエア日」という締め切りに翻弄され、健康診断を受ける機会を逸してしまう仲間をよく見かけます。かくいう私も9年前まではそのひとり。健康診断のお知らせが届いても開封することすらありませんでした。そして気づいたときには、お腹に直径7.2センチもの大きながんを抱えていたのです。
写真提供/suwannar (PIXTA)
子宮頸がん。検査結果を聞いたときには愕然としました。当時、私は38歳、息子は1歳5か月。残して死ぬには幼すぎる。単刀直入、私は医師に聞きました。「私、死にますか?」と。医師は「そうなるかもしれません」と答えました。続けて「でも私の患者さんの中にも、あなたと同じステージで10年生きてる方もいます。まずは治療をがんばりましょう」と言ってくれました。そこから闘病の日々が始まったのです。
私の場合、治療は壮絶なまでに苦しかったです。抗がん剤の副作用で嘔吐を繰り返し、体重はあっという間に35キロに落ちました。病院のトイレの床なんて誰も触りたくはないものだと思いますが、嘔吐を繰り返すあまり姿勢を保てずトイレの床に横たわってしまうほど。患者仲間が医師を呼んでくれ、みなに囲まれたまま床で嘔吐し続けた日々は、思い出しても涙が出ます。 赤ちゃんを産めなくなった日の記憶も鮮明です。放射線を6回ほど照射すると卵巣の卵子がすべて死滅すると説明を受けていたので、6回目の放射線治療を受けて病室に戻る廊下をひとり泣きながら歩きました。まったく関係ない整形外科の待合椅子に座って1時間ほど泣き続けました。 真夜中の病室で幽霊を見たことがあります。トイレに行こうと点滴架台を引きずりながら大部屋を出ようとしたときです。前の朝、患者仲間が退院し空いていたベッドのそばに、カーテンも開けっ放しで壁の方を向いている女性がいました。よく見ると透けています。私は他の患者さんを起こさないのと同様にそっとそのそばを通り過ぎました。不思議と怖くはないのです。幽霊といえど同じ病室で「治りたい」と願って治療を受けた患者仲間です。私はたまたま生きていて、彼女はたまたま死んだだけ。
もうお気づきだと思いますが、私が今回Domani世代のみなさんに強く強くお伝えしたいのは「健康診断を受けてください」ということです。一時期「がんは治る病気です」というキャッチフレーズをよく見かけましたが、あれは半分は本当で半分ウソです。どんな病気も早く見つかるほど軽い治療で完治させることができます。発見が遅れれば、あなたの一生に影を落とします。 カーテン1枚隔てた隣のベッドで、医師から「あなたの病状で2年以上生きた人は、世界中にひとりも確認されていません」と宣告されていた30代の女性患者がいました。「何か方法は」と、精一杯の質問を投げかける彼女の涙声。人生で最も忘れられないシーンのひとつです。 また、子宮頸がんに関して誤解が蔓延しているので書いておきます。性交経験の多い人ほどなりやすいとの情報があり「私は経験人数が少ないから子宮頸がんだけはならない」とタカをくくっていたのですが、実際、一度でも性交経験のある女性なら罹患する可能性がある病気です。先入観を捨て、少なくとも年に1度は婦人科検診にも行ってください。お願いします。
『教えてもらう前と後』 毎週火曜・夜8時〜好評放送中!健康から歴史や住宅まで、教えてもらう前と後で世の中を見る目が変わる知のビフォーアフター番組。たむらさんが構成を務め、滝川クリステルさん、博多華丸・大吉さんが出演! 毎週火曜夜8時~MBS/TBS系全国ネット
放送作家
たむらようこ
1970年生まれ。放送作家。「慎吾ママ」のキャラクターを世に送り出すほか、『サザエさん』『祝女』『サラメシ』『世界の日本人妻は見た!』など多数の構成や脚本を手がける。2001年に子連れで働ける女性ばかりの制作会社ベイビー・プラネットを設立し社長としても活躍。
Domani2018年6月号 新Domaniジャーナル「風通しのいい仕事道」 より
本誌取材時スタッフ:構成/佐藤久美子