朝型勤務の推奨や、社員の健康増進のためのシステムづくりなど、オリジナリティに富んだ働く環境づくりにいち早く取り組み始めている、大手総合商社の伊藤忠商事。毎週水曜・金曜には女性・男性ともにスーツを脱ぎ、全員がカジュアルな服装で働くという『脱スーツ・デー』の取り組みを開始し、装いの面からも、働き方改革を推奨しています。
そんな『脱スーツ・デー』の取り組みに、働く女性のための着こなしを提案するファッション誌『Domani』が共感して始まったこのプロジェクトも、いよいよ最終章。Domaniスタイリスト望月律子さんの通勤カジュアル指南や、人気セレクトショップ・ユナイテッドアローズでのお買い物指南など、『脱スーツ・デー』をより快適にするためのコンテンツを多方面からお届けしてきました。ラストは、伊藤忠商事の人事・総務部長である垣見俊之さんと、Domaniブランド室室長の井亀真紀による、特別対談を実施。
『脱スーツ・デー』の話を起点に、ビジネスパーソンにとっての「ファッション」とは? ダイバーシティ化する社会において、これからの女性の有りようとは? 働く女性の「今」を熟知した2人に、これからの「働き方」と「働く服」について、それぞれの業界の視点から語りました。
「脱スーツ・デー」の取り組みは、それ自体が、新しい『働き方改革』なんです
井亀 今回、伊藤忠商事様とWeb Domaniとで、働き方改革ならぬ『働く服改革』ということで、取り組みをさせていただきました。そもそもの始まりは、御社が昨年6月に発表された、『脱スーツ・デー』という非常にキャッチーな施策がきっかけでした。そこで改めて、今回の施策の狙いや意図などをお伺いできますか。
垣見人事・総務部長(以下、垣見) 世の中の大きな動きである『働き方改革』の中で、弊社も『朝型勤務』や、『健康経営』など、さまざまな施策を進めてきました。一言で『働き方改革』といっても、色々な観点から取り組むことが出来ます。そこで考えたのが、『ファッションから働き方を変えられないか』ということでした。もともと、弊社は祖業が繊維業ということもあり、ファッションという分野においても、新しい働き方を世の中に示したい、と。そこで、すでに20年前から取り組みを始めていた『カジュアルフライデー』に、改めて注目することにしたのです。
井亀 『カジュアルフライデー』は、ちょっと懐かしさを感じる響きですね。
垣見 そうですね。ただ弊社でも、ここ20年余りの間に取り組みとしては形骸化しており、柔軟な発想に結びつけるという意識を持って服装を変えている社員はほとんどいなかったり、カジュアルといっても中途半端なものだったりと、本来の趣旨と違う内容になってしまっていました。従い、もう一段踏み込んだ取り組みとすることで、働き方改革にも繋げてみよう、ということで、『脱スーツ・デー』として発信しました。
井亀 なるほど。でも、突然会社から発せられた『カジュアルにしよう』という動きに、戸惑われた社員の方もいらっしゃったというお話も伺いました。
垣見 社員からは色々なリアクションがありましたね。『いいじゃないか』というものから、『勘弁してほしい』というものまで(笑)。ただ、取り組みを始めて一年が過ぎ、社員の捉え方も、会社の考え方も、それぞれが整理されてきたなという肌感覚が生まれました。そして今年度からは更なる促進のため、週に1度だったものを、2度に増やし『脱スーツ+(プラス)』としさらに強化して継続していくことにしたんですよ。
井亀 そうなんですね。ますます柔軟に!
仕事服をカジュアル化するだけで、ビジネスパーソンの頭をやわらかくする!
垣見 そもそも仕事服というのは、ビジネスパーソンにとって、戦うための”鎧”です。普段は、男性も女性も、画一的にスーツやジャケットを選んでいるところを、勝負するための身だしなみについて今一度考えてもらうきっかけになります。それによって、柔軟な発想や、新しい考え方、仕事の質の向上につなげるというのが狙いです。
井亀 まさにDomaniでも提唱している、仕事服はコミュニケーションのひとつ、という考え方ですね。単に「おしゃれをしましょう」、もしくは「ラクな格好をしましょう」という話ではないですよね。
御社の社員の方にお話を伺ったところで、「重要な会議や少し複雑な案件こそ、金曜日にするうまくいく」という意見をお伺いして、それはすごく興味深い心理変容だな、と思いました。それに、仕事帰りに新しいお店に足を伸ばしたり、金曜日夜からの旅行なども計画しやすくなるなど、プライベートな行動の幅も広がっているというお声も挙がっていましたよ。
垣見 ビジネスパーソンとして、一歩先の新しい情報に触れたり、それを具現化してお客様に提供するということも必要です。そういった面でも、まずはファッションを足掛かりに、自分の分野以外のことにも興味を持つことは、個々人のアンテナを広げ、思考の柔軟性の向上につながるのではと思います。
井亀 受け手であるクライアントへの影響だけでなく、発信する側、つまりひとりひとりの働き方の変革にもつながるということですよね。我々メディアの人間も、同じようなことを求められるシーンが多いです。読者に向けてアウトプットするためには、まずは編集者のインプットが大切。ファッションを変えるという取り組みが、そのひとつのきっかけになるというのは、ファッション媒体を作っている者としても、面白い施策であると思います。
次回に続く
伊藤忠商事 人事・総務部長
垣見俊之
1990年慶大経済卒、伊藤忠商事入社。東京本社人事部、米ニューヨークの伊藤忠インターナショナル勤務を経て、帰国。2008年4月より、伊藤忠におけるグローバル人材戦略全般の構築・推進に尽力。また、2011年4月からは本社のダイバーシティ推進も兼任。2016年4月から現職に就任し、伊藤忠商事の人事・総務全般の戦略・企画立案の責任者。
Domaniブランド室 室長
井亀真紀
DomaniやCanCamの編集長を歴任してきた敏腕編集長。Domani編集長就任中の2012年に考案したバックサイズ版Domaniで、第4回 BestMagazineAward「雑誌大賞」受賞。2017年、 Web Domani編集長に就任。2018年、Domaniブランド室 室長に就任し、本誌・Webともに、ブランドメディア『Domani』を統轄。