ついつい言ってしまう「務めさせていただく」は正しい?
セレモニーやビジネスシーンで頻繁に聞く「務めさせていただきます」。皆さんも一度は使ったことがあるのではないでしょうか? 丁寧に思えるこの表現ですが、実は「過剰敬語」になってしまう場合もあるようです。ビジネスの場で適切に伝わるための表現を見直し、今日から適切に使えるようにしていきましょう。
「務める」と「させていただく」の意味
「務める」は、役割や仕事を引き受け、それを果たすことを意味します。一方「させていただく」は、相手に許可を得て行動する際に使う言葉で、「相手への配慮」が込められた表現です。この2つが組み合わさった「務めさせていただく」は相手に対してへりくだった表現になります。
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「務めさせていただく」の例文
では、どのような場面で「務めさせていただく」を使うといいのでしょうか? ビジネスシーンでの使い方を具体例とともに確認していきましょう。
本日の式は、私が司会を務めさせていただきます。
セレモニーや公式な場で司会を担当するとき、この表現を使うことで「務めさせていただく」相手(たとえば来場者や主催者)に対して、感謝や謙虚な姿勢を示すことができます。
プロジェクトリーダーを務めさせていただきますこと、誠に光栄に思っております。
「務めさせていただきます」ということで、役割を引き受けていることを強調し、謙虚な姿勢も伝わります。
次回の新人研修では、講師を務めさせていただきますことを大変嬉しく思います。
謙虚な姿勢で責任を果たす意欲を表しつつ、講師という任務を任されたことに喜びを感じさせる一言です。
「務める」「勤める」「努める」の違い
同じ「つとめる」でも、それぞれの漢字には異なる意味が込められています。違いを押さえておくと、状況に応じた適切な表現が自然と選べるようになり、言葉遣いに対する自信も深まるでしょう。
務める:役割や任務を引き受け、責任を持って果たすことを意味します。たとえば「司会を務める」というと、司会という役割を正式に担うことを表現します。
勤める:会社や団体に所属して働く、または勤務する場合に使います。たとえば「会社に勤める」は、組織の一員として日々働く様子を指します。
努める:目標に向かって努力することを意味します。「勉強に努める」という表現は、学びに向けて一生懸命努力している姿を伝えます。
「させていただきます症候群」に要注意
最近では「させていただきます症候群」といわれてしまうほど、過剰な敬語を使う人が増えているようです。
文化庁の指針では「〇〇させていただく」を使うには、基本的に以下の2つの条件が揃っている場合に使われると述べられています。1、2の条件をどの程度満たすかによって、適切な場合とあまり適切とはいえない場合が出てくると文化庁は解説します。
1. 相手側又は第三者の許可を受けて行う場合
2. そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合
つまり、相手に許しを得てから「務める」場合に、「務めさせていただく」と使うのは、誤りではありません。
参考:文化庁「敬語の指針」
文法的には間違いはないが、くどい印象に
用法として間違ってはいないけれど、くどい例を見ていきましょう。たとえば相手が所有している本をコピーするために許可を求めるときの表現「コピーを取らせていただけますか」。文化庁の敬語指針によると、これは「させていただきます」の使用要件を満たしているため、問題ないようです。
それに対して、研究発表会などにおける冒頭の表現「それでは発表させていただきます」。これは用法として間違いではないのですが、上記1の条件「相手側又は第三者の許可を受けて行う場合」を満たしているかどうかが曖昧であるため、大層な印象を与えてしまうおそれがあります。簡潔に「発表いたします」とする方が、伝わりやすいでしょう。