「鷺草」は「サギソウ」と読む
「鷺草」という漢字は「サギソウ」と読みます。「鷺」という漢字は常用漢字ではないため、あまり馴染みがないという人は少なくないでしょう。
「鷺草」はラン科の多年草の名称で、花の見た目の美しさから観賞用として人気が高い植物です。ここでは、鷺草の特徴とその漢字の由来について解説しましょう。
【鷺草:さぎ‐そう〔‐サウ〕】
ラン科の多年草。日当たりのよい湿地に生え、高さ30〜40センチ。8月ごろ花茎を伸ばし、飛び立つサギに似た形の白い花を数個開く。観賞用に栽培される。《季 夏》「—のおくれ咲きしも翔けそろふ/秋桜子」
(引用:小学館『デジタル大辞泉』より)
「鷺草」の特徴
鷺草はランの一種で日本の固有種といわれ、主に湿地で自生する多年草です。繁殖力が強いため、かつては日本全国で多く見られましたが、近年の土地開発などによって減少傾向にあるようです。
茎の長さは土壌条件などによって個体差がかなりあり、15cm程度から40cmほどに成長するものも見られます。毎年7月〜8月の夏場に3cmほどの花を咲かせます。
現在は、国の保護地域となっている湿地帯で野生の鷺草を見ることができます。ラン科の植物としては比較的栽培が容易なため、鷺草の愛好家は全国に多く、盆栽などで観賞する美術品として品種改良も頻繁に行われています。
「鷺草」の名前の由来
鷺草という名前は、白い花が鳥の「白鷺(シラサギ)」が羽を広げて飛ぶ姿に似ていることから命名されたといわれています。兵庫県姫路市では「姫路城」の別名である「白鷺城」の名にちなんで、鷺草が市の花に指定されています。
また、東京都世田谷区では奥沢城に古くから伝わる伝説にちなみ、鷺草が区の花となっています。
「鷺草」と民間伝承
古くから人の生活圏に生息する生物には、さまざまな民間伝承が形成され、その中の多くは21世紀となった現代にも伝説や寓話として語り継がれています。ここでは、美しい白い花を見事に咲かせる鷺草にまつわる伝説とその花言葉を紹介しましょう。
「鷺草」にまつわる伝説
鷺草にまつわる民間伝承で有名なのは、世田谷区の奥沢城の「鷺草伝説」です。この伝説には、同じ伝承ながら細かい部分でいくつかのパターンがありますが、代表的な話を以下に紹介します。
その昔、奥沢城城主の大平出羽守の娘、常盤姫は世田谷城の城主である吉良頼康の側室となりました。やがて常盤姫はめでたく城主の子供を宿したのですが、これに嫉妬した他の側室たちの策略によって無実の罪を負い、濡れ衣を晴らすために逃げ出し、追われる身となります。
常盤姫は殿に自身の潔白を告げる手紙を白鷺の足にくくりつけて放したのですが、奥沢城を目前にしながら白鷺は力尽き息絶えます。自身の潔白の証が叶わなかった常盤姫は、無残にも自害して非業の死を遂げたのです。
村人が白鷺を手厚く葬ると、なんと翌年の夏に、その場所にはまるで白鷺が舞い上がるような形をした白い美しい花が一斉に咲きました。
その後、村人たちは常盤姫を偲んでこの花を「鷺草」と呼ぶようになった、というストーリーです。
さらに、悲劇の常盤姫の話とは別に世田谷城にまつわる「密書伝説」も現在に伝わっています。これは世田谷城が敵軍に包囲された際、吉良氏側は援軍を頼むために城で飼っていた白鷺の足に密書を結び、奥沢城に向けて解き放ちました。
密書を託された白鷺は奥沢城に向けて懸命に飛んだのですが、到着目前で力尽きて地面に落ちてしまったとのことです。そして以降、この地にはまるで白鷺の生まれ変わりのような美しい花が咲くようになり、人々はこれを「鷺草」と命名した、という伝説です。
「鷺草」の花言葉
鷺草は8月13日と21日の誕生花で、花言葉は「夢でもあなたを追う」「無垢」「清純」「繊細」など。純白の美しさから、いずれも清純な女性的イメージになったと思われます。
「夢でもあなたを追う」という少し変わった花言葉は、おそらく鷺草伝説の悲劇の主人公である常盤姫にちなんでいるものと考えられます。
「鷺草」の栽培方法
鷺草は、保湿性の高い用土で鉢植えにて日当たりの良い場所で育てます。植え付けは毎年1月〜3月で、球根の上に1cm程度の用土をまいておきましょう。
水やりは、砂利を敷いた受皿に水をたっぷり入れてその上に植木鉢を乗せます。受皿の水が無くなっていないか毎日観察しましょう。
「鷺草」の品種いろいろ
自家栽培が容易な鷺草にはいくつもの品種が作られています。どの品種にも、美しい花を咲かせる姿にふさわしい名称が。
以下に、鷺草の代表的な品種を5種挙げてみましょう。
飛翔
「飛翔」という品種は、ラン科の花によく見られる特徴を持っており、花弁の下側が「唇弁」という広がった形状になっています。花を下から支えるような形になった変わった花で「獅子咲き」という別名を持つ品種です。
玉竜花
他の品種に比べてかなり大きく育つ品種が「玉竜花」です。草の長さは30〜50cmにも成長し、花自体も4〜5cmにもなるので、かなり見栄えがする観賞用に適した品種といえるでしょう。
他の品種よりも開花時期が遅いため、8月過ぎまで花の観賞が可能です。
銀河
壮大なネーミングの品種、「銀河」。花に白い覆輪(ふくりん)と呼ばれる紋様があることからそう名付けられたようです。
同じ品種ながら一輪ごとに覆輪の模様が異なるので、それらを観賞する楽しみがあります。
天の川
草の長さが短めで、葉に黄白色で散りばめたような紋様が入っているのが「天の川」です。
「銀河」と同様に、夏空に輝く天の川にちなんで命名された品種です。小さな植物が雄大な宇宙の姿を模した名称になっている点が興味深く感じられます。
金星
葉に黄色の覆輪模様が入った品種は「金星」。葉の緑と黄色、そして花の純白の3色のコントラストが美しく、鷺草の花の美しさが一段と映える品種といえるでしょう。
「鷺草」の栽培のポイント
鷺草はほとんど肥料を必要としないのが育てやすさの要因ですが、育ちが悪い場合は、春に三要素等量配合タイプの液体肥料を約2000倍に希釈して与えてみましょう。球根は1年で2〜3倍になるので、容易に数を増やすことが可能です。
栽培が容易であっても、怖いのは病気です。芽が出る5月頃、形状に異常があればサギソウウイルス病の可能性があるので、すぐに除去して廃棄しましょう。
まとめ
かつては日本全国で美しい花を咲かせていた鷺草も、今ではすっかり自生種が減少してしまっています。近い将来、日本国内に自生する鷺草は見られなくなっているかもしれません。
そのような未来が来ないことを願うばかりですが、種が入手しやすく自宅でも比較的容易に栽培できる鷺草は、人気の植物のひとつとなっています。
写真・イラスト/(C) Shutterstock.com
メイン・アイキャッチ画像/(C)Adobe Stock
▼あわせて読みたい