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LIFESTYLE スキルアップ

2022.12.23

頭いい人が実践「思考力の鍛え方」なるほどな方法 「論理」と「ひらめき」を使いこなすのが大切だ|

 

変化が激しいデジタルサービス時代において、日本企業では「能動的に提案することが苦手」「完璧なものを作ろうとするあまり、行動力がそがれる」といった負の側面が目立ち始めています。

この状況を打破するのが「自ら考える力」、すなわち「思考力」だと説くのが、ビジネスコンサルタント兼著述家であり、近年は思考力に関する講演を企業や各種団体、大学などに対して国内外で実施する細谷功氏です。

近著『思考力の地図 論理とひらめきを使いこなせる頭のつくり方』から、思考力の全体像を理解して論理力と想像力を両立するためのヒントを紹介します。(この記事では本書から一部抜粋してお届けしています)

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「そもそもの問題」を疑ってみる

思考力を養う上で「疑う心」を持つことは重要となります。「疑う心」の一例として、「そもそもの問題」自体が適切かどうかを疑ってみるということが挙げられます。「答え」つまり結論のほうではなく、「問い」つまり与えられた問題自体がおかしいのではないかと疑うことです。

問題解決をするときのまずいパターンの1つは、「間違った問題を正確に解いてしまう」ことです。解くべき問題そのものが違っていると、うまく解いたとしても、それは有効な解決策になりません。もともと解こうとしている課題に対して一番よい問題を解かなければならないわけです。それでは、どういう場合に解く問題を間違えてしまうかを考えてみます。

「なぜ」を問うことでさらに本質的な問題に迫っていく

図1はある問題を分析したロジックツリーです。ロジックツリーとは、論理のためのツリーであり、木の形をした図あるいは樹形図で、課題の原因を分析する有効な手段です。

1つ目に考えられるのは、例えば①が問題だと認識しているのに、実はこれが表面的な問題で、その原因を深掘りして、なぜを繰り返したときに、深掘りされた②が本来は解くべき問題だったという場合です。

解こうとしている問題が表面的な問題なのか、根本的な問題なのか、あるいはそれは単なる手段だったのか、より上位の目的があったのかということです。

問題分析のロジックツリー。横軸は原因の深掘り、縦軸は問題の優先順位を表す図1(出所:『思考力の地図 論理とひらめきを使いこなせる頭のつくり方』)

表面的な問題を解いてしまうリスクに関しては、「なぜ」を問うことによってさらに本質的な問題に迫っていくのが、問題そのものを疑ってみることの1つのあり方です。

上記で解説したのは、図1の「横方向」つまり原因の深掘りが浅かった場合の例ですが、もう1つは全体の中で部分の決め打ちでしか見ていなくて、別のところ(例えば③)にさらに優先順位の高い問題があったかもしれないという可能性です。

表面なのか根本原因なのかという話と、全体の中での位置づけという、図表1の横方向と縦方向の2つが解くべき問題を正確につかむカギとなります。

そもそもこの問題でいいのかということを疑ってかかり、さまざまな視点から見ていって最適な問題を解くことが重要です。

事実と解釈とを切り分けて考える

このように、真の問題にアプローチできない理由はさまざまなものが考えられますが、その中で重要な原因の1つとして、無意識のうちに事実に勝手な解釈が入り込んでしまっていることが挙げられます。これを防ぐための「事実をありのままに見る」ということについて、もう少し詳しく説明します。

現実的には事実をありのままに見るということは、実は不可能です。所詮(しょせん)は何かを抜き出しただけという「言葉」そのものの限界であったり、私たちがみな例外なく持っている認知バイアスと言われる認知のゆがみがあったりするからです。ここでは、なるべくそのような「余計な解釈」を外して考えてみようということについてお話したいと思います。

最もわかりやすい解釈の例は、物事の「善悪」や「正誤」です。世の中の事象に、絶対的な善悪や絶対的な正誤というのはほとんどありません。したがって、何かを語るときにポジティブあるいはネガティブな見解が入っている場合には、それはその人なりの解釈が入ってしまっていると考えるのが妥当です。

