女には3つの顔、3つの時間がある…。今回の「女の時間割。」は、俳優、社外取締役、大学院生、そして小6のお子さんをもつ一児の母と、“四刀流”で奮闘中の酒井美紀さんにお話をうかがいました。
酒井美紀さんの「女の時間割。」
Vol.1「女」時間〜ひとりの女性として仕事に向き合う時間〜
Vol.2「妻」時間〜妻として夫に向き合う時間〜
Vol.3「母」時間〜母として子どもに向き合う時間〜 ←この記事
俳優
株式会社不二家 社外取締役
国際協力NGO ワールド・ビジョン・ジャパン 親善大使・43歳
酒井美紀さん
酒井美紀さんの「母」時間をClose up 17:30@Cafe
息子を送ったら、カフェで修士論文の資料を読んだり論文に手を入れたり。
「子どもの習い事の大半は自宅から徒歩圏内なのですが、英語の塾だけ電車移動。終了時間も遅いため、帰りは必ず迎えに行きます。授業は約3時間あるので、最近は送ったら近くのカフェで待機するんです。息子が勉強している間に、私もぎゅっと集中して修論の続きを進めます。家だと時間があってもはかどらないのに(苦笑)、時間に制限があるとガゼン集中できるのが不思議です」
「母」時間 酒井美紀さんのとある水曜日
この連載では事前に“ある日の時間割”についてアンケートに回答してもらい、撮影シーンを構成しています。酒井さんの「母」時間を紹介します。
6:15 起床、ストレッチ、ラジオ体操、植物の水やり、カブト虫や金魚など生き物の世話
7:00 朝食準備をしながら、ドラマなどをキャッチアップ
7:30 子ども起床、朝食
8:10 子どもを学校へ送り出す
その後、ドラマの続きを見ながら家事スタート
10:00 大学院へ登校、図書館で調べもの
16:00 帰宅、子どもも帰宅
17:30 子どもを英語の塾へ送り、近くのカフェで自分も勉強
20:45 帰り道に夕食
21:45 子どもと一緒に帰宅
22:00 子ども就寝
22:30 入浴
23:00 読書、夫と会話、TVや映画などを視聴する自由時間
24:00 就寝
息子の“好き”や“興味”を応援することで、彼の世界を広げたい
取材前に送られてきた、酒井さんのある日のスケジュールの中には「生き物の世話」という項目が書かれていた。気になってインタビューの際にたずねてみると、お子さんのために飼っているカブト虫や金魚など、いわるゆるペットとは異なる文字通りの生物との触れ合いを大切にしているとのこと。
「息子は虫や金魚やメダカなど、生き物が大好きな子なんです。毎日様子を観察したり、一緒に世話をする時間を大切にしています。彼が通っている塾の中に「実験教室」がありまして、そこでは科学実験による体験型の理科教育を受けています。学校の授業だけだと理科も座学になってしまいがちですので、家の近くで実験教室をみつけて、小学1年から通わせています。そこでは生物との触れあいだけでなく、本物の材料を使って自分でコンクリートをつくるなどのカリキュラムもあり、息子も楽しんで取り組んでいる様子です。
私が親として大切にしているのは、子どもの行動に親が制限をかけないこと。息子が好奇心をもったり情熱を傾けているジャンルを伸ばしてあげたいので、興味や関心をもったら自分でどんどん掘り下げるための後押しをしていきたいんですよ。明らかに間違った行動をしたとき以外は、“これをしたらダメ”という言葉を、特に大人の都合によるダメは極力言わないようにしているんですね。
世の中の流れを見ても、これまでの学歴や平均的に成績が良いことなどを重視する私たち世代の基準とは、評価の軸が全然変わってきていますよね。主体性や自分の土俵みたいなもの、何か得意なものをもっているほうがずっと生きやすいのではと思っています。今後ますます個が重要視される社会が来ると思うので、息子に対してもできるだけ「No,No」ではなく、「Yes,Yes!」でいきたいと思っています。
判断力を培うためには、小さなことでも息子に「どうする?」とたずねて決めさせますし、私に何か聞いてきたら「ああ、それね。ママはわからないから自分で調べて」と突き放します(笑)。そうすると自分で調べながらまた新しい疑問が出てきて、興味があったらさらに掘り下げることができますよね。たとえば最近息子が教えてくれたのですが、「カブト虫は12月まで生きる」ことができるそうなんですよ。「なんで?」と聞いたら、メスは卵を産まない場合は寿命が長くなるらしく、加えて温度や湿度など生きるのに適した環境も整えば冬まで生きるということまでちゃんと調べきっていて、彼の成長に「おおっ!」と驚きました。
