男女雇用均等法から30年、ようやく変化が起こった!
――第1回、第2回では、内閣府男女共同参画局長の池永肇恵(としえ)さんから、政府の取り組みを紹介いただきました。では、一般企業の男女共同参画の現状はどうでしょうか。ここからは、グロービスで人材マネジメントを担当する林 恭子さんのお話をご紹介します。
前回のお話は:有名無実の男女共同参画はNO!日本政府の現実は?
お話のポイント
・かつてはあたりまえだった就職時の男女差
・男女雇用均等法から30年、社会の動き
・スキルや経験不足に不安を感じる女性管理職
▲林 恭子さん(左) グロービス 経営管理本部長 マネジング・ディレクター。筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士課程前期修了(MBA)。米系電子機器メーカーのモトローラで、半導体、および携帯電話端末のOEMに携わった後、ボストン・コンサルティング・グループへ。人事担当リーダーとしてプロフェッショナル・スタッフの採用、能力開発、リテンション・プログラム開発、ウィメンズ・イニシアチブ・コミッティ委員等、幅広く人材マネジメントを担当。右が、この日のトークにも登場された内閣府男女共同参画局長の池永肇恵(としえ)さん。
かつては「当たり前」だった就職時の男女差
「私が新卒で就職したのは、アメリカ系企業のモトローラでした。就職活動のとき、そのころはまだ給料に男女差があったり、金融機関などでは女性のみ自宅から通勤できることが採用の条件だったりしました。今では考えられないことですが、本当なんですよ。ですから『男女差を考えないで仕事をしたいなら外資系に行く』という人は結構多かったんです。
私はその後、ボストン・コンサルティング・グループに転職し、人事を担当するようになりました。コンサルタントで優秀な女性を採用しても、子どもを産むとなると、辞めてしまうことが多かった。あるいは、マネージャー以上になかなか昇進ができず、苦しんで転職していくという方もいました。その現実は日本だけでなく、グローバルでも同じ問題が起こっていたのです。そこで、人材活用がうまくいっているオフィスの例を取り入れて、ほかのグローバルのオフィスでも展開していく、というプロジェクトに参加するようになりました。
勤務しながら夜間や週末の時間を使って大学院に通い始めたのは、30歳を超えたころでした。どうしたら女性の社会進出の支援ができるかが、私の研究テーマ。育休を取った人たちが、その後に復帰して活躍できているか、何に苦労しているかを綿密にインタビューしました。
その後、グロービスに転職し、人や組織領域の教員をしながらグロービスグループ全体の人事を含む管理部門の責任者に。今日のテーマでもある、女性の活躍推進やダイバーシティ、働き方改革も私の業務のど真ん中です。同時に、公益社団法人経済同友会の会員でもあり、ここでダイバーシティや働き方改革などの委員会活動をしていました。私自身もひとりの働く女性として、また人事の責任者として、また働き方を研究している立場から、みなさんといろいろな対話ができたらなと思っております」
雇均法から30年、ようやく国のトップと経営者が動き始めた
「池永さんから、女性の活躍が増えてきているというお話がありましたが、これをひも解いていくと、ここまでに30年かかっているということがおわかりいただけると思います。
●女性の活躍をめぐる社会の動き
1986年/男女雇用機会均等法制定。女性総合職誕生へ。
1992年/育児介護休業法制定。出産後の職場復帰への流れの始まり。
1995年/住友金属などの女性社員が昇給・昇進で差別されたとして提訴。
1999年/男女雇用機会均等法の大幅改正。募集・採用、配置・昇進、教育訓練、福利厚生、定年・退職・解雇において男女差をつけることが本格禁止。
2001年/男女共同参画社会基本法が制定。女性の管理職登用、目標3割。
2003年/次世代育成支援対策推進法。くるみんマーク。男性の育休推奨。
2007年/男女雇用機会均等法改正、間接差別の禁止。
