野球用語であるOPSの意味や評価方法
OPSからわかる野球選手の能力や、打率との違いを説明します。誰でも簡単にできるOPSの計算方法や、レベルを示す評価基準も紹介します。
バッターのチーム貢献度を示す指標
OPSは「on-base plus slugging」の略で、「オーピーエス」または「オプス」と読みます。バッターを評価する指標の一つであり、チームへの貢献度を表す数字です。
従来、バッターは打率が重視される傾向にありましたが、打率だけでは単純な個人成績しかわかりません。OPSは、得点に絡む攻撃能力をより正確に測る指標として、新しく開発されました。
守備面については測定できないものの、OPSはバッターの攻撃力がわかる重要な基準として、統計学を用いた評価手法やスポーツメディアなどで使われています。
オー‐ピー‐エス【OPS】[on-base plus slugging]
《on-base plus slugging》野球で、出塁率と長打率を足したもの。打者の能力を評価する指標で、セイバーメトリクスで重視される。オプス。
小学館 『デジタル大辞泉』より引用
出塁率と長打率の合計で計算する
OPSは出塁率と長打率の和で求められ、バッターがどれだけ得点につながるバッティングができたかを表します。式にすると「OPS=出塁率+長打率」です。
例えば、次のような選手について見ていきます。
・選手A:5打席で本塁打(ホームラン)が1本
・選手B:5打席で単打(シングルヒット)が2本
これを計算すると、以下のような成績になります。
・選手A:打率.200、出塁率.200、長打率.800、OPS1.000
・選手B:打率.400、出塁率.400、長打率.400、OPS.800
打率だけで判断すると選手Bの方が優秀に見えますが、OPSを使うと選手Aの方が得点に絡んでいることがわかります。
野球はチーム競技なので、個人の成績よりもチームへの貢献度が大切です。そのため、正確に選手の攻撃力を評価したいなら、OPSを見る必要があります。
評価される点数はいくつから?
OPSは、どのくらいの点数なら高いといえるのか、考案者である「ビル・ジェームズ」氏は、以下の基準を発表しています。
【ランク:OPSの範囲】
A(素晴らしい):.9000以上
B(非常に良い):.8334~.8999
C(良い):.7667~.8333
D(並):.7000~.7666
E(平均以下):.6334~.6999
F(悪い):.5667~.6333
G(非常に悪い):.5666以下
ただし、その年によって平均値は変動するものです。2023年の日本プロ野球においては、セ・リーグのOPS平均が.668、パ・リーグが.664であるため、ランクCでもリーグの中では上位レベルの選手といえます。
OPSを計算するために必要な野球知識
最近、野球ファンになった人の中には、「野球用語の細かい違いまではわからない」という人もいるかもしれません。OPSを計算するために必要な、打率・長打率・出塁率の意味と計算方法を紹介します。
打率(BA・AVG)の数え方
打率は「打率=安打数÷打数」で表し、小数点第4位を四捨五入して計算します。安打とは、単打(シングルヒット)や本塁打(ホームラン)の本数のことです。
打数は、選手がバッターボックスに入った打席数から「犠打・犠飛・四球・死球・相手からの妨害」を引いたものです。差し引くプレー内容は以下の通りで、打者のミスと関係なくヒットを打てなかった打席を指します。
・犠打:犠牲バント(犠牲フライや進塁打は含まれない)
・犠飛:犠牲フライ
・四球:フォアボール
・死球:デッドボール
・相手からの妨害:打撃妨害、走塁妨害
プロ野球選手で優秀と評価されるのは一般的に打率3割以上が目安です。打率は、英語でバッティング・アベレージ(batting average)といい、BAやAVGと略されます。
長打率(SLG)の数え方
長打率は「長打率=塁打数÷打数」で計算でき、スラッギングパーセンテージ(slugging percentage)とも呼びます。長打は二塁打以上のヒットのことで、塁打は「単打=1、二塁打=2、三塁打=3、本塁打=4」として数えます。
長打率はその名称から長打を打つ確率と混同されがちですが、実際は「1打数あたりに稼いだ塁の平均値」を示すもの。塁打の数が大きいほど価値が上がります。
一般的に.380は平均的、.440から優秀、.500以上ともなれば非常に優秀と評価される傾向にあります。
出塁率(OBP)の数え方