似たような言葉に「常識」「非常識」があります。この言葉が出てきたときも要注意です。常識とは固定化された解釈そのものを意味するからです。

「事実」とは、人によって解釈が変わらないもののこと

事実をありのままに見るためには、事実と解釈とを切り分けて考えることが重要になってきます。「事実」というのは、人によって解釈が変わらないもののことです。

「事実」と「解釈」の対比図図2(出所:『思考力の地図 論理とひらめきを使いこなせる頭のつくり方』)

例えば「A社の売上が昨年は○億円だった」というのは事実ですが、そのA社の昨年の売上を見て、例えばある人は「競合のB社に比べてだいぶ伸びが悪かった」と思うかもしれません。別の人にしてみると、「前評判のわりには意外によかった」と思うかもしれません。その解釈というのは人の数だけ存在するということです。

このように、事実をありのままに見るためには、人によって異なる解釈の部分を切り離して観察してみることが重要であると言えます。

上位概念で考えるとは?

思考力を養う上で、「つなぐ」という考え方は非常に重要です。個別の情報や事実、あるいは経験や知識をつなぎ合わせることで新しいアイデアやメッセージを生み出すのが考えるということです。

思考力の土台に「疑う心」があると前述しました。ここからは、もう1つ思考力を支える重要な考えについて説明していきます。

キーワードは「上位概念」です。上位概念というのは、下位概念との比較で、「上と下」という軸によって説明できます。「下位と上位の概念を往復してつなげる」というのが「考える」ということなのです。例えば、「具体と抽象」の関係は下位と上位の概念の関係です。一般的に「上位概念」と言うときには、「抽象レベルが高い」ことを意味する場合もあります。

個別に1つ1つ考えるのではなく、共通するものをまとめて抽象レベルを上げて一般化するというのが抽象化の考え方です。

「2つの推論方法」として、帰納的推論と演繹的推論という方法があります。帰納的な考え方というのは、1つ1つの具体的な考え方を一般論にするということで、抽象化の典型的な例です。

逆に「抽象的な概念を具体的な個別の例に落としていく」という「具体化」が、演繹的な考え方の1つの表現方法です。このように、論理的な推論も上位概念と下位の概念をつないで往復していくというステップを踏んでいます。

抽象的な概念を具体化する図図3(出所:『思考力の地図 論理とひらめきを使いこなせる頭のつくり方』)

同様に、手段と目的の関係も下位概念と上位概念の関係です。1つの目的には複数の手段があります。これら複数の手段をつないで関連づけるのが、「上位の目的」というように考えられます。

「手段と目的」の関連づけの例

「手段と目的」の関連づけの例を挙げてみましょう。先述のとおり、ある上位の目的に対して、1つの手段があったときに、「目的が同じであれば他の手段も利用可能」という観点で選択肢を列挙する場面に応用できます。

例えばここでの「手段」が、ビジネスの現場における情報システムの導入だとします。しかしながら、情報システムを導入するという場合には必ず、上位の目的である、「コストダウン」や「業務の効率化」などが存在するはずです。それなら、例えばITではなく別の形でコストを下げようとか、もしかするとIT導入より低コストで実現できる別の手段も考えられるということです。

実際のビジネスの現場ではしばしば「当初の目的を見失って、ITの導入そのものが目的になってしまう」という「手段の目的化」が起こりますが、これは「上位概念の喪失」という典型的な思考停止の状態であることが理解できるでしょう。

「なぜ?」だけが土俵を変えることができる

「上位概念で考えること」の次の例は、「なぜ?」という問いかけです。「なぜを5回繰り返せ」とか「そもそもの理由(=なぜ)を問うてみる」は、ビジネスの課題の本質を探り出す上でよく語られることです。

汎用的なフレームワークに「5W1H」があります。英語における疑問詞にはWhy、What、Where、When、Who、Howがありますが、この中で「なぜ」(Why)という言葉は、考えるということに対して非常に重要かつ特別な意味を持っています。

それでは「なぜ」他の疑問詞と比べて「なぜ」だけがとりわけ重要なのでしょうか? 「考える」という行為に不可欠な、「なぜ」という言葉について考えてみたいと思います。

先ほど、手段と目的との関係について話をしました。これは情報システムにしろ何にしろ、日常業務における「手段」というのは、上位の目的を考えると(さらによい)別の手段が出てくる可能性があるというのがポイントでした。

