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【目次】
エバンジェリストとは何か?
IT業界で活躍する「エバンジェリスト」は、エンジニアや一般職とは違った役割を持ちます。一体どのような役職なのか、営業職や広報との違いを交えながら解説します。
IT業界における新しい専門職を指す
エバンジェリストとは、企業の製品やサービス、技術の魅力を広く伝えるために設けられた専門職です。
エバンジェリスト(evangelist)
1. キリスト教で、福音(ふくいん)伝道者。
2. 製品などの啓発・宣伝を行う人。
小学館『デジタル大辞泉』より引用
たとえば、スマートフォンやアプリ・クラウドサービスなどの複雑な技術を、顧客やエンジニアなどにわかりやすく説明する役割を担っています。
エバンジェリストに求められるのは、単なる宣伝や販売促進ではありません。専門知識を生かし、「自社の製品やサービスがどのように人々の生活や仕事を改善できるのか」といったことを具体的に示す力が必要です。
また、エバンジェリストは自社の従業員に、新しい視点や知識を与えるためにも活躍します。他部門との連携や情報共有を促進し、製品やサービスの価値を高める重要な役割も果たしているのです。
エバンジェリストと営業職の違い
エバンジェリストと営業職は、役割と目的が異なります。エバンジェリストは製品やサービスの価値を広く伝え、業界全体の発展を目指す職種です。
一方、営業の役割は個別の顧客に対して、直接的な販売活動を行うこと。また、エバンジェリストは長期的な視点で活動しますが、営業は短期的な成果や数字の達成に重点を置く傾向があります。
エバンジェリストには、技術に対する深い理解と、それをわかりやすく伝える能力が不可欠です。一般的な営業職には、技術的な専門性が必ずしも求められない点も、両者の大きな違いといえるでしょう。
エバンジェリストと広報の違い
エバンジェリストは技術やサービスの価値を深く理解し、エンジニアや顧客、潜在的なユーザーに向けて情報を発信します。
一方広報は企業全体のイメージまたは情報などを、一般公衆や報道機関に向けて伝える役。主な目的は、企業の方針やブランドイメージを維持・向上させることです。プレスリリースの作成やメディア対応、危機管理などを担当し、企業全体の評判を管理します。
エバンジェリストと広報は、それぞれ異なる専門性と役割を持ち、企業のコミュニケーション戦略において補完的な関係にあるのです。
エバンジェリストの始まりと必要性

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エバンジェリストは、比較的新しく生まれた役職です。その起源や求められるようになった背景、必要性などを解説します。
1980年代にアップル社から始まったとされる
エバンジェリストの起源は、1980年代にさかのぼります。当時、アップル社が自社製品の優位性を広く伝えるために、エバンジェリストという役職を設けたとされています。
設置された理由は、IT業界の急速な進歩と複雑化。新しい技術やサービスが次々と生まれる中で、その価値をわかりやすく伝える専門家の必要性が高まったのです。
エバンジェリストが誕生して以来、多くの企業でその価値が認められ、技術の普及に貢献してきました。
進歩の速いIT業界だからこそ必要な役職
新技術や製品が絶え間なく次々と登場し、日進月歩なIT業界。急速な変化の中で、エバンジェリストの役割はますます重要になっています。
革新的な技術を発表しても、ユーザーの理解が追いつかなければ、製品やサービスの魅力をアピールすることは困難です。複雑な技術の活用法をかみ砕いて説明し、その価値を広く伝えるエバンジェリストは、技術と人をつなぐ重要な存在だといえます。
また、業界の動向を把握し、自社の製品やサービスの方向性を示唆する役割も果たしています。彼らの活動は技術の普及を促進し、イノベーションの加速にも貢献しているのです。
エバンジェリストの具体的な仕事内容

