いいママ像から、はみ出す個性とは…
「私はほんとに極端で、母親になったことで『LiLyを続けるのはエゴなんじゃないか』と、真剣に産後1年間悩んでいたんです。保育園に入れる決心がつかなかった自分に、とてもびっくりしたんですよ。それまでは、ずっと仕事をしていて、ママになっても続けるつもりだったのに、赤ちゃんを育てるのは、想像の一億倍大変で、仕事との両立って不可能かも・・・と」
前回のお話▶︎世間の呪縛=「ママはこうあるべき」から自由になる
LiLyさんは、最初は子どもを保育園に預けず、仕事を続けていた。
「予防接種のスケジュールにしても、新生児のときは種類も多く、その計画を立てることすら大変。初めての赤ちゃんだから、全部完璧にやろうと思っていました。それと仕事のスケジュールでパンクしそうで、人間を育てるのはこんなに大変なんだと思ったんです。私自身も専業主婦の母親に大切に育ててもらったから、それしか“おかあさん像”がないんです」
LiLyさんが育ったエリアは、専業主婦家庭が大多数だった。
「旦那さんの稼ぎで、ぜいたくしなければやりくりしながら生活できるのに、それだけでなく自己実現とか夢とか、そんなのエゴじゃんと思っちゃったの。それで、1年ぐらい悩みました。それまで私は、人生の選択で迷ったことは、ひとつもなかったんです。留学も、結婚も、ハワイでの出産も、すべて周りの人がびっくりするスピードで即決してきました。でも、わが子を保育園に預ける・・・つまり、子どもという“超~大切な他人”の人生の決断が、自分にかかっている状況が初めてでした。私のジャッジが、彼の人生にかかわってくるんです。
あとは、本当にこれに尽きるのですが、初めての赤ちゃんに、全身全霊で夢中になっていました。こんなにも、こんなにも可愛いのかって。絶対に離れられない、離れたくないって体の底から感じていました。だから、迷うというより、離れなきゃ仕事ができないという事実が、既にもう悲しかったんですね。だけど離れなきゃ仕事にならないんです。どうしたらいいのかわからなくって、泣いていました。ホルモンバランスもあったと思います」
ずっと悩んでいたLiLyさんは、働くママである、先輩の漫画家さんに相談する。
「彼女は『保育園に入れるか入れないかで悩むことにエネルギーを使っているなら、“ここならば!”と思えるくらい自分がベストと思う保育園に入れることにパワーを使ってみたら?』と。
そのアドバイスが、私にピタリとハマったんです。何かを悩むことにエネルギーを吸われてしまうと、動けなくなるんですよね。だから、迷っている状態が長引いて前に進めなくなるんです。迷うことに使っていたエネルギーを、保育園選びにまずは向けてみよう。まずは動いて実際に見てみようって。そこで私は、区内すべての保育園の下見に行きました。すると、実際には想像していた保育園というのもまた、自分の中のイメージでしかなかったわけです。楽しそうに過ごす子ども達を実際に目で見ることで、保育園に預ける決心もつきました。
ただ、それでも本当に寂しかった。1歳まで離れたことがなかったから、息子にとってはもちろん、私も自分の体の一部と切り離されるような感覚でした。自分で選んだのに、辛いわけです。そのジレンマも産後のホルモンバランスの中、きつかった。
保育園初日、まだ慣らし保育で数時間離れるだけなのに、もう今までの恋愛でのどんなバイバイのシーンより悲しくって。その日のことは蜷川実花さんの桜の写真と共にエッセイにも書いたのですが(『Very LiLy』収録)、それくらい、強烈に印象に残っている感情です。
自分があそこまで“おかあさん”に振り切るとも思っていなかったので、自分でもびっくりでした。母親になっても、自分の母親とはまた違う、もっとクールで肝の座った女でいたいと思っていたので。
ふたりとも小学生になった今は、やっぱりホルモンバランスが元に戻ったんでしょうね。クールなかあちゃんになってきてはいます。でも、それでも根っこは心配性なんですよね。今も。だからこれもまた“体質”です。そういうのって、自分で選べないんですよね(笑)」
ママは子どもが最優先、というコンサバな考え方は、今も世の中に根深く残っている。
「私はそこは、コンサバ云々ではなくて、女の本能だと呼びたいと思っていて。『Domani』がリニューアルして、ママでも女としてイケてるのって最高! ってメッセージに勇気をもらったんですね。で、その1番イケてることって、子供優先! というところだと私は思っています。
だとえば夫以外の誰かに恋をして、子どもよりもその人に気持ちが暴走してしまう女性。子どもが成長して、ひさしぶりに恋をして沼にハマる女性が多発するのは、それはそれで仕方がない。ただ、女としての本能が正常ならば、子どもはその男性より絶対に大事なはず。
イケてる女と、だらしない女は違う。ギャル世代に育った人間にとって、ようはギャルとは、イケてるか死ぬか。イケてることって何か。それを突き詰めていくと、どう美学を持って生きているかどうか、につながっていきます。
いわゆる“いいママ像”からはみ出す個性を持て余してしまうのならば、それは必ず、かっこよくなきゃダメだと思う。母親という肩書きに誇りを持って、女という性別にも同時に誇りを持って、だって大変ですから! 母も女も仕事も全部やるなんて、もう大変ですから! それでもやらないとバランスが取れない体質ならば、美しくやろう。
かっこよく、美しくっていうのは、子ども(家族)を愛して、でもきちんと自分も愛そう。目ざすのはそのふたつの“愛の両立”と思います」
ママになっても、自己実現するには、自分の“体質”に合った生き方をすること。服、メーク、考え方まで・・・、30代はより充実した40代に向けて、自分の“体質”を考えるいいチャンスなのかもしれない。
作家
LiLy
連載に「OTONA MUSE」「Numero」「VERY」ほか多数。 最新刊『目もと隠して、オトナのはなし』(宝島社)。テレビ出演に『フリースタイルダンジョン』審査員 ほか多数。会員制「オトナの保健室」。Instagram:@lilylilylilycom、Twitter:lilylilylilycom