尊敬とは
相手に「尊敬している」と言われると、誰でもうれしい気持ちになるものです。「尊敬」とは、そもそもどのような人に対して用いられる言葉なのでしょうか?

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尊いと思い、敬うこと
尊敬の「尊」は、価値や身分が高いことや、敬い大切にすることを意味する漢字です。「敬」は相手に礼を尽くす、他人を尊んで自分の挙動をつつしむなどの意味を持ちます。人格のすばらしさや知識の豊富さなどに触れ「この人についていきたい」という気持ちが湧いたり、思わず頭を下げたくなったりする瞬間はありませんか?相手の人格や行為などを価値あるもの、称賛すべきものと認め、礼を尽くすことが尊敬の意味です。尊敬は日本語の「尊敬語」と同様に、自分の立ち位置はそのままで、相手を自分よりも「上の立場に持ち上げる」という特徴があります。
【尊】
〈音読み〉
ソン
〈訓読み〉
たっとい とうとい たっとぶ とうとぶ みこと
1.値うちや位が高い。たっとい。
2.敬い大切にする。たっとぶ。
3.相手の事柄に冠して敬意を表す語。
4.仏や貴人を尊んでいう語。【敬】
〈音読み〉
ケイ キョウ
〈訓読み〉
うやまう つつしむ
(ケイ)
身を引き締めてうやうやしくする。うやまう。
(キョウ)
1.うやまう。
2.かわいい。【尊敬:そん‐けい】
1.その人の人格をとうといものと認めてうやまうこと。その人の行為・業績などをすぐれたものと認めて、その人をうやまうこと。
2.文法で、聞き手や話題の主、また、その動作・状態などを高めて待遇する言い方。
リスペクトとの違い
「リスペクト(respect)」は尊敬を意味する英単語ですが、日本語と異なる点もあります。日本語の尊敬は、対象が「人」に限られますが、リスペクトは相手のアイデア・スタイル・宗教・文化など、「人以外の物」に対しても幅広く使えるのが大きな違いです。尊敬は相手を自分よりも上の立場に持ち上げる表現なのに対し、リスペクトは対等な立場でありながら相手を認め、大切にするというニュアンスが強い言葉です。リスペクトは、日本では「尊敬」とほぼ同じ意味で使用されることがありますが、英語での会話で使う際には、この違いに注意しましょう。
「尊敬の念」の使い方・例文
「尊敬の念」はビジネスシーンや手紙の中では頻繁に登場します。さまざまな言葉を伴うため、正しい使い方と例文を覚えておきましょう。

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尊敬の念を抱く
「尊敬の念を抱く」は、相手に対し、尊敬の気持ちを持つという意味です。「念(ねん)」は、思い・気持ち・考えを表し「疑義の念を抱く」「畏怖の念を抱く」などの表現で使われます。注意したいのが、「尊敬の念を抱く」は人物に対してのみ用いられるという点です。「私は彼に尊敬の念を抱いています」は正しい表現ですが、「貴社に尊敬の念を抱いています」「あなたの作品に尊敬の念を抱きました」と表現するのは、基本的に間違いです。以下のような文で用いられます。
・危険を顧みず、子どもを助けようとする彼に尊敬の念を抱いた。
・人がやりたがらないことを率先して行う〇〇さんに、私は尊敬の念を抱かずにはいられない。
尊敬の念がやまない
「尊敬の念がやまない」は、相手を心から尊敬している・尊敬せざるを得ないという意味です。「やまない」は、文字通り「終わることがない」という意味で、感情を表す品詞に接続し、その状態が長く続いている、または程度が大きいことを示します。以下の例文を参考に、ニュアンスを確認してみましょう。
・被災地で1年以上のボランティア活動を続ける○○さんに対して、尊敬の念がやまない。
・骨折という大きな困難を乗り越えて勝利した□□選手には尊敬の念がやまない。
・破綻寸前の会社を1年で黒字回復させた社長に対して、私は尊敬の念がやまない。
尊敬の念にたえない
「尊敬の念にたえない」は「尊敬の気持ちでいっぱいです」という言い方を、より丁寧に表現したものです。「たえる(堪える)」には、感情を表に出さずに抑えるという意味があります。「~の念にたえない」は、ある感情が心からあふれ、表に出さずにはいられない状況といえるでしょう。「たえない」という表現は、「感謝の念にたえない」「慚愧(ざんぎ)の念にたえない」「哀惜(あいせき)の念にたえない」など、尊敬以外の感情にも用いられます。「尊敬の念にたえない」という表現を使った例文は、以下のとおりです。
・誰もクリアできなかった任務を遂行した○○さんは、尊敬の念にたえない人だ。
・ここまで育ててくれた母は、私にとって尊敬の念にたえない存在だ。
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使い分けたい似た意味の言葉
日本語の中には、尊敬に似た意味の言葉が多く存在します。大体の意味合いは似ていても、使うべき対象やシーンが微妙に異なる点に注意しましょう。

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