「偽善者」の意味をおさらい
「偽善者」と聞いて、どのようなイメージを思い浮かべますか? いいイメージを持っていないという人もいれば、実は意味をよく知らないという人もいるかもしれませんね。
「偽善者」は、会話や文章などで時々登場する言葉ですが、いい意味で使われることはあまりなく、ネガティブな表現で用いられることがほとんど。正しい意味を把握せずに使ってしまうと、相手を傷つける可能性がありますから、使い方などを把握しておきたいですね。
辞書で調べた意味は
「偽善者」とは、偽善を行なう人を表しますが、偽善とは何を指すのか見ていきましょう。
▷【偽善】読み方:ぎぜん
うわべをいかにも善人らしく見せかけること。また、そういう行為。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
偽善とは、その人の言動に対して用いられる言葉であり、そういう行為をする人を「偽善者」と言います。さらに言うと、いかにも正しい行ないをしているかのように見せかける人を「偽善者」と呼ぶと考えていいでしょう。
「偽善者」とはどのように使う言葉?
「偽善者」の使い方について確認していきます。例文とあわせて紹介しますので、使い方を把握するための参考にしてくださいね。
使い方を例文で紹介
《例文1》これまでの叔父の行ないを知り「あの人は偽善者だね」と悲しそうに母が言った
何かしらのことがきっかけで、その人が「偽善者」ではないかと気がつく様子を表しています。いかにも善人らしく振る舞っているけれど、実はそうではなかったというケースは割とあることかもしれません。
《例文2》彼はその場しのぎの嘘が多くて偽善者だから、一切信用していない
「偽善者」はその人を否定する意味合いで使われることがほとんどです。相手をほめる際に使われることはほとんどありません。そのことを把握し、使い方には十分注意を払いたいですね。
《例文3》彼女は「偽善者だ」と言われたこともあったが、自分の信念を貫き、今や多くの信頼を集めている
周りからの理解を得られず「偽善者」と責められることがあっても、信念を持って行動を継続した結果、いつの間にか信頼を得ているというのもよくあることですよね。ドラマや映画、小説などでこのようなストーリー展開があると、見る側に大きな感動をもたらしてくれることがあります。
「偽善者」の対義語は
「偽善者」の対義語となる言葉について見ていきましょう。
偽善の対義語は「偽悪」
実際は違うのに、わざと悪人のようにふるまうことを「偽悪」と言います。また、何かしらの思惑や意図があり、あえて悪を装うという意味でも使いますね。
「偽悪」でよくあるのが、本当はとても優しくて素直な性格なのに、わざと悪人ぶるというキャラクター設定。漫画や映画などでよく見かけますよね。言動は乱暴なのに、万一の時は危険を顧みずに周りを助けるそのギャップが魅力というパターンは、割と多いかもしれませんね。
一方で、相手と距離をとることを目的に「偽悪」を装うということも。恋愛で言えば、別離を目的に悪人のようにふるまい、相手に嫌われるよう仕向けるというケースが該当します。なお、「偽悪」を装う人については、「偽悪的な人」と表現することが多いでしょう。
《例文》
周りと相談し、彼は気持ちを押し殺して偽悪的な人を演じることにした
「偽善者」と似ている言葉を紹介
ここからは、「偽善者」と似たイメージを持つ言葉を紹介します。どのような言葉があるのか、例文とあわせて見ていきましょう。
「偽君子」
読み方は「ぎくんし」。表面は君子(くんし)らしく見せかけるけれど、実際はそうではない人を表します。君子とは、学識や人格などが優れている人格者のこと。「偽善者」と近い意味を持つ言葉だと捉えていいでしょう。
《例文》
一見立派に見えるが、彼は間違いなく偽君子だ
「猫かぶり」
本来の性分を隠し、大人しそうなふりをすることや、知っているのに知らないふりをする人、そのさまを表す言葉です。うわべを大人しく見せかけることを「猫を被る」と言いますが、その関連語になります。「偽善者」と近い意味を持つと言えるでしょう。
《例文》
あの人の謙遜はうわべだけのもので、猫かぶりをしているとみんなわかっている
「食わせ者」
表現はそう見えないのに、実は油断のならない人物に対して使われる言葉です。気を許すと上手くだまされたり、弱みにつけこまれたりしそうな場合に、この表現を用いることが多いでしょう。「偽善者」の意味にも近いものがありますね。
《例文》
一見優しくて穏やかそうに見えるが、彼女は相当な食わせ者だから注意しよう
「独善的な人」
他人のことはかまわず、自分だけが正しいと考える人を指す言葉です。漢字に「善」が使われているため、「偽善者」と似たイメージを持つかもしれませんが、この2つの言葉のニュアンスは少し異なります。
善人のようにふるまう人を「偽善者」と表すのに対し、「独善的な人」は自己中心的で独りよがりな考えをする人を指します。どちらも好ましくない言動を表す言葉ですが、意味は大きく異なりますので、違いを把握し、状況に合わせて適切に使い分けたいですね。
《例文》
父は独善的な人だったが、不思議と他人に好かれていた
「偽善者」を英語で表現すると?
英語で「偽善者」を表現したい場合、どのような単語を使うのか見ていきましょう。
「hypocrite」
「偽善者」や「猫かぶり」などを表します。あまり見聞きしない英単語かもしれませんね。
《例文》
She went as far as to call him a hypocrite.
(日本語訳:彼女は彼のことを偽善者とまで言った)
何が偽善か、その判断は難しい
紹介したように「偽善者」はいい意味では使いません。他者の言動を批判する際に用いることが多いでしょう。しかし、何が偽善で、何が善なのか、その違いを明確に説明するのはとても難しいこと。その時の状況や事情もありますから、一概に「偽善者」とは言い切れない可能性があります。
誰かを「偽善者」と決めつけるのは、誤解を生んだり、不用意に他者を傷つけたりするリスクを含みます。他者に対して「偽善者」という言葉を使う場合は、そのことも意識したいですね。
最後に
「偽善者」について紹介しました。意味合いとしてはネガティブで、他者の言動を批判する場合に使われることが多いでしょう。「善」という漢字表記を使っているため、いい意味だと思う人もいるかもしれませんが、それは誤り。むしろ、「偽善者」を使う際はさまざまなことに注意を払う方がいいでしょう。そのためにも、意味や適切な使い方を把握しておきたいですね。
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