出塁率とは、打者が出塁する確率です。もう少し細かく説明すると、安打・四死球による出塁数を、打数・四死球数・犠飛数の合計で割った数のことを言います。式にすると「出塁率 = (安打数+四球+死球)÷(打数+四球+死球+犠飛)」です。
犠飛を打っても自分はアウトになるため出塁につながりません。犠飛が多いと必然的に出塁率は下がってしまいます。一方で、犠打はカウントしません。
出塁率の高い選手が多ければ、ランナーも出やすく得点につながる可能性が増します。相手ピッチャーに精神的なストレスを与えたり、多くの球を投げさせたりすることでボールのコントロール力やスピードが低下し、より得点を狙いやすくなるかもしれません。
OPSではわからないこと
OPSは計算が簡単で打率より正確に選手の攻撃力を表しますが、完璧な指標というわけではありません。OPSではわからない側面について解説します。
盗塁は評価に反映されない
OPSの代表的な問題のひとつは、野球の攻撃面において大事な要素である「盗塁」が反映されないことです。
盗塁とは、守備の隙をついて塁を進めるプレーのことをいいます。ランナーが2塁や3塁にいる場面では、足の速いランナーの盗塁が、シングルヒットを打つよりも得点に関わる可能性があります。
盗塁でピッチャーにプレッシャーをかけ、投球ミスを誘うことも立派なチームへの貢献です。しかし、OPSだけを見ていると、そのような貢献度については判断できないため、盗塁の多い選手には不利な評価手法といえます。
長打率が低く、出塁率が高い選手は不利
長打率の最大値は4.000、出塁率の最大値は1.000であるため、OPSを計算するときには長打率の高い選手が有利です。長打が少なくヒット数の多いアベレージヒッターに比べて、ヒット数は少なくても長打が多いパワーヒッターの方が、OPSは高くなる傾向にあります。
単純に打席だけを見るなら、シングルヒットを何本も打つより、ホームランを量産する選手の方が得点に貢献しているとされます。
また、OPSだけでは長打率と出塁率の割合がわからないのも、注意すべきポイントです。正確に選手の特性を知るには、打率・出塁率・長打率も見る必要があります。
OPSの高い野球選手は誰?
OPSについて知ると、誰が高い成績を出しているのか気になるかもしれません。2024年8月時点でのメジャーリーグランキングと、気になる大谷翔平選手のOPS成績を見ていきます。
メジャーリーグのOPSランキング
メジャーリーグは、アメリカのプロ野球リーグの総称です。ナショナルリーグとアメリカンリーグのふたつで構成されており、アメリカ合衆国とカナダに所在する合計30の球団がワールドチャンピオンを目指して戦います。MLBや大リーグとも呼ばれています。
メジャーリーグ選手の2024年OPSランキングは、以下の通りです。(2024年8月5日時点)
【アメリカンリーグ(ア・リーグ)打者】
1位:アーロン・ジャッジ OPS 1.157(ニューヨーク・ヤンキース所属)
2位:フアン・ソト OPS 1.035(ニューヨーク・ヤンキース所属)
3位:ラファエル・ディバース OPS .989(ボストン・レッドソックス所属)
【ナショナルリーグ(ナ・リーグ)打者】
1位:大谷翔平 OPS 1.018(ロサンゼルス・ドジャース所属)
2位:マルセル・オズナ OPS .953(アトランタ・ブレーブス所属)
3位:ケテル・マルテ OPS.919(アリゾナ・ダイヤモンドバックス所属)
新型コロナウイルスの影響でシーズン短縮のあった2020年を除いて、メジャーリーグでOPSが1以上の選手は過去10年で25人のみ(2023年8月時点)。この記録は、「OPS1超え」がどれだけ難しいかを物語っています。
大谷翔平選手のOPS成績は?
大谷翔平選手は、ピッチャー・バッターとしても活躍する、二刀流が特徴です。2018年からメジャーリーグに移籍し、新人王やMVPに選ばれました。2023年には、アジア人で初めて本塁打王を獲得した人気の高い選手です。
大谷選手は、2023年のメジャーリーグで「OPS1.066」を獲得して1位、2014~2023年の通算では「OPS.922」で7位となっています。
OPSの数字だけ見ても、大谷選手のすごさが伝わってきます。野球に対する姿勢やプレー中の振る舞いも含めて、今後もメジャーリーグ史に残るような活躍が期待されています。
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