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エバンジェリストは、企業の発展に欠かせない存在です。立ち位置や必要性などをより詳しく理解するために、具体的な仕事内容を紹介します。
自社製品やサービスのプレゼン
エバンジェリストの重要な仕事のひとつが、プレゼンテーションです。イベントやセミナーなどで聴衆を魅了し、共感を得るストーリーテリングによって、自社製品やサービスの価値を伝えます。
たとえば新しいクラウドサービスを紹介する際、技術の特徴だけでなく、そのサービスがどのように企業の課題を解決し、ビジネスを変革するかを具体的に描き出すことが主な役割です。
また、自社のビジョンや理念を体現する存在でもあります。彼らは業界のトレンドや最新技術に精通し、その知識を生かして、聴衆に新たな気づきや可能性を提示します。
プレゼンテーションを通じて、エバンジェリストは自社サービスへの信頼と期待を高め、潜在顧客の獲得や既存顧客の満足度向上にも貢献しているのです。
個別ユーザーへの対応
既存のユーザーや潜在的な顧客に対して、個別に対応することも重要な役目です。製品やサービスに関する質問・相談に応じ、課題解決をサポートします。
また、自社製品やサービスの有用性を伝えるための実演や、ときには自らユーザーの声に耳を傾けて需要と不満を理解し、適切な解決策を提案することも。
さらに、ユーザーとの対話で得た洞察を、社内に伝える大事な役割まで担っています。この過程で得られたフィードバックは、製品改善や新機能開発などに生かされます。
エバンジェリストには技術的な専門知識だけでなく、ユーザーの立場に立って考える共感力も必要です。直接的なコミュニケーションは、顧客満足度の向上や長期的な信頼関係の構築につながります。
自社内へのマーケティング
エバンジェリストの役割は、自社内へのマーケティングにも及びます。社内の各部門に製品やサービスの価値を伝え、全社的な理解と協力を促進するのも大切な仕事のひとつです。
主に開発者とマーケティング部門の橋渡し役として、技術面の特徴を簡潔に説明し、効果的な販促戦略の立案を支援します。また、経営陣に対して、業界動向や競合分析を踏まえた戦略を提案するという重要な役割も担っています。
ほかにも社内セミナーやワークショップを通して、従業員のスキルアップや意識改革に貢献するなど、エバンジェリストは組織全体の成長と革新を促す存在なのです。
エバンジェリストに必要とされる能力

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エバンジェリストに必要とされる能力は多岐にわたります。高度な専門性と知識が不可欠なため、エンジニアや営業職など、ほかの職種を経験している人が少なくありません。
エバンジェリストとして活躍するために必要な能力を紹介します。
コミュニケーション能力
製品やサービスの価値を効果的に伝え、顧客や開発者との信頼関係を構築するエバンジェリストには、コミュニケーション能力が欠かせません。
単に製品やサービスの情報を伝えるだけでなく、相手の立場に立って対話する力が求められます。
技術的な内容を、専門知識のない人にもわかりやすく説明する能力も必須といえるでしょう。セミナーや顧客との対話などでは、相手の反応を読み取り、適切に対応する柔軟性も必要です。
さらに、社内外のさまざまな立場の人々と、良好な関係を築く力を持っていなければなりません。エバンジェリストには、通常の情報伝達を超えた多面的なコミュニケーションスキルが求められます。
プレゼンテーションのスキル
高度なプレゼンテーションスキルも必要です。なぜなら、ただ情報を伝えるだけでなく、聴衆を魅了する必要があるためです。複雑な技術について多くの人に伝わるよう説明し、製品やサービスの価値を効果的に示さねばなりません。
エバンジェリストは、大規模なカンファレンスから小規模なミーティングまで、さまざまな場面でプレゼンテーションをします。聴衆の規模や背景に合わせ、説明方法を変える工夫も必要です。
また、聴衆の興味を引き付ける資料づくりも重要でしょう。優れたエバンジェリストは、複雑な概念をシンプルな図や例えを用いて説明することで、聞き手の理解を促進します。
加えて、質疑応答に適切に対応できる即興力も要求されます。予期せぬ質問にも冷静に答え、聴衆との対話を通じて信頼関係を築く能力が、エバンジェリストとしての成功につながるのです。
常に自ら学ぶ姿勢を保ち続ける能力
エバンジェリストには、常に自ら学び続ける姿勢が欠かせません。IT業界の急速な進化に追いつくため、最新の技術動向や市場ニーズを絶えずキャッチアップする必要があります。
つまり自社製品のみならず、競合他社の動向や業界全体の変化にも敏感でなければならないのです。そのような知識の蓄積はもちろんのこと、新しい情報を咀嚼し、自社製品やサービスにどう生かせるかを考える応用力も求められます。
職場で力を発揮するには、自己啓発の機会を積極的に求め、セミナーやカンファレンスへの参加・技術書の読破など、常に最新の知識を吸収し続けることが必要です。
エバンジェリストとして有名な日本人