2013年/安倍晋三首相が成長戦略の第一弾を発表。その柱のひとつが女性の活躍であり、「日本の成長戦略の中核をなす」と述べた。
東証にて「なでしこ銘柄」の選定開始、企業の投資へも影響。
1986年に男女雇用均等法ができ、その後、育児介護休業法ができて(1992年)、出産してから職場に戻ってこれる制度ができたり、また男女の昇給・昇進の差別に対する判決が出たり。そういうことが積み重なって、徐々に進歩してきたわけです。
私自身が大学院で研究していた2004~2007年は、出産・育児に入った方が仕事を辞めてしまって戻ってこない、労働人口をグラフにするとちょうどその年代がへこんでM字カーブを描くという状態でした。これをなんとか解消できないものかと、考えていましたが、これがなかなか難しい…。
ところが最近になって、劇的に変化が起こっています。2012年、経済同友会が経営者の行動宣言として『2020年までに女性の管理職比率を30%まで上げよう』という宣言をしました。これまで政府からの声はあったけれど、民間企業の経営者たちが自分たちの行動宣言として、数字を明言したことはなかったのです。そして翌年、安倍首相が成長戦略の一環として、女性の活躍推進を明言しました。
○「意思決定ボード」のダイバーシティに向けた経営者の行動宣言
○すべての女性が輝く社会づくり本部(首相官邸)
30年前からいろんなことをやって、努力もしているけれど、なかなか進まなかったのは、ただ『頑張ろう』という努力目標だったから。そうではなく、期限を決めて、目標数値を明示し、国のトップがコミットする。ようやく本当に動き始めてきたという気がしました」
自分のスキルや経験に不安を抱える管理職女性
「2017年、経済同友会が903社に向けてアンケート調査を行いました。2014~2016年で各社の女性管理職(課長以上)の割合がどう増えたかというアンケートでは、2014年は6.3%だった女性管理職が、2016年には7.1%まで増えました。また、多くの他の調査でも、女性管理職比率は少し増えています。このこと自体は嬉しいことですが、中を詳しく見ていくと、大きく増えているのは社外取締役でした。実はこちらは、ひとりの女性が何社もかけもちしていることも多いのです。やらないよりはやっていただいたほうがいいんですが、ただ数合わせに入れていて、会社の内情は何も変わっていないということでは、残念ですよね。
また、日経新聞が2018年10月に発表したデータでは、回答した上場企業594社のうち、1~8月に就任した女性役員がいる企業は115社。うち24社が株式公開以降女性役員の誕生が初めてだったそうです。ようやく女性役員が誕生し始めた。ただ一方で、『自分のスキルや職務経験に不安を感じている』と答えた女性役員が多かったことにも、注目すべきです。
さらに、自分のリーダーシップの発揮について、また女性であることが不要な注目を浴びることについて、不安に思っている女性役員もたくさんいるのが現実ですね。これは男性社員では上がらない悩みだとも聞きます。女性は男性よりも経験の幅が狭くなりがちで、それが自信のなさにつながっているのではないでしょうか。一生懸命仕事をしているし、事態はよくなっているものの、劇的に改善されないヒントがここにあります。私は、大きくふたつに分けて原因を考えています(次回に続く)。
○グロービス
○公益社団法人 経済同友会
○ダイバーシティと働き方に関するアンケート調査結果(経済同友会)
――制度ができても、活躍の場があっても、自信がもてなかったり仕事を楽しめなかったり。そんな女性が多いのが現実。それはどうして? どう解決すれば? もしかすると、これは女性活躍の打開策となる大事な議論かもしれません。林さんのお話しから、次回はその背景と対策をさらに掘り下げてみましょう。
南 ゆかり
フリーエディター・ライター。10/5発売・後藤真希エッセイ『今の私は』も担当したので、よろしければそちらも読んでくださいね。CanCam.jpでは「インタビュー連載/ゆとり以上バリキャリ未満の女たち」、Oggi誌面では「お金に困らない女になる!」「この人に今、これが聞きたい!」など連載中。