これからいちばん力を注ぎたいのは、次世代の若手たちを育てていくこと
月〜金曜・朝6:00〜9:00、TOKYO FM/JFN38局ネット(一部東京ローカルあり)にて放送されている朝のニュースワイド番組「ONE MORNING」。TOKYO FMの〝朝の顔〟ともいえる同番組でパーソナリティをつとめているのは、人気声優の鈴村健一さん。Vol.1では番組への想いを語っていただきましたが、今回は声優という仕事の枠を超えて活躍を続ける鈴村さんに、今後の展望について伺います。
——声優、歌手、舞台のプロデュース、事務所代表、そして「ONE MORNING」をはじめとするラジオのパーソナリティ…。年を重ねるほどに新たな挑戦をされていらっしゃいますね。
「そうですね。僕が声優業界に入ってきたときは、〝声優は声優だけをやる〟というのが主流だったんです。でも今は本当に多岐に渡る活動ができるようになって、おかげさまでこうやってラジオ番組まで担当させていただける。声優が『ONE MORNING』のような朝の帯番組のパーソナリティをする日がくるなんて、誰も想像もしていなかったはず。時代が変わっていく中で、この業界はさらに広がりを見せていくと思うんですが、僕が今後いちばん力を注ぎたいのは若い子たちを育てていくこと。これからは〝声優以外の活動もしている声優〟をみた子たちが、この世界に入ってきてくれると思うんです。僕は声優業界の中でもかなりいろいろなことをやってきたタイプなのですが、そのノウハウが自分自身にだいぶ蓄積されてきていて…それをまるっと誰かに届けたいなと。社長がいろいろな経験をしていて何でもやったことがあるというのは、きっと誰かの励みになるはずだと信じてここまでやってきた部分もありますしね(※鈴村さんは、声優事務所の社長としても活躍中) 。だから、若い子たちがどんどん前に出ていくために、直接僕が伝えられることは伝えていきたい。そうして次の世代にバトンが渡っていけば、僕も縁側でゆっくりお茶を飲める日がくるかな〜なんて(笑)」
——もう〝引き際〟のようなものを考えはじめているんですか?
「もちろんこれからも〝鈴村健一〟としての活動は継続させながらですけど、かっこいい引き際ってどんなものだろうとは考えています。常に現場の最前線に立っていたい!というタイプの方もたくさんいらっしゃいますし、それもすごく尊くてかっこいい。でも、そうじゃない〝大人の引き際〟みたいなものを僕はずっと昔からイメージしていて。高齢化社会が進んで、年金受給の年齢も上がって、高齢者もずっと働かなければいけない。そんな変化が今の日本には起きているわけですが、それっていい面もあれば悪い面もある。上の人間がいることで〝新しい何か〟を阻害してしまう可能性が少なからずあるんですよね。今、現場に立って若い子たちをみていると、僕にはない感性にあふれているな、この子たちが新しい時代をつくっていってくれるんだろうなと強く感じるんです。でも同時に〝自分の価値基準〟で若い子たちをみている自分も確かに存在しているし、中には『今の若い子は』なんてことをいう人もたくさんいる。それは僕も散々言われてきたセリフなんですけど(苦笑)、でもそう言われながらも自分の行動を信じてやってきたから、今ここに辿りつけているんですよね。そして、その背景には僕を認めて支えてくれていた大人の先輩方がたくさんいて…だから僕もそういう大人になりたい。『これまでの僕のノウハウはまるっと全部伝えるけれど、それをどう使うかは君たちに全部任せる』って言えるような、若い子たちが自分で全部決められる社会や会社にしたいんです。もっと柔軟な心で、若い子を支援することを考えて形にしていきたいですね」
若い子たちと同じレールに乗っていなくても、並走することはできる
▲〝帯番組のパーソナリティ〟も今春からの新たな挑戦。これまでとはまた違う新しい鈴村さんの魅力に気付かされます。
