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2020.06.08

コロナ禍で露呈!「名ばかり共働き」世帯の現実|フルキャリ活かす「共働き2.0」社会の実現へ

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今、コロナ禍にあって夫婦ともに在宅勤務という「共働き」世帯が増えているが、臨時休校などにより急増した家事・育児の多くは、依然として女性が担っている実態が明らかとなっている。「子育てや家事は女性の仕事」という呪縛から脱却するには何が必要か。著書『フルキャリマネジメント 子育てしながら働く部下を持つマネジャーの心得』を上梓した武田佳奈氏が、コロナ禍を真の「“共”働き」社会の実現のためのチャンスにすべきだと訴える。

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武田 佳奈(株式会社野村総合研究所未来創発センター上級コンサルタント)
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コロナ禍の在宅勤務で露呈した「名ばかり共働き」

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに在宅勤務で働く人が急増しました。これまでも、育児などが理由で、できる仕事の内容や量に制限が生じやすい女性であったとしても、就業する場所や時間が柔軟に決められれば、活躍の機会がより増えるとして、在宅勤務をはじめとする多様な働き方の導入が進んできました。

共働き世帯が増える中、多様な働き方の導入は、女性のみならず、これからの子育て期の男性の問題ともなり、これからの現役世代が仕事と子育てを両立できる環境整備として注目されてきました。

そのような中、今回の新型コロナウイルス感染拡大防止対策として、多くの人が経験することになった在宅勤務は、共働き世帯、とくに子育て期の共働き世帯が仕事と育児を両立するうえで抱えてきた問題を解決することにつながったのでしょうか。

これまで朝早くから夜遅くまで働いていた男性が家族との時間を確保できたり、家事や育児をより担うことができたというケースもあったと思います。しかし、必ずしもそのような世帯ばかりではなかったようです。

「自分も在宅勤務で仕事をしているのに、休校中の子どもの家庭学習のサポートや食事の支度は自分任せで不公平だ」とか、「自分は保育園に通えない小さな子どもの世話と仕事をなんとかやりくりしているのに、夫は1人別室で仕事に集中している」など、家事や育児の負担の偏りをいつも以上に痛感したという声も多く聞こえてきます。

実際、野村総合研究所が3月末に実施した調査では、「家事の量や頻度が増えた」とする夫は24.5%、「育児の量や頻度が増えた」とする夫は27.7%にとどまりました。3月初めに学校が臨時休校なり、すでに家事や育児の負担が急増していたと思われるにもかかわらず、男性の4人に3人は家事や育児の量が変わっていませんでした。

配偶者の家事や育児の量や頻度が増えたかについての共働きの妻の回答も、「配偶者(夫)の家事の量や頻度が増えた」とする妻は15.0%、「配偶者(夫)の育児の量や頻度が増えた」とする妻は21.0%にとどまりました。臨時休校などにより急増した家事・育児の多くは女性が担った様子がうかがえました。

今や専業主婦世帯数を共働き世帯数が上回り、夫婦がともに働くことが珍しくはありません。共働きが当たり前になっても、本当に支え合う態勢がとれている共働き夫婦はどのくらいいたのか、また自分のところはどうだったのか、共働きといっても「名ばかり共働き」ではなかったのかを改めて問うことになったのが、このコロナ禍だったのではないでしょうか。

筆者は従来から、働く人の中に増えている、出産や子育てにも前向きでありながら仕事やキャリア形成にも意欲的に取り組みたいと考えている「フルキャリ」の存在に注目してきました。2015年、キャリア重視の「バリキャリ」とも、私生活重視の「ゆるキャリ」とも異なる、両者の価値観を併せ持つような働き手を「フルキャリ」と定義しました。筆者が実施した調査によると、正社員として働く女性の2人に1人(50.3%)が「フルキャリ」であることが分かりました。

先ほど、新型コロナウイルス感染拡大が「名ばかり共働き」を直撃し、家事や育児の負担の偏りを改めて明らかにすることにつながったと述べましたが、子育て中の「フルキャリ」もこのコロナショックに見舞われています。

「フルキャリ」が直面するコロナショック

子育て中の「フルキャリ」で、新型コロナウイルス感染拡大に伴い在宅勤務となった人の中には、臨時休校・臨時休園という事態も重なって、「子どもの世話をしながら働く在宅勤務」というかなり特殊な環境下での就業を余儀なくされた人が多くいたと思います。野村総合研究所が5月末に実施した調査では、小学生以下の子どもと同居している女性で在宅勤務をした女性の71.0%が「子どもの世話や勉強を見ながら仕事をした」と回答しています。

子育てをしつつも、仕事での貢献も大事にしてきた「フルキャリ」だからこそ、この「子どもの世話をしながら働く在宅勤務」で、いつも以上に思うように仕事ができず、いつも以上に貢献実感を持ちにくい状況に追い込まれている様子がうかがえました。制約なく在宅勤務をする(外部からはそのように見える)同僚と比べてしまい、子育てと仕事の両立の難しさを改めて痛感してしまった人も少なくないようです。

ここ数年、子育てしながらであっても仕事も頑張りたいとする「フルキャリ」の存在を認識し、子育て期であっても活躍を引き出そうとする企業も増えてきていました。そのような環境がもっと増えて、「フルキャリ」が「フルキャリ」のままキャリアを重ねていくことができれば、本人のみならず、限られた人的資源で成長を達成する必要に迫られた企業にとっても大きなメリットがあると考えてきました。

