「住めば都」の意味や由来は?
「住めば都」の意味については何となく知っていても、何が由来となって使われるようになったのか、よく分からないことが多いかもしれません。ここでは、「住めば都」の意味や由来について紹介します。
意味
「住めば都」とは、不便だと感じられるような場所でも、住み慣れるとかえって居心地がよくなることの例えです。自分には合わないと思っていても実際に知ってみれば意外と馴染めたり、仕事や新生活に慣れる前は大変なことばかりだと思っていても、慣れてしまえばむしろ気楽に感じられたりすることなどはよくあるでしょう。
「住めば都」といえば、どんな場所でも実際に住んでみれば案外住みやすく感じるという意味として使われることが多いですが、つらく苦しい境遇でも、慣れてしまえば苦にならないという意味で使われることも。
また、「住めば都」を「住むなら都会がいい」という意味として使うのは誤りです。「住めば都」の「住めば」は、「住む」の已然形(仮定形)に助詞の「ば」が付属して構成されているため、住んでみればというニュアンスを持っています。
似たような表現として「住まば都」が挙げられますが、こちらは住むなら都会がいいという意味ですので、混同しないように注意しましょう。
由来
住み慣れると心地よいという意味を持つ「住めば都」の起源は古く、江戸時代以前の中世までさかのぼるといわれています。出身や居住地、価値観の違いなどについて話をする時は特に、「都会」と「地方」という対照的な言葉で区別することがよくあります。中世の日本でも、都会と地方は対照的な存在として認識されていたのです。
都に住む貴族たちは、権力の集中する華やかな都で暮らすことに誇りを持っており、貧しく質素な地方での暮らしを厭う傾向にありました。そのため、源氏の勢力に追い詰められた平氏が西国へと逃れたことを指す「平家の都落ち」にも見られるように、都で暮らすことができなくなって地方に転住することを「都落ち」と表現して軽蔑していたとされます。
様々な事情で都から地方へと移り住んだ人々は、最初は不安や絶望を抱えつつも、暮らしているうちにその土地の風情や人情などを知り、居心地がよくなったのでしょう。こうしたことが由来となって、「住めば都」という言葉が生まれたと考えられています。
また、故郷から離れた場所に転住することになり、不安を抱えている人を励ます役割を果たしていたのではないかともいわれています。
使い⽅を例⽂でチェック
では、「住めば都」にはどのような使い方や言い回しがあるのか、例文を見ながら確認していきましょう。
1:「不便な町だと思っていたが、意外と住みやすくてまさに住めば都だ」
住みにくい町だと思っていたが、実際に住んでみると居心地がよくて住みやすいという意味です。この例文では、どんな場所でも住み慣れるとかえって居心地がよくなるという意味として「住めば都」が使われているのが分かりますね。
2:「住めば都という言葉にもあるように、最初から不便な町だと決めつけるのはよくない」
「住めば都」は、不便だと思っていた場所でも、実際に住んでみれば案外居心地よく感じられるという意味を持つことが分かりました。一方で、実際に住んでいたわけでもないのに不便な場所であると勝手に決めつけているというニュアンスも。
この例文は、そのような偏見で町のイメージを決めつけるのは間違っている、ということをいっています。
3:「住めば都と言うから、もう少し頑張ってみよう」
この例文は、「住み慣れると居心地がよくなるだろうから、新しい土地でもう少し頑張ろう」という意味と、「今はつらくても、慣れてしまえば苦にならないだろうから、もう少し頑張ろう」という意味のどちらとも受け取ることができます。
類語や⾔い換え表現にはどのようなものがある?
では、「住めば都」の類義語や言い換え表現にはどのようなものがあるのでしょうか? それぞれの意味について確認しておきましょう。
1:地獄も住み家
「地獄も住み家」とは、どんなにひどい場所でも、住み慣れてしまえば心地よく感じるという意味です。最初は地獄のように感じられる場所でも、住んでみれば思っていたほどひどい環境ではなかったということの例えとして使われるため、住み慣れると心地よいという意味として使われる「住めば都」と似ています。また、「地獄も住み処」と表記されることもあります。
2:住めば田舎も名所
「住めば田舎も名所」とは、不便で質素に感じられるような田舎でも、住み慣れるとまるで名所にいるような気持ちになるという意味です。こちらも、住み慣れると心地よいという「住めば都」の意味と似ています。
「住めば都」と「住まば都」の違いは?
先述の通り、「住めば都」とは対照的な意味を持つ表現として「住まば都」が挙げられます。「住まば都」とは、住むなら都会の方がよいという意味で、たった一文字違うだけで全く正反対の意味になるのが面白いところ。
「住まば都」の「住まば」は、「住まねばならない」という意味ではなく、「もし住むとしたら」という仮定の意味を持っています。
地方での生活も慣れてしまえば悪くないということが由来となって生まれた「住めば都」とは対照的に、都会に住みたいという意味を持つ表現のため、「住まば都で、地方での暮らしも悪くないよ」という使い方は誤りです。使う際には十分注意しましょう。
英語表現は?
どんな場所や環境でも、慣れてしまえばむしろ気楽だという意味を持つ「住めば都」と似たようなニュアンスの慣用句は、英語圏にも存在します。また、learn to like(直訳すると、好きになることを学ぶ)という表現を使うと、次第に好きになっていくという「住めば都」に近い意味として英訳することができます。
1:To every bird, his own nest is beautiful. (全ての鳥にとって、自分の巣は美しく、住めば都だ)
2:Home is where you can make it. (故郷は自分で作り上げるもので、住めば都だ)
3:There is far from the city, but you will learn to like it. (都市からは遠いけれど、住めば都だよ)
最後に
今回は、「住めば都」の意味や由来、類義語などを紹介しました。新しい場所での新生活を始める時などによく耳にする「住めば都」。想像以上に長い歴史や、あまり知られていない由来があって面白く感じたのではないでしょうか。
また、「住めば都」には、どんな場所や環境も、慣れてしまえば快適に思えるという意味があることが分かりました。新生活や転職などで緊張や不安を抱えている方も、「住めば都」というポジティブな気持ちで、できることから少しずつ乗り越えていきましょう。
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