「すべからく」が誤用されやすいのはなぜ？誤用の原因や正しい意味も

「すべからく」が誤用されやすいのはなぜか

「すべからく」は誤用が多い言葉として知られていますが、いったいなぜなのでしょうか？ まずはじめに、よくある誤用と誤用が起こる原因について解説します。

「すべて」と間違えられがち

文化庁が行った〝国語に関する世論調査〟で、「すべからく」の意味について例文を用いて質問したところ…2011年の結果では「すべて・皆」という意味であると答えた人が38.5%いたそうです。また、2020年の結果でも、32.1%の人が「すべて・皆」という意味であると答えています。

しかし、「すべからく」の正しい意味は「当然・ぜひとも」。意味の詳細は後述しますが、なぜこのような誤解が起こっているのでしょうか？

調査で使われた例文「学生はすべからく勉学に励むべきだ」は、本来「学生は当然（ぜひとも）勉学に励むべきだ」という意味なのですが…「学生は皆勉学に励むべきだ」と誤解しても意味が通じてしまいます。

このように、多くのケースで「すべて」や「皆」と読み替えても違和感がないことや、「すべ」が「すべて」と似たような語感を持つこともあり、誤解が起きやすいようですね。

「おしなべて」と混同しやすいため

「すべて」「皆等しく」という意味を持つ古い言い回しに、「おしなべて」という言葉があります。押して並べたように同じであるという意味合いで、「すべからく」と似た印象を受ける言葉です。

古くから使われている言葉は、響きだけではいまいち意味が理解できません。さらに日常会話では使わないため、言葉について身をもって学ぶ機会がほとんどないのです。

同じような古い言い回しの意味を混同して覚えてしまうと、誤用が発生する原因になるでしょう。

「すべからく」の正しい意味とは

「すべからく」は、意味以外に使い方にも注意が必要な言葉です。基本的な意味と、使うときのポイントを解説します。どのようなケースが誤用であるか把握するためにも、正しい意味と使い方を確認しておきましょう。

「当然」「ぜひとも」という意味

「すべからく」を辞書で見てみると、以下のように書かれています。漢字で書くと「須く」です。

すべから‐く【▽須く】
［副］《動詞「す」に推量の助動詞「べし」の付いた「すべし」のク語法から。漢文訓読による語》多くは下に「べし」を伴って、ある事をぜひともしなければならないという気持ちを表す。当然。ぜひとも。「学生は須く学問を本分とすべきである」
小学館『デジタル大辞泉』より引用

基本的には「当然」「ぜひとも」という意味です。日常的にはほかの言葉でも表現できるため、あえて「すべからく」を使う場面は少ないでしょう。

一般的に「〇〇すべき」とセットで使われる

「すべからく」は漢文で「すべからく〇〇べし」という形態で使われています。元々の使い方や由来が「当然〇〇すべきである」というニュアンスであることから、「〇〇すべき、すべし」とセットで使うことが多いでしょう。

現代語では必ずしも「べし」を組み合わせると決まっているわけではありませんが、基本的には「べし」「べき」「しなければならない」「命令形」などとセットで使うのが自然です。

なお、「〇〇すべき」という意味合いで使われていない場合、多くは誤用とみなされます。

「すべからく」の類義語・対義語

「すべからく」には古めかしい印象があり、日常やビジネスで使う場面は少なくなっています。ほかに言い換えられる言葉はあるのか、反対の意味を持つ言葉にはどのようなものがあるのか、それぞれ気になるところです。せっかくですから、「すべからく」の類義語・対義語も見ていきましょう。

【類義語】自明

「自明」は、証明の必要がないほど明らかなことを指す言葉です。「すべからく」にも、「説明の必要がないほど当然のようにしなければならないことである」といったような意味が込められており似ています。

【例文】
・それが悪いことだというのは自明だ
・早く行動しておくべきだったのは自明の理だろう

「〇〇すべきである」などのニュアンスはないため、完全な言い換えとして使うのは難しいですが、当然である旨を表現をしたいときには使えるでしょう。

【類義語】無論

「無論」には、「論じるまでもないこと」「言うまでもないこと」という意味が込められています。「すべからく」も「言うまでもなく当然にするべきこと」を指し、意味は同じです。

【例文】
・無論、そのようにするつもりである
・（返答として）無論です

「無論」はやや古風な言葉で堅い印象がありますが、「当然」「もちろん」などの言い換えとして使えるでしょう。「無論です」といえば、「当然です」「もちろんです」と同じような意味になります。

【対義語】任意

「任意」は、判断を本人の意思に任せるという意味で、強制はせず、自由に選択する余地を含んだ言葉です。対して「すべからく」は「当然するべきである」「ぜひともするべきである」といったことを表し、任意とは反対のニュアンスを持ちます。

【例文】
・参加は任意ですので、後日確認を取ります
・〇〇のスキルアップ研修を受けるかは任意ですが、資格取得を目指している人にとってメリットは大きいでしょう

たとえしたほうがよいことであっても、自由意志で選択可能な状態であれば「任意」という表現を使うことができるでしょう。

まとめ

「すべからく」は古くから使われている表現ですが、今では多くの人が誤用してしまっているのが現状です。正しい意味を知っておくことで、適切な表現ができるようになるほか、相手の言っている意味も読み取りやすくなります。「すべからく」の基本的な意味や、類語・対義語を理解しておきましょう。

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