——「ONE MORNING」という朝の帯番組を担当することで、今までの生活になかったルーティンが生まれた…と話されていましたが(Vol.1参照)、そんな新しい苦労もノウハウを積み重ねていく上でとてもいい経験になっていそうですね。
「本当にそうだと思います。『この歳になっても、今までやっていない新しいことにチャレンジできるって凄いことだよね』って、自宅でも夫婦でよく話すんです(※鈴村さんの奥様は、声優の坂本真綾さん)。歳をとると、どんなことも経験値でなんとかやりくりできるようになってきてしまうし、自分のテリトリーから出ようとしなくなる。だからこそ、〝新しい環境〟に置かせてもらえていることがとても幸せだと思います。『おじさんも、まだまだ新しいことやってるよ!』って新鮮な気持ちで、若い子たちと感じたままに話せるのもうれしいですしね」
——「最近、武道館に立ちたいと改めて思いはじめた」なんて発言を先日されていたような記憶が…
「そうそう、昔は武道館に立ちたいなんて思わなかったんですけど(笑)。まだできることはやるべきだし、引き際も急にバッサリつくる必要はない。今の年齢・今のタームでできること・やりたいことをやりつつ、あとは若い子たちをしっかり認めてあげたいなと。決して同じレールには乗っていないかもしれないけど、並走はできるかもしれませんし(笑)。横で応援しながら、自分も走る。そんなことができたら最高ですね」
——そんな風に鈴村さんに見守ってもらえる後輩のみなさんはすごく幸せですね。単純にうらやましいです(笑)。
「いやいや、年をとるごとに人って頭が硬くなっていくし、自分を守るようになってきますからね。今あるもの、生活を守っていかなければいけないわけだから、それは人として当然の変化だとも思うんですけど。自分にとって最善である〝自分の価値基準〟を他人にあてはめてしまうような大人にならずに過ごすには、さてどうしたらいいものか…と考えてしまいますよ」
——毎朝たくさんのリスナーさんのいろんな意見に接していたら、頭は柔らかくならざるをえないのでは?
「そうあれればいいんですが、そこはとっても難しい。柔軟性は持ちつつ、自分の意見も持っていないといけないわけですから。〝我〟がない自由なだけの状態って、ただフラフラしているだけに見えてしまうし、でも逆に〝我〟が強すぎるのもいけない。なんでしょう、柳の木のようにしっかり土に根をはって強く立ちながら、枝はしなやかに風を受け流していく…ここから先はそういう柳のような人生を目指していって…縁側でお茶を飲むっていう…」
——結果としてそこにたどり着くんですね(笑)
「そうですね、最終的な目標は『縁側でお茶を飲みたい』です(笑)」
自らの経験を次の世代にバトンタッチしていきたい…と穏やかな口調で話す優しい表情が、取材中もとても印象的だった鈴村さん。ですが、現在進行形で〝朝の帯番組パーソナリティ〟という新しい経験を積み重ねているように、挑戦を止めることのない〝攻めの姿勢〟も素敵なところ。若手を応援しつつ、その横でどんな並走っぷりを見せてくださるのか、私たちの楽しみは終わりそうにありません!
「ONE MORNING」
TOKYO FM/JFN全国38局ネット(一部東京ローカルあり)にて、毎週月〜金曜の6:00〜9:00に生放送中! 〝それぞれの朝に、新しい価値観を〟をテーマに、鈴村健一とハードキャッスル エリザベスが最新ニュース・情報を楽しくわかりやすく伝えている。
声優
鈴村健一
すずむらけんいち・1974年生まれ。テレビアニメ『マクロス7』モーリー役でデビュー。テレビアニメ『銀魂』沖田総悟役、『おそ松さん』イヤミ役など数多くの人気作に出演。音楽活動や舞台プロデュースも行うほか、事務所社長という顔ももつ。
撮影/来家祐介(aosora) スタイリスト/村田友哉(SMB International.) ヘア&メーク/坂本沙織(アートメイク・トキ) 取材・文/旧井菜月