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アップル社で設置されたことがエバンジェリストという役職の始まり、とされていますが、日本にも注目すべき人たちがいます。エバンジェリストとして活躍している有名人のプロフィールを紹介します。
【日本マイクロソフト】西脇資哲氏
「日本マイクロソフト株式会社」の業務執行役員である西脇資哲氏は、エバンジェリストとして高い評価を受けている人物です。2009年に日本マイクロソフトへ入社後、エバンジェリストを務め、マイクロソフト製品の技術や魅力を開発者コミュニティに伝えています。
日本でエバンジェリストという存在を有名にした立役者として知られ、開発者向けのイベントやセミナーへ頻繁に登壇。FMパーソナパーソナリティとしてラジオ番組も担当しています。
西脇氏の活動は、マイクロソフトの製品やサービスの普及に大きく貢献しており、エバンジェリストの重要性を示す好例といえるでしょう。
【サイボウズ】野水克也氏
2024年12月末まで「サイボウズ株式会社」の社長室フェローを務めていた野水克也氏も、有名なエバンジェリストのひとりです。野水氏は、自社製品の魅力を伝えるだけでなく、働き方改革や組織文化の変革についても積極的に発信していました。
野水氏の特徴は、技術的な知識とテレビカメラマンなどを経た異色の経歴、そして高い人間性を兼ね備えている点でしょう。製品のメリットを説明するだけでなく、それがどのように企業文化や生産性の向上につながるか、具体的に示すことに長けているのです。
また、自身の経験や失敗談を交えた講演は聴衆の共感を得やすく、記憶に残りやすいものとして評価されています。
【ソラコム】玉川 憲氏
IoT(Internet of Things)扱う「株式会社ソラコム」の代表・玉川憲氏も、アマゾンデータサービスジャパンにてエバンジェリストとして活躍していました。
玉川氏の特徴は、技術に関する深い知識と、ビジネス戦略を融合させた独自のアプローチにあります。現在はソラコムのCEOとして、IoTの可能性と課題をわかりやすく説明し、多様な企業のデジタル変革を促進中です。
また、玉川氏はさまざまなメディアや自身のSNSを通して、IoT業界の動向や技術的な洞察を定期的に発信しています。
エバンジェリストに関係する資格もチェック

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エバンジェリストになるために必要な資格は特にありませんが、IT系の高度な資格は自身の専門知識を証明するために有効です。エバンジェリストの活動に役立つ国家資格や、企業が独自に設けている資格の例を紹介します。
ITストラテジスト
ITストラテジストは、エバンジェリストに関連する重要な国家資格のひとつです。情報処理技術者試験の最上位に位置し、IT戦略の立案や実行に必要な知識と能力を証明します。
ITストラテジストの資格を持つ人は、企業のIT戦略の策定から実施まで、経営とITのパイプ役を担える人材だといえます。
この資格を持つことで、より深い技術的知見と戦略的視点を身に付けられるでしょう。エバンジェリストとしてのキャリアアップや信頼性向上にも役立つ、価値ある資格といえます。
AIエバンジェリスト資格
AIエバンジェリスト資格は、複合機をはじめとしたデジタルサービスなどを取り扱う日本の会社が、独自に設けた人材育成制度です。主に、AI技術の普及と理解促進を目的としています。
AI・ディープラーニングに関する「G検定」などの外部資格取得や、会社が提供するe-ラーニングコンテンツの受講者、社内外に向けたAIセミナーの経験の有無など、要件を満たす自社の従業員を対象にしています。
同社がAIエバンジェリストを育成する目的は、全社的なAI知識の底上げです。近年、AI技術は急速な発展を見せており、社内でそれらを扱える人材の育成強化に取り組む企業は、今後も増えていくと予想されます。
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