「言わぬが花」ってどういうこと?

まずは「言わぬが花」の基本的な意味や由来を確認し、ことわざから日本の美意識を学びましょう。似ているようで違う意味の「秘すれば花」についても押さえていきます。
「言わぬが花」の意味と文化的背景
「言わぬが花」と言われて、どういう意味か戸惑った経験がある人もいるかもしれません。
「言わぬが花」とは、「物事をはっきり言葉にしないことで味わいが出る」あるいは「言葉にしないほうが問題が起こらない」という意味です。黙っているのが最善であることの例えとして使われています。
この言葉の背景には、慎み深さや奥ゆかしさへの美意識があり、とても日本的なことわざといえます。
言いわぬが花
口に出して言わないほうが味わいもあり、差し障りもなくてよい。「これから先は言わぬが花だ」
小学館『デジタル大辞泉』より引用
由来は浄瑠璃の一節
「言わぬが花」の由来は、一説には浄瑠璃にあるそうです。浄瑠璃とは、三味線を伴奏とし、独特の語りと旋律によって物語る音曲(おんぎょく)のこと。語り手である太夫から義太夫節(ぎだゆうぶし)ともいいます。
浄瑠璃の作品『新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)』の中で、登場人物が発する「三々九度うは言わぬが花嫁」という言葉がことわざの元になったといいます。意味は「何度も繰り返し言うよりも黙っているほうが(花嫁のごとく)美しい」。そのため「言わぬが花嫁」を短縮して「言わぬが花」になったといわれているそうです。
実は「言わぬが花」と「秘すれば花」は違う?
似ているのでよく勘違いされますが、「言わぬが花」と「秘すれば花」は違う意味の言葉です。
「秘すれば花」は世阿弥が書いた『風姿花伝(ふうしかでん)』の中にある言葉「秘すれば花なり。秘せずは花なるべからず」から来ています。正直この一節だけを見ると「言わぬが花」と同じ意味にも聞こえますが、これには続きがあるのです。
世阿弥は、芸事における秘事の大切さを説き、「前もって珍しいものが見られると知っていれば観客はそれほど驚かない。しかし、突然思いもよらぬものが見られると感動する」と説明しています。
つまり〝中身は大したことでなくても、秘密にすることで価値が生まれる〟という意味で、現代的に表現するなら「サプライズ効果」であるといえるでしょう。
「言わぬが花」の使い方と例文

「言わぬが花」が使える場面は、主に2種類あります。言葉にしないことでかえって人を感動させる美しさが出るケースと、空気を読んで不必要なことは言わないほうがよいケースです。例文とあわせて見ていきます。
言葉ではっきり言わないほうが味がある場合
「言わぬが花」には大きく分けて2つの使い方があります。1つ目は、「秘めることでかえって価値が生まれる」というニュアンスです。たとえば、次のような言い方ができます。
【例文】
・あの小説、読んだよ。話題になるだけあってすごい結末だったけど、言わぬが花だよね
・彼のことが大好き。でも、この気楽な関係を壊したくないから…言わぬが花かな
・多くを語らない彼女の姿勢は、まさに言わぬが花で相手を感動させる
恋愛の一幕や感情表現など、はっきり言葉にすると興ざめなケースでよく使われるでしょう。あえて何も言わないことで相手の想像をかき立て、控えめな態度が深みを感じさせます。
余計な発言を戒める場合
2つ目は、「必要以上のことは言わないほうがよい」といったニュアンスです。言葉にすれば評判を落としたり、相手を傷つけたりするような場合に使います。
【例文】
・人のプライベートは言わぬが花ということで、あまり話さないほうがよいでしょう
・議論になりそうなことは、言わぬが花でやり過ごすのがいちばんだ
・その件については、これ以上言わぬが花。あとは察してください
この価値観には、日本の「空気を重視する文化」も影響しています。言葉にされない相手の感情や考えを推測して、思いやることが美徳とされるためです。
「言わぬが花」の類語・反語

