エンパワメントの意味と分野による違い
エンパワメントの基本的な意味と、分野によるニュアンスの違いを見ていきます。現在はビジネスや福祉の分野でよく使われています。
もともとの意味は「権限を与えること」
エンパワメントを英語で書くと「empowerment」になり、基本的な意味は「権限・力を与えること」です。エンパワーメントともいいます。
エンパワメントは、社会や組織に属する個人に権限・力を与え、主体性や周囲への影響力を強めようとする考え方です。
20世紀のアメリカで起こった公民権運動や女性解放運動などで使用され始めました。差別などによって抑圧されている個人の権利や自立を、もっと認めようという流れの中で生まれた言葉です。
現在は、ビジネスや福祉などの分野で使われますが、分野ごとにニュアンスが異なるので注意が必要です。
em・pow・er
/impáuər/
[動](他)〔しばしば受身形で〕
1 ((形式))〈人に〉権威を与える,(…する)権利[権限]を与える≪to do≫.
2 〈人に〉(…できる)ようにする;(…することを)許す≪to do≫.empowerment
[名]権限を与えること;能力[実力]をつけること.
「プログレッシブ英和中辞典(第5版)」(小学館)より引用
ビジネス分野における使い方
エンパワメントをビジネスの分野で使う場合は、「主体性を促す」「権限を与える」「能力を引き出す」というニュアンスになります。
権限とは、簡単にいえば「やれること」「やってよいこと」を意味します。例えば、職場でのエンパワメントは、リーダーがほとんどを決めるトップダウン式とは反対の体制です。
従業員それぞれの決定できる範囲を増やし、主体的に協力し合って目標を達成しようというスタイルになります。また、仕事の自由度が上がることで、従業員の主体性や能力が育つというメリットもあります。
エンパワーメント(empowerment)
3 よりよい社会を築くために人々が協力し、自分のことは自分の意思で決定しながら生きる力を身につけていこうという考え方。また、組織の業務処理において、メンバーの考えを積極的に取り入れ、権限を委譲することで、相互に協力しながら自発的に目標の達成を目指そうという考え方。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
福祉分野における使い方
エンパワメントは、看護や介護、障害者福祉などでも使われる言葉です。援助される人が本来持つ自己決定力などを、回復・強化できるように支援すること、またそういう考え方を指します。
専門家が援助しすぎると、かえって援助される人の主体性を無視したり自立を妨げたりすることにつながるという批判から生まれました。
看護や介護においては、患者が主体性を持って治療・回復プロセスに積極的に関わるという意味で、インフォームドコンセントにもつながる視点です。
障害者福祉では、障害者を保護する対象として扱うのではなく、あくまで主体的に人生を選べるように援助していく姿勢になります。
エンパワーメント(empowerment)
2 社会福祉政策において、従来のサービスを提供するやり方とは別に、受益者に直接手渡す補助金を増やして、それを選択する権利を与え、政府の介入や裁量を減らそうという考え。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
エンパワメントの方法は2種類
エンパワメントのアプローチは、大きく分けて「構造的アプローチ」と「心理的アプローチ」があります。どちらのアプローチを選ぶかで、導入に必要な準備や影響も変わってくるでしょう。2種類のアプローチをそれぞれ紹介します。
部下へ権限を与える「構造的アプローチ」
エンパワメントには構造的アプローチと心理的アプローチのアプローチが必要といわれるものの、どのアプローチを採用するかは企業によって変わります。
構造的アプローチは、社会学的なパワーとしての「権限」に着目した考え方です。地位的に上の者が下の者に権限を譲ることを、エンパワメントと呼びます。
このアプローチの場合、新たに権限を持つ人に、役割意識や責任感を自覚してもらう必要があります。同時に、成長への援助や適切な評価といった仕組みの整備も必要です。
モチベーションを引き出す「心理的アプローチ」
心理的アプローチは、心理学的パワーとしての「モチベーション」に着目する方法です。力はその人の中にもともと備わっていると考え、力を引き出す働きかけをしていきます。
例えば、自分はやればできるという自己効力感や、自分の行動は自ら選択したという自己決定感などを高めることで、モチベーションを引き出していきます。
自己効力感や自己決定感を高めるには、上司が部下の主体性を尊重したフィードバックをすることが重要です。社員の一人一人が主体的に動くことで、結果的に従業員全体も活性化すると考えます。
エンパワメントを取り入れると何が起こるか
エンパワメントを取り入れると、企業の体制は大きく変化します。従業員にとって、エンパワメントのメリット・デメリットは何か説明します。
メリット
企業にエンパワメントの方式を取り入れた場合、従業員にとって考えられるメリットは以下の通りです。
・判断や行動の自由度が上がり、主体的に動けるようになる
・仕事で出した成果が適切に評価されるようになる
・スキルアップや能力開発を援助してもらえる
自分のアイデアや発言が採用される機会も増えるでしょう。影響力が大きくなることで、仕事への満足度が上がりやすくなるといえます。
デメリット
逆に、従業員にとって考えられるエンパワメントのデメリットは以下の通りです。
・自分の仕事の範囲が広がったり、責任が重くなったりすることで負担が増える
・会社が期待する仕事内容と自分の能力にずれが起こる
・業務全体を視野に入れた判断ができなくて失敗する
・上司への報告・連絡・相談が適切にできない
エンパワメントは放任主義ではありません。上司から適切なフォローを得られないと、かえって職場全体のモチベーションが下がってしまう結果になります。
エンパワメントは部下が主役になる職場づくり
ビジネスにおけるエンパワメントは、ワンマンな経営体制と対照的です。今まで権限の弱かった、あるいはあまり主体的に動けなかった従業員に力を与え、上司はバックアップに回る職場を目指します。
従業員一人一人が主体的に動くようになれば、予想外の変化にも素早く柔軟に対処できるようになるでしょう。実現には時間も手間もかかりますが、予測が難しく変化の激しい市場において、エンパワメントの必要性は高まっています。
メイン・アイキャッチ画像/(c)AdobeStock
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