「トラララ♪」と口ずさみたくなるロゼ
ふとうえを見上げれば、天空を覆うようにいまを盛りと咲き誇る、こぼれ桜。
そして下を見れば、手元のグラスには同じく桜色を帯びたワインがそこに。お花見の定番といえば、もうこれおいて他にないといっていいほど。そう、ロゼワインです。
▲ 例年より早い桜の開花。見上げれば咲き誇る桜、手元には同色のロゼワインを。
この日、用意したのはドメーヌ・サラダンの『トラララ! ロゼ』。飲むと口中に広がってくるのは、まさに桜そのものを連想させる香り。そしてアンズやスモモ、木苺の風味も漂います。視覚も嗅覚も桜に抱かれながら、「トラララ~♪」と、そう思わず口ずさみたくなってしまう。まるでオノマトペのようなこのワイン名『トラララ!』とは、うれしいときに使う、フランス中南部コート・デュ・ローヌ地方の地元の言葉。このワインを飲むとそんな気分に包まれるからと、名づけられたのです。
▲ グルナッシュやサンソ―、シラーなど6種のぶどう品種を使い、本格的なセニエ方式で造られたロゼ。
誰も農薬を売りにこないフランスの小さな田舎町
生産者ドメーヌ・サラダンが位置しているのは、コート・デュ・ローヌのなかのサン・マルセル・ダルディシュ村。フランスの美しく、静謐で、豊饒なる田舎町です。
▲ 南ローヌの入り口にあり、南仏の香りも感じられる小さなサン・マルセル・ダルディシュ村。
ワイン造りに携わるのは、マリー・ローランスとエリザベッタというふたりの姉妹。その歴史は古く、この家系は1422年からブドウ栽培をしていたと、村の古文書に記されているのだとか。
そんな長い歴史を持ちながらも、サラダンのぶどう畑には、かつて一度も農薬が撒かれたことがありません。なぜなら、「この田舎町には誰も農薬を売りにこなかったから」。人口わずか2500人ほどのこの地を訪れると、「確かに」とうなずけてしまいます。いまは飼っている山羊に、畑の雑草を食べてもらっているのです。
フランスの有名レストランにも評価される
姉のマリー・ローランスは、大手のワインメーカーに勤めていたけれど、父が病に倒れたのを機に、2004年から家業を継ぎました。「学校でも仕事場でも、多くのワイン造りの技術を学びました。でも実家に帰り、昔からの伝統的な手法を守る父と働き始めたとき、ワインは知識ではできないということに改めて気づいたのです。なによりぶどうの声、そしてワインの声に耳を澄ますことが大切です」
妹のエリザベッタもともに働き、いまはマーケティングと畑仕事を担当しています。サラダンのワインは、そんなフランスの自然や彼女たちのライフスタイルを、そのままスケッチしたかの如く。正直で、スムーズで、ナチュラルで。そうでありながら、ガストロノミックな風情もあります。その証拠に、フランスの有名レストラン『ル・グラン・ヴェフール』や『メゾン・ピック』などのワインリストに、世界的な有名ドメーヌとともに、堂々とその名を連ねているのです。
▲ ビオワインを造る姉のマリー・ローランス(左)と妹の エリザベッタ(右)。2人とも優しくナチュラルな女性。
ふたりの女性生産者と、自分に「乾杯! 」
『トラララ!ロゼ』もチャーミングな果実味に、酸と苦味が入り混じって複雑。だから、お花見のときのお料理にも幅広く対応してくれます。サラダンが位置するのは南仏の入り口の地域ゆえ、トマトやハーブ、オリーブを使ったような料理とはとても好相性。
たとえばオリーブとフロマージュをのせたグリーンサラダ、トマトやハーブを煮込んだブルスケッタ、そしてラタトゥイユ。もっと手軽にしたいなら、トマトやイチゴ、サクランボそのものを手でつまみながら、飲んでもいいですね。
▲ 「トラララ!」はラタトゥイユなどトマトを使った南仏の料理とよくマリアージュする。
はかなく淡く、薄いピンク色を纏い、しかし生命力の象徴でもある、日本人が心惹かれてやまない桜。その花言葉とは「精神の美」「優美な女性」。
この魅力的なワインを日本の私たちに届けてくれた、ふたりの女性栽培醸造家たちに「乾杯」の想いを込めて。そして日頃の自分を、少し解放しながら。桜の森の満開の下で、愉しいひとときを過ごしましょう。
ドメーヌ・サラダン『トラララ! ロゼ 2018』 ¥2,800 (税別)
問 木下インターナショナル 075・681・0721
輸入元直販サイトより購入可能
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ライター
鳥海 美奈子
共著にガン終末期の夫婦の形を描いた『去り逝くひとへの最期の手紙』(集英社)。2004年からフランス・ブルゴーニュ地方やパリに滞在、ワイン記事を執筆。著書にフランス料理とワインのマリアージュを題材にした『フランス郷土料理の発想と組み立て』(誠文堂新光社)がある。雑誌『サライ』(小学館)のWEBで「日本ワイン生産者の肖像」連載中。ワインホームパーティも大好き。