本に関しても「これを読みたい」と言われたら、そこは親がもつ費用として制限をかけずに購入します。読みたいものは無制限で読ませてあげたいのですが、マンガに関しては“自分のお小遣いで買ってください”と、そこも突き放して自己対応してもらってます(笑)」
親自身が学び続けていく姿勢を見せることも大切に
「教育に関してコロナ禍の影響が心配なのは、今後教育格差がますます広がるのではないかという懸念です。うちの息子は公立に通っているのですが、休校になってもオンラインによる授業は行われないんですね。ところがいざ学校が始まったら、バーンと一気に授業が進んだりするので、そこが悩みどころです。親が子どもの勉強をみて教えてあげるということにも、そろそろ限界を感じています。それで学校のほかにちょっと人の手をお借りして、学習塾に通わせていたりするんです。
また、親が学び続けていたり何かに打ち込む背中を見せることでも、メッセージが伝わるのではと思っています。たとえば、私はフラメンコが趣味なんです。始めたきっかけは、17歳のときにスペインで見た本場のフラメンコに感激したことでした。それからお稽古に通い始めて、かれこれもう26年になりますか。1年に1回発表会があって、そのために通常のお稽古と振り付けのお稽古があるのですが、人に披露することよりも、私は自分が楽しむことを優先しています。
好きな言葉が「継続は力なり」なんですよ。ものごとはなんでも積み重ねることで土台が出来てくるものなので、どんなことでも継続して積み上げる必要があると思っています。少し話が横道にそれますが、何か続けたいと思ったときには、自宅から徒歩圏内にあるところを選んで通うことにしているんです。遠かったら絶対に通わなくなることが自分でもわかっているので(苦笑)、これが継続のためのマイルールであったりします。
大学院で、修士論文のために国際貢献の研究を始めてからは、「温故知新」マインドも大切にしています。やはり未来を見るためには過去を知っておかないと、仮説や予測をたてにくいということを身をもって知りました。「なぜ、この国ではこのような事象がくり返されるのか」という視点にもつながるので、政治や社会、世界情勢を考える際にも役立つと思います。過去から学んで、何か新しいものを生み出すこと。私も自分の持ち場で、引き続きがんばります」
修論テーマを語る酒井さんの熱のこもったトークに惹きこまれて、インタビューが終了してICレコーダーを止めたあとも、思わず少しだけその続きをうかがってしまいました。酒井さん自身による自己分析をうかがったスピンオフも、ぜひチェックしてください。
Profile
酒井美紀
さかい・みき/1978年、静岡県生まれ。演じることに憧れて1995年に17歳で女優デビュー。同年に映画『Love Letter』、『ひめゆりの塔』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞する。18歳でドラマ『白線流し』(フジテレビ系)シリーズにて主演。同年の映画『誘拐』で第21回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。25歳でアメリカ語学留学を経験。29歳のときに12年間アシスタントを務めた『世界ウルルン滞在記』(TBS系)を卒業し、国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパンの親善大使に就任する。30歳で大学院病院勤務の医師である夫と結婚。32歳で長男を出産。41歳で事務所を独立して湘南にオフィスを構える。同年、国際協力活動の知識を深めるために一念発起して、都内大学院の国際協力研究科へも進学。42歳で不二家のマスコットキャラクター・ペコちゃんの生誕70周年記念アンバサダーに就任し、翌年株式会社不二家 社外取締役に抜擢される。現在は俳優として幅広く活躍しながら、仕事と子育てと大学院の三刀流に邁進。山崎製パン「ダブルソフト」のCMキャラクターも継続中。
インスタグラム : @mikisakai.mua
撮影/眞板由起 スタイリスト/亀 恭子 ヘア&メーク/後藤真弓 構成/谷畑まゆみ
ニットジャケット¥46,200・パンツ¥18,700 (アルアバイル<アルアバイル>)、カットソー¥8,800(アルアバイル<ル・ベーシック>)、バッグ¥61,600(ANAYI<ANAYI>)、イヤーカフ¥8,800(アルアバイル<フィリップ・オーディベール>)、靴(スタイリスト私物)、本(酒井さん私物)、PC(スタッフ私物)
協力社リスト
アルアバイル 03-5739-3423
ANAYI 03-5739-3032