そのさなか、一時的とはいえ、急に「子どもの世話をしながら働く在宅勤務」が始まり、かつ長く続いたことで、子育て期であっても「フルキャリ」を目指そうとする人が、これまでの何倍以上にも困難や葛藤を感じる事態を引き起こしてしまっています。これが「フルキャリ」を襲うコロナショックです。

一方、今回のコロナ禍は、雇用環境の悪化にもつながっています。

国や企業による雇用確保に向けた早急な取り組みが必要です。そのうえで、今回の新型コロナウイルス感染拡大に限らず、経済の不透明感がますます強まる中においては、家庭ごとに、より家計の安定・生活の安心を実現する取り組みを模索していく必要性を再認識した世帯も多かったのではないでしょうか。

なかでも、希望する夫婦においては、夫婦それぞれが働いて、ともにできるだけ安定した収入を得るような共働きを実現、継続できることも有効な手段の1つになります。筆者はこの共働きスタイルを「共働き2.0」と呼び、その実現がこれからの現役世代の長期的な家計の安定、ひいては国が抱える課題解決に有効だとして、国や企業に子育てしながら働く現役世代に向けたさらなる環境整備を求めてきました。

今こそ共働きスタイルの再構築を

共働きを希望する夫婦であったとしても、どのような共働きスタイルを選択するかは夫婦の選択です。しかし、先に述べたように、「フルキャリ」志向の働き手が増えていることから考えると、夫婦がそれぞれの仕事での貢献や活躍にも挑戦し、家庭生活にも前向きに取り組もうとする共働きスタイルを希望する人は、今後増えていくと考えています。

とはいえ、とくに子育て期において、夫婦がともに働きながら子育ても行っていくことは、以前と比べ格段に環境が整ってはきたとはいえ、決して容易ではありません。経済と社会保障の担い手である現役世代の仕事と家庭の両立実現に向けて、国や企業によるさらなる環境整備が重要です。

他方で、当事者としてできることとしては、今回の新型コロナ感染拡大対策によって増えた家族で過ごす時間を有効に活用すべきだと考えます。

野村総合研究所が5月末に実施した調査によると、新型コロナウイルス感染拡大以降、家族で過ごす時間が増えたとする人は7割(72.4%)にのぼりました。その中で、新型コロナウイルス感染拡大以降、配偶者と今後の働き方や暮らし方を話し合う時間が増えた人は3割強で、7割近くは話し合いが増えてはいませんでした。

これまで、働き方改革が進展中だったとはいえ、わが国の現役世代の多くは家族とともに自宅で過ごす時間が限定的で、働き方や暮らし方などを夫婦で話し合ったり、見直す余裕がない世帯も少なくなかったと思います。

日頃はなかなかゆっくり話し合う時間の取れない共働き世帯だからこそ、新型コロナウイルス感染対策によって増えた家庭での時間は、チャンスでもあります。夫婦でどのような共働きスタイルを実現することがそれぞれの希望により近づけるのか、そのためには互いにどのように支え合っていけばよいのかを改めて話し合うことが有効でしょう。

大きな変化が起きた後の個人や組織の心境や行動の変化を理解することに使われる「Change Curve」というモデルがあります。

「Change Curve」では、何か大きな変革が起きた後の個人の心理や行動は、時間とともに、大きく分けて、「ショック・否定(ステージ1)」から「怒り・落ち込み(ステージ2)」、そして「受容・統合(ステージ3)」へと移行するとされています。

家庭のニューノーマルの実現へ

新型コロナウイルス感染拡大で急な対応を迫られた在宅勤務、加えて臨時休校・臨時休園といった突然の環境変化はわれわれに大きなショックに与え、怒りをももたらしました。そのことで、とりわけ子育て期の共働き世帯では「これでは仕事が続けられない」と肩を落とした人もいたと思います。

我々は今、前述した3段階で言うところのステージ1からステージ2を経験しているのだと思います。この状況をいったん受け入れ、どのような共働きスタイルを再構築できるか、私たちは今ステージ3に移行できるかどうか問われているように思います。

コロナ禍を経て、日本の「名ばかり共働き」が、互いに支え合い、互いの仕事・キャリアと家族生活双方の希望を実現できる「真の“共“働き」へと移行できれば、それこそ各家庭のニューノーマル(新たな状態・常識)の実現です。

共働きに限らず、今回を機とした家庭ごとのニューノーマルがより多く実現することは、少子化克服、労働力確保、社会保障維持といった中長期的課題としてわが国に依然として残る課題解決にもつながるものと考えます。

株式会社野村総合研究所未来創発センター上級コンサルタント

武田 佳奈(たけだ かな)

2004年、慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程を修了。同年、株式会社野村総合研究所に入社。以来、官公庁の政策立案支援、民間企業の事業戦略立案や新規事業創造支援などに従事。2018年4月より現職。専門は、女性活躍推進や働き方改革などの企業における人材マネジメント、保育や生活支援関連サービス産業など。著書に『モチベーション企業の研究』(共著、東洋経済新報社)、『東京・首都圏はこう変わる! 未来計画2020』(共著、日本経済新聞出版社)がある。

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東洋経済オンライン

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写真/Shutterstock.com

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