好奇心を科学的に引き出す方法
子どもの将来を考える親にとって、なんとかして子どもに勉強させようとするのは世界共通です。でも、肝心の子どものやる気がなかったら始まりません。「勉強する」「考える」というのは、つまるところ、自分で自分の頭を動かそうとする心の働きがなくては成り立たないからです。
私は、アメリカのスタンフォード大学に附属するオンラインハイスクールの校長をしています。スタンフォードとシリコンバレー。テクノロジーと世界の最先端教育。中高一貫のグローバル教室に、世界中から集まる才能ある若者たち……。これだけでも十分キャラの濃い学校かもしれませんが、実は本校の最重要エッセンスは「哲学」が必修であること。
「考える力」を一番大切に考えてカリキュラムを考えているのです。でも、「考える」という行為を強要することはできません。わからないことや気になることに自ら興味を持たない限り、意味のある思考はできない。つまり、子どもの考える力をサポートする上で、最も重要な要素の1つは、子どもの「好奇心」や「やる気」そのものを育ててやることなのです。
好奇心を引き出すにはどうしたら
しかし、好奇心の育て方といっても、その方法がわからないという人も多いでしょう。なぜなら、好奇心は心のベーシックな働きであるため、私たちにとって無意識の心のプロセスに感じられるからです。
事実、われわれの祖先は、好奇心によって、新しい道具を作ったり、新しい考え方を見出したりしたからこそ、弱肉強食の自然淘汰を生き延びてきました。つまり、好奇心は人間のDNAに刻まれた進化的に優位な心の仕組みなのです。
だからこそ、子どもの好奇心のポテンシャルを存分に引き出すために、好奇心のメカニズムを脳科学&心理学的に理解して、科学的な好奇心の伸ばし方を実践する必要があるのです。
好奇心を効果的に促すサポートが必要
では、どうやったら人間が持つ好奇心のポテンシャルを最大限に引き出していくことができるのか?まずは、ハーバード大学の学びの科学の研究者、ボナウィッツ教授の研究からいくつかヒントを導き出していきましょう。
最初に押さえておきたいポイントは、子どもの好奇心を伸ばすのに、自由に伸び伸びと放任しっぱなしにするのは効果的なやり方ではないということです。「自由に遊んで、あれやこれやと自然な探求ができる環境が好奇心を伸ばす」、そんな考え方をしばしば見かけるので、この点は気をつけなくてはいけません。
やはり子どもにはある程度のサポートが必要であり、好奇心が効果的に促されるようなサポートが必要なのです。その上で子どもの好奇心を伸ばすための3つのコツを意識して声かけしていきましょう。
まずは、原因と結果の関係を推測できる環境に注目させてあげることが大切です。たとえばAとBのボタンがあって、ランプにつながっている装置を想像してください。Aを押すとランプがつき、Bを押すとランプはつきません。
説明しすぎ、教えすぎ、もダメ
つまり、Aだけ押した場合と、AとB両方を押した場合にはランプがつき、Bだけ押したり、AもBも押さないときは、ランプはつかない仕組みです。
ここで、次の2つの場面を考えてみましょう。
まずは子どもの前でAとBのボタンを両方押して、ランプが点灯するところを2回見せる場合。もう一方は、1回目はAだけを押してランプの点灯を見せて、2回目はBだけを押してランプの点灯しないところを見せる場合。
ここで注目すべきが「同時押し」の場面ではランプの点灯の原因がわかりにくいのに対して、「別々押し」の場面ではランプの点灯の原因がAにあるのが推測しやすくなること。実際、同様の環境を作ってやると、子どもは「同時押し」の場面のように、原因と結果の関係がわかりにくいときより「別々押し」の方に興味を持つことがわかっています。
つまり、子どもに何かを注目させるなら、最初から説明しすぎたり、教えすぎてもいけませんが、ある程度のパターンを見せて、子どもに推測させるヒントを与えることが大切なのです。
「思い込み」を揺さぶる
次のコツは、子どものこれまでの「当たり前」を少し揺るがせてあげること。例えば、次のような子どもと大人の会話を考えてみましょう。
親 1年は何日?
子ども 365日でしょ。
親 そうだね。なんでだっけ?
子ども え、あれでしょ、地球が太陽の周りを365日で回ってるからでしょ。
親 うん、そうだよね。でも、うるう年ってあるよね。2月が1日増えて29日間になる。
子ども そのときは1年が366日か。
親 そう、じゃあ閏年のときは地球が遅くなるっていうことかな?
今の理解に疑問を呈する
もちろん、地球の速度が遅くなるのではなくて、地球が太陽を一周するのに実際には365日よりも少し時間がかかっているため、それを4年に1度のうるう年で調整しているわけです。
ここでは、そのことを直接説明するのではなく、うるう年を使って、1年の日数と地球の公転周期に関する子どものそれまでの理解を、「こうだよね」と確認してから、うるう年を使って「これはどうかな」と少し揺さぶっているわけです。
このように子どもの現在の理解を掘り下げるときに、直接新しい知識を説明するのではなく、今の理解に疑問を呈する形で好奇心を引き出すことができます。
結果の予測を問いかける
3つ目のコツは、何が起きるか予測するように問いかけること。親が説明するのではなく、状況や前提を説明した上で、子どもに問いかけるのです。子どもの予測を聞いた後に結局は正しい答えを説明するのですが、そうする前にあらかじめ考えさせることで学びが効果的になり、さらに子どもの探究心がアップすることがわかっています。
最初から正しい答えを直接教えることで、他の可能性を考えようとする子どもの好奇心を抑制しないように、今挙げたような指導的質問(pedagogical questions)をうまく取り入れていくことがおすすめです。
なんでも調べられる今の時代だからこそ、子どもの好奇心を伸ばすには、親からのちょっとしたヒントや問いかけのサポートが大切です。ぜひご家庭での会話で試してみてください。
スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長
星 友啓(ほし ともひろ)
スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長
スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長。哲学博士。1977年生まれ。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。その後渡米し、スタンフォード大学哲学博士を修了。同大学の講師を経てオンラインハイスクールの立ち上げに参加。2016年より校長に。オンライン教育の世界的リーダーとして活躍。
東洋経済オンライン
東洋経済オンラインは、独自に取材した経済関連ニュースを中心とした情報配信プラットフォームです。