この「手段と目的との関係」もまさに「なぜ」という関係になります。なぜという言葉についてあらためて考えてみると、この言葉は「理由」を表現する疑問詞そのものです。

他の「何」「どこ」「いつ」「誰」というのは「なぜ」のような(関係性という)「線」ではなく「点」を表現するものです。

「なぜ」の力で、真の目的あるいは原因にたどり着ける

「なぜ?」だけが「関係性」の疑問詞である。「なぜ?」で本質に迫ることができる。図4(出所:『思考力の地図 論理とひらめきを使いこなせる頭のつくり方』)

製造現場で「なぜを5回繰り返すと本質に迫れる」ということが言われますが、「なぜ」は「関係性」なので、例えば1つ先の原因→2つ先の原因→……と、1つずつ根本的な原因にさかのぼっていけるということを意味します。ほかの「どこ」「いつ」「誰」などは「関係」ではないので、何度も繰り返すことに意味がありません。つまり「なぜ」ほどの「奥の深さ」がないのです。

以上が「なぜ」という言葉の特別なポイントです。それによって本質に迫ることができるということで、真の目的あるいは原因にたどり着けるのは「なぜ」の力によるものです。

「なぜの特殊性」はもう1つあります。それは「土俵を変える」ことができるという点です。1つの手段を考えたときに、それは与えられた条件と考えて、その中でそれをいかに「うまくやろうか」と考えるのが1つの方向性です。

これに対して、目的つまり「なぜ」を考えると、そもそも別のやり方でもいいじゃないかということまで思考が広がり、やろうとしている手段そのものを別の形に変えてしまおうという発想にまで飛んでいきます。

つまり、「そもそも与えられた問題をもっとよい問題に変えてから最適化する」のが「Why」だということです。

「具体と抽象の往復」で応用範囲を広げる

上位概念と下位概念との往復の事例の典型的な例が、ここで述べる具体と抽象との往復です。

ビジネスの現場では、「抽象的でわからない」とか「話が抽象的で実現できる気がしない」といった表現で、「抽象」という言葉は否定的な文脈で使われることが多いと思います。

ところが思考力全般で考えたときに、抽象という概念は不可欠な考え方です。

あらためて具体と抽象というのは何かについて考えてみます。具体というのは直接目に見える個別のものや事象であり、なんらかの実体と直接つながっています。

したがって、思考力の最終的なアウトプットである「結論」あるいは「メッセージ」というのは、具体性がないと意味がありません。単に「職場をよくしましょう」とか「よい商品を出しましょう」という言葉で終わってしまうことがありますが、これでは「抽象的すぎて」次のアクションにつながっていきません。

具体とは、「固有名詞と数字」

結論と呼べるためには、最終的にはそれを「何月何日に○○さんが○○さんと○○について話をして◯◯についての同意をする」というところまで具体化しないといけません。

「具体」と「抽象」の比較表図5:具体と抽象の往復(出所:『思考力の地図 論理とひらめきを使いこなせる頭のつくり方』)

具体とは、「固有名詞と数字」です。よくも悪くも実体とつながっているのが具体です。1つ1つ個別に対応する、1つ1つ別々に見えるのが具体の世界です。

したがって個別の知識を集めて一般則を考える「帰納法」においても、1つ1つの具体的な例を出し情報を集めるときにも、「A社のXさんが何をした」「A社の去年の売上はいくらだった」「商品はY地方で何%売上が上がって、Z地方で何%下がった」といった具体的な情報が大事になってきます。

具体の別の側面は「解釈の自由度が低い」ということです。先ほどのアクションでも同様ですが、解釈の自由度が低いということは、目標を立てたときにそれが達成できたか否かが明確にわかるということです。

したがって、目標を確実に達成したいときには、具体的に設定する必要があります。

一方、具体的であることのデメリットは(自由度が低いので)「応用が利かない」ということです。1つ1つ個別にすべて対応しなければいけないので、A社でやったことをそのままB社に使うことができません。

抽象は応用を利かせられる

一方、抽象のメリットというのは、応用を利かせられるということです。抽象は具体とは違って目に見えず、実態とは乖離(かいり)していますが、解釈の自由度が高く、そして応用が利くという特徴を持っています。また、抽象は具体と比べて、より上位概念となります。

