パトロンとは何を意味する言葉?
まず初めにパトロンの意味を辞書で調べてみました。
1.主人。経営者。雇い主。
2. 芸術家・芸能人・団体などを経済的に支援し、後ろ盾となる人。
3. 異性への経済的な援助を行い、生活の面倒をみる人。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
パトロンという言葉の語源や似た意味を持つ言葉も知り、理解を深めましょう。
経済的な支援者のこと
パトロンとは「経済的な支援者」を指す言葉です。
特に、画家や作家など芸術家の後ろ盾となる人を、パトロンと呼ぶことが多いようです。それ以外では、経営者や雇い主のことをパトロンと呼ぶケースもあります。
また、クラウドファンディングの出資者もパトロンと呼ばれています。クラウドファンディングは、作りたい製品や実現したいアイデアに必要な資金を集める方法の一つ。価値があると感じたプロジェクトへ資金を提供する仕組みから、パトロンと呼ばれているようです。
「異性への経済的な支援」を意味するケースもありますが、性的な見返りを求める支援というようなマイナスの意味は含まれていません。
パトロンの語源
日本国内で、経済的な支援者という意味で使われるようになったパトロンという言葉の語源は、英語とフランス語です。英語でもフランス語でもパトロンは「patron」と表記し、支援者・後援者という意味を持ちます。
「patron」の語源は、ラテン語で「父」という意味の「pater」から由来して保護者・雇い主を表す「patronus」だといわれています。そこから「patron」というフランス語、そして英語へつながったようです。
パトロンに似た意味の言葉
言葉の理解を深めるために、似た意味の言葉もチェックしましょう。
資金を出して支援するという意味では「スポンサー」がパトロンによく似た意味の言葉です。しかし、パトロンが特定の人を支援するのに対し、スポンサーは主に計画・経済活動に対して出資する人・企業のことを指すことが多いでしょう。
また、後ろから支える人という意味の「後ろ盾」もパトロンと似た言葉です。後ろ盾は資金援助をしないケースも含める点が、パトロンと異なります。後ろ盾の場合、人脈を紹介するといった形で支援することもあります。
パトロンの歴史
パトロンの歴史は紀元前にさかのぼります。長い歴史の中で、パトロンは文化の発展に大きく貢献してきました。
歴史上初のパトロンはマエケナス?
歴史上初めてのパトロンは、帝政ローマ時代の政治家ガイウス・キルニウス・マエケナスといわれています。ローマ帝国初代皇帝に、外交や政治に関するアドバイスを行っていました。
マエケナスは政治家として活躍する一方、自宅や別荘を詩人に開放し活動をサポートしていたようです。パトロンと同じ意味のフランス語「mécène(メセーヌ)」は、マエケナスの名前が由来といわれています。
mécène /mesεn/
[男] (芸術家,学者,研究団体などの)庇護(ひご)者,財政援助者.
『プログレッシブ 仏和辞典 第2版』(小学館)より引用マエケナス まえけなす Gaius Maecenas(?―前8)
古代ローマの政治家。エトルリア出身のローマ騎士で、第2回三頭政治・内乱時代のオクタウィアヌス(後の皇帝アウグストゥス)の腹心の部下となる。オクタウィアヌスの重要な政治折衝での代表となり、さらに彼の不在中はローマでの全権をもった代理の役割を務めた。帝政期には、アウグストゥスへの陰謀事件に義理の兄弟が連座したこともあり、アウグストゥスとの関係は疎遠となった。彼は、文学者、とくに詩人の熱心な後援者でもあり、ウェルギリウス、ホラティウス、プロペルティウスなどのラテン文学の黄金時代を築いた詩人たちを自ら庇護(ひご)すると同時に、アウグストゥスに紹介した。また、生涯元老院議員にならず、騎士身分にとどまったことでも知られる。[島田 誠]
『日本大百科全書(ニッポニカ)』(小学館)より引用
パトロンの意義
パトロンによる芸術家のサポートは、歴史的に見て芸術の発展に大きく貢献しています。中でも有名なのはルネサンス期のイタリアで、銀行家や政治家として台頭していたメディチ家です。
優れた経営手腕と政治能力を持っていたコジモ・デ・メディチは、パトロンとして学問や芸術を支援していました。その際、芸術家たちの価値を理解し、リクエストもしているのが特徴です。
この支援は後の世代にも引き継がれていき、ミケランジェロやラファエロの支援につながりました。市民が豊かになると、芸術家を支援することはステータスになったといいます。
例えば17世紀のオランダは、ヨーロッパの中で大きな力を持ち商業活動も活発で、富を築いた市民がこぞって芸術家のパトロンになりました。その結果、この時期のオランダからは、絵画のジャンルが確立され、特定のジャンルを専門にする画家が誕生しています。
メディチ‐け【メディチ家】
《Medici》ルネサンス期のフィレンツェの名家。14世紀に東方貿易と金融業で富をなして台頭。15世紀にはコジモがフィレンツェの事実上の支配者となり、その孫ロレンツォはフィレンツェへの富の集中と文芸の保護に努めた。のち、ローマ教皇やフランス王妃を輩出し、トスカーナ大公となったが、1737年に断絶した。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
その他にパトロンが意味するもの
「経済的な支援を行う人」という意味を持つ一般的なパトロン以外にも、パトロンと呼ばれるものがあります。マスターズトーナメントの観客と、メキシコ産のテキーラについて見ていきましょう。
マスターズトーナメントの観客
マスターズトーナメントは、ゴルフの世界四大メジャー大会の一つで、この大会の観客はパトロンと呼ばれています。由来は、マスターズができた1930年ごろに、資金難だった大会運営へオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブの会員が資金援助したことです。
現在もマスターズトーナメントでは、観客の入場料を賞金の一部に充てています。観客から受け取った資金が大会運営に使われていることから、現在も観客をパトロンと呼んでいるのです。
ただし、マスターズトーナメントのパトロンは誰でもなれるものではありません。パトロンの権利を持っている人と賃借契約を結んで、観戦バッジを一時的に借りて入場する必要があります。
メキシコのお酒テキーラ
社名を冠したラムのバカルディや、スパークリングワイン&ヴェルモットのマルティーニなどのブランドを持つバカルディ社は、パトロンというテキーラメーカーを傘下に納めています。
ラインアップは、シルバー・レポサド・アネホ・プラチナ・シトロンジなど。ハリウッドスターやセレブなどが愛飲していることから口コミで広がった、世界中で人気のテキーラです。
メイン・アイキャッチ画像:(c)AdobeStock