ことわざには大抵、類語・反語がありますので、まとめて覚えると後で活用しやすくなります。ただし、微妙なニュアンスの違いもあるため、誤用しないように正確な意味を押さえておきましょう。
雄弁は銀、沈黙は金
「雄弁は銀、沈黙は金」とは、「多くを語るのも大事であるが、黙ったほうがいいときをわかっていることはもっと大事だ」ということわざで、文脈によっては「むやみに言い訳するよりも黙ったほうがマシ」と若干意味が変化することもあります。
由来はイギリスの評論家であるトーマス・カーライルの言葉で、次のような使い方ができます。
【例文】
・相手の怒りを鎮めるには「雄弁は銀、沈黙は金」で、黙って聞くことが大事だ
・不必要な口論を避けるためには、「雄弁は銀、沈黙は金」と心得るべきである
注意しなければならないのは、「常に沈黙のほうが雄弁よりも優れている」と言っている訳ではない点。日本的な感覚で解釈すると間違えてしまいそうですが、あくまでも「ときには、沈黙のほうが適切であること」を表しています。
雉も鳴かずば撃たれまい
「雉(キジ)も鳴かずば撃たれまい」とは「余計な言動のせいで、自分から災いを招くこと」をいいます。
【例文】
・余計な一言でプロジェクトから外されてしまうなんて、それこそ「雉も鳴かずば撃たれまい」だね
・その秘密をわざわざ話す必要はなかったのに。「雉も鳴かずば撃たれまい」という教訓になったよ
由来は、長野県の民話『キジも鳴かずば』だとされています。物語では、ある父親が病気の娘に赤飯(あずきまんま)を食べさせようと村の蔵に盗みに入りました。
元気になった娘は、てまりで遊びながら赤飯のことを歌うようになります。それを聞いた村人が父親の罪を知り、父親は罰として人柱にされてしまうのです。
後に娘は猟師が雉を撃つところに出くわし、自分の歌で父親が死んだことになぞらえて「雉も鳴かなければ撃ち殺されなかった」といったそうです。
言わぬことは聞こえぬ
あまり多くはありませんが、「言わぬが花」と逆の意味のことわざもあります。中でも代表的なのが「言わぬことは聞こえぬ」です。
「言葉にして伝えないと相手にはこちらの事情がわからない」あるいは「後で聞いてないと言われないように、前もって言っておく必要がある」といった意味で使われます。
例文は以下のとおりです。
【例文】
・人に期待するばかりではダメだ。「言わぬことは聞こえぬ」だから、しっかり伝えよう
・誤解を解きたいなら正直に話すべき。「言わぬことは聞こえぬ」と割り切らないと
似たことわざに「言い勝ち功名」があり、そちらは「黙っていては、どんなに良い意見も伝わることはない」「少々強引な意見でも、言葉の多いものが勝つ」といった意味です。
まとめ
-
「言わぬが花」は、言葉ではっきり言わないほうが味がある場合に使う
-
余計な発言を戒める場合にも使われる
- 「言わぬが花」と「秘すれば花」は違う意味なので要注意
「言わぬが花」は、控えめな態度を美しく思う日本的な感性を表したことわざです。また、言葉にされない思いなどを汲み取って相手を気づかったり、余計なことをしない姿勢を評価する文化が反映された表現でもあります。日常生活でよく使われるため、覚えておくと役立つでしょう。
メイン・アイキャッチ画像/(c)Adobe Stock
TEXT
Domani編集部
Domaniは1997年に小学館から創刊された30代・40代キャリア女性に向けたファッション雑誌。タイトルはイタリア語で「明日」を意味し、同じくイタリア語で「今日」を表す姉妹誌『Oggi』とともに働く女性を応援するコンテンツを発信している。現在 Domaniはデジタルメディアに特化し、「働くママ」に向けた「明日」も楽しむライフスタイルをWEBサイトとSNSで展開。働く自分、家族と過ごす自分、その境目がないほどに忙しい毎日を送るワーキングマザーたちが、効率良くおしゃれも美容も仕事も楽しみ、子供との時間をハッピーに過ごすための多様な情報を、発信力のある個性豊かな人気ママモデルや読者モデル、ファッションのみならずライフスタイルやビジネス・デジタルスキルにも関心が高いエディターたちを通して発信中。
https://domani.shogakukan.co.jp/
あわせて読みたい