抽象世界に存在する「一般的なルール・法則」は、応用が利くという抽象のメリットを理解するのに役立つでしょう。一般的なルール・法則とは、例えば、「鳥類にはどんな性質があるか」や「ある業界の会社にはどんな傾向があるか」などです。「鳥類は体を羽毛でおおわれている」という一般的なルールから、「ペンギンは体を羽毛でおおわれている」、「自分は見たことはないが、名前だけは知っている海外のある鳥は体を羽毛でおおわれている」など、さまざまな個別の事例に応用することができる、というわけです。

「具体と抽象の往復」で人間の知恵が広がる

思考力を養う上で重要となってくるのが、「具体と抽象の往復」です。一度、個別の具体的な事実などから一般的なルールに抽象度を上げて、それを再び別の下位にある具体的な事象に適用していくことが、具体と抽象の往復です。「考える」ことの本質であり、これを繰り返すと、人間の知恵が広がっていきます。

具体と抽象を往復するのに役立つ方法として挙げられるのが、「帰納的推論」と「演繹的推論」です。帰納的推論とは、具体的な1つ1つの個別の事象を積み重ねていって一般的なルールを作っていく、「具体から抽象へ」の世界です。一方で、演繹的推論とは、主に一般的に作ったルールを個別のものに当てはめ、別の個別のものにどんどん応用できる、「抽象から具体へ」の世界です。

具体と抽象のピラミッド図6:具体と抽象のピラミッド (出所:『思考力の地図 論理とひらめきを使いこなせる頭のつくり方』)

帰納的推論と演繹的推論はまさにペアになっており、どちらか一方では役に立ちません。双方を駆使して、個別の事象を一度抽象の世界へと一般化し(帰納的)、これを再び具体化して別の世界に適用していく(演繹的)ことで、思考の応用範囲を大きく広げられるようになります。

抽象化とは

抽象化あるいは一般化について、ここでもう一度考えてみます。

例えば玄関にいくつかの履き物があったとします(図7)。そのときに、「Aくんの左のスニーカー」「Aくんの右のスニーカー」といった個別のものをまとめて「左と右を一緒にしてしまおう」と考えて、「Aくんのスニーカー」として扱うのも、抽象化の一例です。あるいはスニーカー全般を一緒にしてしまおう、サンダルだったらサンダルを一緒にしてしまおうということも、抽象化と言えます。

「抽象化」のイメージ図図7:抽象化(一般化)とは?(出所:『思考力の地図 論理とひらめきを使いこなせる頭のつくり方』)

抽象化、一般化により、「サンダルを取ってきて」と言ったときに「どのサンダルか」をいちいち説明しなくても相手に意味が通じるようになります。

もし、抽象化ができない場合は、1つ1つ具体的に言う必要が出てきて、「Aくんの右のサンダル」「Aくんの左のサンダル」「Bさんの右のサンダル」「Bさんの左のサンダル」の4つを、全部説明しなければならないことになってしまいます。抽象化を抜きにしては、「Aくんの右のサンダル」と「Bさんの左のサンダル」は、同じ「サンダル」だということを理解することは難しいのです。

個別に対応するのではなく、それをルール化して応用範囲を広げることが、人間の知能の威力です。これによって科学やさまざまな学問が発達してきました。

ビジネスの場面でもこのような「具体と抽象の往復」が非常に重要な要素になります。

『思考力の地図 論理とひらめきを使いこなせる頭のつくり方』(KADOKAWA)『思考力の地図 論理とひらめきを使いこなせる頭のつくり方』(KADOKAWA)

ビジネスコンサルタント、著述家

細谷 功(ほそや いさお)

1964年、神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業後、東芝を経てアーンスト&ヤング・コンサルティング(クニエの前身)に入社。2009年よりクニエのマネージングディレクター、2012年より同社コンサルティングフェローとなる。問題解決や思考に関する講演やセミナーを国内外の大学や企業などに対して実施している。

著書に『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』、『アナロジー思考 「構造」と「関係性」を見抜く』『問題解決のジレンマ イグノランスマネジメント:無知の力』(以上、東洋経済新報社)などがある。

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