夫が娘を“誘拐”した!?
―― 昨年の夏、劒さんとお子さんがふたりで新幹線に乗っていたら、通報されてしまった、という事件があったとか…。
夫の実家から東京に戻る新幹線の中で、イヤイヤ期の娘が泣きやまずデッキで懸命にあやしていたんですが、それを見た人に「誘拐犯かもしれない」と通報されてしまったんです。上野駅で警察がゾロゾロとやってきて取り調べを受けました。親子だとすぐにわかって解放されましたし、通報した人も子どもを守ろうとする気持ちからだったと思ので、私も夫もその人を責める気持ちは全くありません。
でも、直後は夫も、さすがにちょっと傷ついている様子でした。その後しばらくは娘とふたりで外出しているときに、娘が泣いてしまうと「またまわりの人に、何か思われちゃうのかな」って。今はもうすっかり、元気にしていますけど。
―― 男性が育児を担うことが、まだまだ世間に認められていないと感じますか?
娘をあやしていたのが私だったら、通報はされなかっただろうな、とは思います。男性が幼児とふたりで新幹線に乗っている光景がまだまだ珍しいということもあったんでしょうね。
ただ、日常的には、イヤな思いをすることはほとんどありません。保育園ではパパが送り迎えをしている家庭も結構ありますし。「男だからどう」みたいなことを言う人はいません。もちろん、そういう人には私も近づかないようにしているから、ということもありますけど(笑)。
逆に「犬山さんのダンナさん、えらいね」「イクメンだね」などとすごく褒められるんですが、「女性が同じことをしていたら、あたりまえだと思われて、こんなに褒められないのにな」と思ったりはします。
“クソバイス返し”したいけど…できないときに、まずすべきこと
―― 著書の中にも「ママは減点方式で、パパは加点方式」という表現がありましたね。
取材したご夫婦からお聞きした言葉です。パパが子どもを連れて外出すれば多少スマホを見ていようが「エラい!」と言われるのに、女性が同じ状況だと「子どもがかわいそう! 子どもといるときはスマホを見ないほうがいいよ」と言われる、みたいなことってよくありますよね。
ほかにも女性は「やっぱり母乳がいちばん」とか「ひとりっこはかわいそう」「お母さんがそばにいないなんて」とか、求めてもいないのにアドバイスをされることが多々ありますよね。私は「クソバイス」と呼んでいるんですが、相手のためを思って言っているようで、実は上から目線で自分の価値観を押し付けているだけの、クソみたいなアドバイス。
―― でも、なかなか毅然と反論することはできなくて、モヤモヤだけが残る…みたいな。
わかります(笑)。理不尽なことを言われたときに、やり返したいけど、とっさにやり返すのは本当に難しい。上司とか後々の関係性を考えると反論しないほうが賢明な場合もありますし。いちばんの問題は、自分の自尊心が傷つくこと。とにかく「こんなことを言われても私の自尊心は傷つかない。この人は私の人生の責任は一切とってくれない」と自分に言い聞かせて自分の心を守ることが第一です。
その場ではグッと押し黙ってしまっても、その後で、否定しないで話を聞いてくれる人にめちゃくちゃ愚痴を言うに限る! 「真に受けないでいいよ」と言ってもらうことが心理的に大切だと思います。
「ちゃんとした母・妻でいなきゃ」の呪いを解く“ダラダラ妻同盟”
―― 毎日余裕がないと、クソバイスってジワジワきいちゃうんですよね。自分の育児に自信があるわけでもないし。犬山さんが「頑張り屋ほど先回りして抱え込みすぎる」と指摘されていたのは、ワーママたちにもまさに当てはまる言葉だな、と思いました。
SNSには“ていねいな暮らし”の投稿があふれていますしね。雑然とした部屋を前に「私、母親としてどうなんだろう…」と余計にイライラ落ち込むこともあるでしょう。でも、それってすごく視野が狭い状態になっていると思うんです。だから、ジェンダーバイアスにとらわれていない人の話をたくさん聞いたり、本を読んだり、とにかく第三者の目線を取り入れることが大切だと思います。
あと、私のオススメは、友達と「ダラダラ妻同盟」みたいなLINEグループをつくること(笑)。キラキラしたSNSとは対極にある、「どれだけ手抜きをしたか」「どれだけサボったか」「どれだけ夫に言ってやったか」を公開しあうグループです。お互いのダラダラさを笑い合って友達の言葉を借りることで、「きちんとした妻でいなきゃ」「きちんとした母でいなきゃ」といった呪いも解けていきます。
そもそも、それは母親だけが背負わなくちゃいけないイライラじゃなくて、夫婦ふたりで解決しなきゃいけない問題ですからね。まずは、夫婦の話し合いはマストだと思います。
取材・文/酒井亜希子(スタッフ・オン)
▶︎結婚して3年目から夫婦でカウンセリングに通ってました【犬山紙子の夫婦のモンダイ1】
犬山紙子著・扶桑社新書377
育児・家事、夫婦ゲンカ、不妊治療、セックスレス 、不倫etc。“壁”を乗り越えた巷の夫婦を徹底取材して見えてきた夫婦円満のための100のヒントを収録!
コラムニスト
犬山 紙子
1981年生まれ。2011年に『負け美女 ルックスが仇あだになる』(マガジンハウス)でデビュー。その後も、『言ってはいけないクソバイス』(ポプラ社)、『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)など数々の話題作を発表。近年はテレビコメンテーターとしても活躍し、『スッキリ』(日本テレビ系、『ワイド!スクランブル』(テレビ朝日系)などに日替わりコメンテーターとして出演中。